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第五話 この世界の秘密

 作務衣のような服に着替えていると、徐々にこの不可思議な状況に心臓が激しく鼓動を奏でてきた。


「着替えが終わったら少し落ち着ける場所で話そうかの」


「はいっお願いします」


 緊張の為に声が上ずってしまったので普段なら恥ずかしくなると思うが今は何も感じない。


 案内された部屋は老婆の私室のようで、まるでロッジのような造りとなっていた。


 そして、この俺も緊張しているが、一緒に入ってきた若い人達も何故か緊張しているようで重苦しい空気がこの部屋を包み込んでいた。


 狐もどきは俺の腕の中で眠っているが、そのぬくもりだけが俺の心の拠り所となっている。


「さて、それではこの状況を説明してやるが、信じるか信じないかはお主に任せるし、それはオルガ達もそうじゃからな」


 老婆は重厚な椅子に深く腰掛けながらゆっくりと話し始めた。



 ◇◇◇



 老婆が話した内容は馬鹿馬鹿しい程の滑稽な話だったが、近くに座っている女性の長い耳をよく見ると作り物に見えないし、その隣にいる巨漢の男は存在自体が普通の人間とは思えない。


(本当にエルフなのか……それにこの子は聖獣だと……確かに動物園でも見たことはないけど)


 老婆に話はまだ途中だと思うが、この部屋にいる人間が俺だけだと思うとどんどん呼吸が荒くなり、息を吸い込む事が出来なくなって意識を手放してしまった。


(夢……じゃないのか)


 再び目を覚ますと先程の部屋の中に一人でいるので、あの老婆も男も女も現実だったと思うしかないのだろう。


(ここはエルフの里だと)


(腕輪のおかげで言葉が分かるなんて都合が良すぎないか)


(俺は十日も魔法陣の中にいたのか)


(魔素とやらを身体が吸収してるんだっけな)


(どっかの奴が召喚したとはね)


(それなのに俺は何であんな所にいたんだよ)


(かりそめの勇者だと、何だそりゃ)


(この世界の人間より魔力が高くなるだと、何だそりゃ)


(あのまま外に居たら死んでいたんだと、酷すぎるだろ)


 老婆の話を思い出しながら頭を抱えているとゆっくりと扉が開き、老婆だけが部屋の中に入ってきた。


「どうじゃね、少しは落ち着いたかね」


「お騒がせしました……どうして俺だけが召喚されたんですかね」


 俺の中の勇者としての素質が召喚の対象となり、会社のみんなはあのバスの事故で死んでしまったかも知れないと思うと呼び出した奴にこの怒りをぶつけたくなった。


「ん~そうじゃな、いいかい勇者召喚とはかなり時間も使うし生贄も必要なんじゃ、それなのに一人しか召喚出来んとなると効率が悪いとは思わんか? 実はな……」


 勝手に自分を中心に考えてしまったが、老婆によると術師の元には勇者の素質のある者が飛んで行っている可能性が高いそうだ。


 俺はその素質のある者の近くにいなかったので一緒の場所には行けず、ただ中途半端に巻き添えになってしまったというのが老婆の予想だ。


「俺は……だったら、召喚士の元に言った奴はそれなりの待遇をして貰えるだろうけど、俺と同じように弾かれた者は大変な事になっていますよね、だったら直ぐに助けにいかないと」


「そ奴らがいたとして生きていると思うかね」


 老婆の話の中に、俺はちゃんとした処置をしたから魔素を吸収できる身体に作り変えられて生きていられると言っていた。


 そうなると、何も助けてくれる人がいなければ…………そう言う事か。


「あの何で勇者召喚なんてするんですかね、仮に俺が勇者だと言われても……魔族やら魔獣やらと戦いたくないですよ、多分みんなもそうだと思いますよ、そんな召喚に意味なんてありますか」


「いいかね、お主らは勇者じゃなくてかりそめの勇者なんじゃ、何故かというとまともに勇者として戦う奴はまれだからじゃ、それ以外は思うがままに暴れる奴が多くての、結果は仲間割れか本当の勇者に討伐されるんじゃ、だから禁術なんじゃよ、しかしな魔道具も進歩しているのでの、もしかしたら奴隷として好きに動かせる魔道具を作った奴がいるのかも知れん」


「そんな……それで何をやらせるつもりなんですか」


「他国や他種族の戦争の道具にするつもりなんじゃろうな、この世界の本当の勇者には敵わないかも知れんがその代わり数が多いからの、まぁあくまでも儂の予測でしか無いんじゃが」


 本当の事は分からないがもし本当に会社の仲間がそんな目に遭うようだったら、自由に動けるこの俺が助け出して一緒に帰りたいと思う。


「分かりました。自由に動けるこの俺が仲間を助け出します」


「落ち着くんじゃ、儂が言ったのはあくまでも予測だと言ったじゃろ、それに誰が召喚したのかも分からんのじゃぞ」


 禁術となっているのでそれがバレてしまったら呼び出した者は重大な犯罪者となるので、そう簡単には見つからないようにするはずだし、そもそも勇者の素質があるだけで直ぐに強くなる訳ではなく、そうなるまでにはかなりの時間が掛かるそうだ。


「俺はどうすればいいんだ」


「何度も言うが落ち着くんじゃ、いいかい全てを話した訳じゃないし、今聞いた話だって全てを理解した訳じゃないじゃろ、まぁお主は聖獣様を助けたのだからこの世界に順応出来るまでこの里で暮らす事を許可してやるぞ」


 そもそも勢いで仲間を助けるなんて言ってしまったが、今の俺には何の力も無いし此処を出てから何処に行けば良いのかも分からない。


 かりそめとは言え勇者の素質も無い俺はただの無力な男で、元の世界と何ら変わりがない。

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