第六話 新たな居場所
腕の中で眠っているこの聖獣を守ろうとしたおかげで偶然にも俺はエルフ達に助けられた。気絶してしまったので何も覚えていないが今はこの幸運を喜ぶしかない。
「この先どうしたら良いのか、全く分からないな」
「くぅ~ん、くぅ~ん」
頭をなでながら思わず声を掛けると、つぶらな瞳で優し気な鳴き声を聞かせてくれる。
(情けないな俺は、こんなだからかりそめの勇者にもなれないんだよな)
「この里で暮らした方が良いと聖獣様はおっしゃっているよ」
見上げるとオルガと呼ばれたエルフが部屋の中に入ってきて俺を見下ろしている。その顔は凄く綺麗な顔なのだが何処か血液が通っていない冷たさを感じてしまう。
一緒に入ってきた巨漢のエルフのドロフェイが笑顔なので余計にそう感じてしまうのかも知れない。
「えっ……」
「私は巫女だから聖獣様の言葉が分かるのよ」
俺の知っている巫女とは意味が違うようだが、それはこの腕輪が勝手に翻訳しているせいなのだろう。
「あっそうなんですか……あの、貴方方が俺を助けてくれたんですよね」
「聖獣様のお願いだからそうしたまでよ、それより馴れ馴れしく頭を撫でないでくれる? さぁ聖獣様は此方に来て下さい」
すると聖獣は一度顔を合わせた後でオルガの方にジャンプして腕の中に入って行った。
「あのなぁオルガ、もう少しその人間に優しくしてやったらどうだ」
「ふんっドロフェイのくせにも文句を言うなんて偉くなったものよね、それよりクラウジーは何処にいるの」
「あれっそう言えばそうだな、あいつは影が薄いから分かんねぇんだよな」
「あ奴はもう帰ったんじゃないか、それよりお主達でその人間の世話をするんじゃぞ」
「「えっ何で?」」
目の前で拒否されると気分は良く無いが、その気持ちをグッと今は堪えるしかない。
◇◇◇
オルガに家でお世話になる訳にもいかず、結局はドロフェイの家で暫くの間暮らす事が決まった。
「まぁそのなんだ。俺はちょっと食いもんを仕入れてくるからその辺に座っとけ」
「有難うございます。あの、もし良かったら部屋の中を掃除してもよろしいですか」
ドロフェイの家の中は乱雑に床に色々なものが散らばっているので、このままでは一日も待たずに逃げ出したくなる。
「掃除か? まぁ構わんけどそんなに汚れていないだろ、暇つぶし程度にやってくれて構わんぞ」
「分かりました。少しだけやっておきます」
家に案内すると直ぐにドロフェイは出て行ってしまったが、あの感じだと俺に対してどう接したら良いのか分からずに逃げ出したというのが見え見えだ。
(それにしても汚い部屋だな、よくこれで汚れてないなどと言えるよな、まぁ洗剤がないのは仕方がないがせめてお湯があればマシなんだけどな)
最初に乱雑に散らかっている物を並べたり種類ごとにまとめ床掃除に移行したかったが、雑巾が見当たらないので掃き掃除だけしてから広くなったスペースで胡坐をして帰って来るのを待っている。
「あれっまともな部屋になっているじゃない」
ノックも無しに扉が開き、先程別れたばかりのオルガが大事そうに籠を抱えながら入ってきた。
「ドロフェイさんがいなくなったので片付けをしていたんですよ」
「やはりあいつは逃げ出したか、こんな事だろうと思ったわよ」
<暴れるなって、もう諦めろよ>
扉の向こうから何か揉めている声が聞こえてきたと思ったら、クラウジーを抱えたドロフェイが家に戻ってきて、見違えてしまった家に中を見渡しながら目を大きく開いている。
「何だよこれ、どうなったらここまで出来るんだ」
その言い方をするという事は家の中が酷い状況だと言う事は理解していたのだろう。あの言い訳は子供じみているが喜んでいる様なのでこれは良しとする。
「ただ片付けただけで、本当はもっとやりたかったんですが」
「ユウ、お前のその話方はどうにかならんか、人間の貴族みたいに聞こえて嫌なんだよな」
「そうなんですか、いや、そうかな」
「それでいいんだ」
ドロフェイは楽しそうに肩を叩いて来るが、その加減が分かっていない様で体の芯にまで響いているが、折角良くなっている雰囲気を壊したくないので耐えるしかない。
オルガは相変わらず無表情だが、何となく和らいでいるようなので安心したがクラウジーは目を細めて俺を値踏みするように見ている。
「何をしたんだ」
「んっどうしたのよ、この子は片づけをしていたんでしょ」
「そうじゃない。なんでお前らは分からないんだ?」
クラウジーのバリトンボイスが家の中に響き渡った。