第四十四話 討伐終了
「ねぇ何か不味い事になってない?」
「そうだけどさ、俺の相手はもうそっちじゃないんだよ」
ヘンリク達は最初こそ上手い具合にとどめを刺していたが、ワイバーンの回復力は想像以上でまだ飛ばないにしてもその尻尾を振り回しながら冒険者達を弾き飛ばしている。
向こうに協力しようと思ったが、まだ飛んでいる3匹の内の1匹が俺に向けて敵意を飛ばしてくるのがビンビンと伝わって来た。
「えっ街の中に行ったんじゃないの」
ジールは目を大きく開けながら右を見ると、地面すれすれの低空飛行をしながら速度を上げて飛んでくるワイバーンの姿が見えた。
「雷銃」
真っすぐワイバーンに向けて放つと、それに合わせるように火球を撃ってきて丁度中間地点で二つの魔法がぶつかる。
激しい爆発音が鳴り地面をえぐるとそれがぶ厚いカーテンのようになったが、その中からワイバーンが飛び出してきた。
「ちょっと効いていないよ」
「分かってるって、雷刃」
残された時間はあと数秒だが、その時間でお皿のような直径1m程の円形の雷を等間隔で5枚ほど目の前に出し直ぐに回転させる。
初めは「ブンブン」と言った風切り音だけだったが直ぐに「キュイィィィィン」と言った金切り音に変化していく。
「あっ」
「雷瞬」
一秒もしない内にぶつかってしまうがその前にこの場からジールを抱きかかえて逃げ出す。
ワイバーンは俺の逃げた先を視界に捉えているのか、【雷刃】を飛び越えて俺達を追いかけようとしたが、【雷刃】は瞬時に上に上がってその身体を輪切りにした。
「お~い、大丈夫か~」
「あんたねぇだから投げっ、避けて」
後方に投げてしまったジールに声を掛けると、血相を変えたジールが走ってきて俺の頭を飛び越えた。
急いで振り向くと、顔が半分になりながらも残った僅かな部分で俺に向かってくるワイバーンの姿が見えた。
その恐怖にしか感じない光景に思わず身体が硬直し、両手で顔を守るように覆い隠すと直ぐに身体全身に衝撃が走り、何mか弾き飛ばされてしまった。
「ちょっと、何やってんのよ、あんたなら避けられるでしょうが」
「あぁ……いたいよ」
ジールはワイバーンの上からランスで地面に串刺しにしようと考えたらしいが失敗し、ただ眉間にランスを突き立て一緒になって俺にぶつかってきた。
「くっそ~、やっぱり私じゃそこまでは貫けないか」
「なぁそれより痛いんだけど、ごぷいぅぁ」
口から言葉と共に血が噴き出すと、泥酔したときのように目の前が回っている。そして先程まで滅茶苦茶痛かったのだが、何故か気持ちよくなってきた。
「ちょっと、目を開けなさいよ」
◇◇◇
目を覚ますと硬い床に寝かされていて、穴の開いた天井から青空が見えている。
(そうか、此処はギルドか、んっどうして……)
ゆっくりと思い返すと、恐ろしい顔になってしまったワイバーンの姿を思い出し思わず叫び出しそうになってしまった。
(参ったな、あの映像はトラウマになりそうだよ、ただ【雷刃】は使えそうだな、んっ【雷円】かな? まぁどっちでも良いか)
かなりの切れ味を持つ【雷刃】だがかなりの欠点があって、今のところは前後5m程しか動かす事が出来ない。
今回みたいに向かってくる相手に対してなら使用できるが、此方から仕掛ける事はまだ無理だ。
身体の状態を確認するとどこも痛みを感じないのでかなりいい回復薬を飲ませて貰えたようだ。
「お目覚めですか、皆さんが戻ってくるまで此処で休んでいて下さい」
「みんなは何処にいるんです」
「勿論ワイバーンの所ですよ、数分間でも解体を止めてしまうと魔石しか回収できませんからね」
(あぁそうか、魔獣じゃなくて魔物だもんな)
話し掛けて来た女性はどこか小川さんに似ているので、久し振りにあの時の思いを思い出してしまった。
(せめて小川さんは一人になっていないといいな、くっそ~召喚した奴はぜったに許さないからな)
怒りに身を任せて起き上がると、ギルドの外が騒がしくなってきた。
ヘンリクを先頭にしてギルドに戻って来た冒険者の顔は誰もが笑顔で興奮している。
「さぁここでどんどん飲んで食べようぜ、そうだ、ギルドの職員や食堂のおばちゃん達も好きなだけ食って飲んでくれ、全て俺達のおごりだからな~」
「「「おおぉ~今日は宴会だ~」」」
一人頭どれぐらいの利益になるのか分からないが、これだけ浮かれている姿を見てしまうと相当な額が貰えるのに違いない。
「お目覚めだね、あんたも天井を弁償してもかなり入って来るよ」
俺の所にやってきたジールは可愛らしい笑顔を見せてくれているのだが、その身体には解体の時に付いたであろう血がべっとりと付いている。




