第四十二話 王子の直属部隊
話し合いが順調に進み始めると昨日の夜の疲れが襲って来て瞼がどんどん重くなってくる。
「ちょっと大丈夫なの」
「流石に眠いよな、このまま討伐に向かうとなるとちょっと辛いかな」
「だったら今の内に寝ておいた方が良いよ、衛兵と打ち合わせに行っているギルド長が戻って来たら直ぐに出発になるからね」
徹夜などは元の世界でも何度か経験しているし、野営の時はあまり寝れないので慣れているはずだが今回は違った。
救助活動でがれきの下から出てくるのは生きた人達だけでは無いので、それを見てしまうと精神がどんどん削られてしまう。
まだ初めの頃は怪我人を救助すると回復薬で直ぐに元気になる人が多かったが、朝方になると息をしていない人がほとんどだった。
◇◇◇
「…………だと、馬鹿にしているのか」
「仕方が無いだろ、衛兵達や王都から来た者達も見張りが主な任務なんだとよ、それなのに儂が文句を言える訳無いだろうが、何せ相手はこの国の第一王子なんだぞ」
怒鳴り声が聞こえて来たので目を開けると、どうやらジールの膝の上で眠っていたようで下から見上げるジールの顔を見ると、何だかドキッとさせられる。
「なぁどうしたんだ」
「んっちょっとね」
ゆっくりと身体を起こしながら騒がしい方を見ると、ギルド長が冒険者達に囲まれていた。
「あのね……」
ギルド長が打ち合わせで決まった話を告げると、冒険者達は怒りだしてしまったらしい。
その理由はワイバーンが前日現れた街の外れにある牧場は王子の直属の部隊である【六宝星】が待ち構え討伐するので、他の者は一切ワイバーンに手を出してはいけないらしい。
ただギルド長も食い下がり、邪魔にならない離れた場所でしかも街の外でなら討伐をしてもいい事になったそうだ。
「そんな場所にワイバーンが現れるのかよ」
「来たとしても遥か上空じゃない。どうやら六宝星の初陣なんだってさ、だから手柄を独り占めしたいんだろうね」
ニックスヒリア王国の王の子供の中で唯一の男が、メティアス=イルクナーでまだこれと言った実績が無いのでこれを実績にしたいのだそうだ。
ちなみに第一王女は他国に嫁ぎ、第二王女は趣味に明け暮れる王女で、第三王女は各地を回って領主の不正を咎める為、市民の中では第三王女を女王にと推す声が多い。
「いい加減にしろ、難しいかも知れんがそれでやるしか無いんだよ、文句があるなら儂じゃなく王子に行って来い」
するとそれに答えるようにB級のヘンリクが大声を張り上げた。
「よしっこうなったら外でやってやろうじゃねぇか、どうせ衛兵の配置場所とは正反対なんだ。バリスタを勝手に借りてやろうぜ」
「「そうだな、奪ってしまえ」」
「お前ら、そんな事をするんじゃない。儂が借りて来てやるから落ち着くんだ」
◇◇◇
六宝星はバリスタを必要としていなかったので、この街にあった二台のを借りる事に成功したギルド長はB級冒険者を中心に何処に配置するかを話し合った。
「結局班分けなんて意味無かったな」
「仕方がないよ、だって成功したら王子の初陣の成果を奪う事になるからね、そりゃ抜けたくなるって」
「それでも十人ちょっとは残ったから良いのか」
「この人数だと一匹倒せればいいのかな、それも配置する場所に来なかったら意味無いけどね」
「そうだよな、被害も出なかった場所の近くだろ」
「まぁ仕方がないよ、それに運次第でしょ」
俺達が全員で配置する場所は餌場となる牧場のちょうど反対側の城門の外で、平原が広がっているので戦いやすいが全てはワイバーンが降りてこないとどうにも出来ない。
ただワイバーンが隠れていると思われる山から真っすぐの場所にあるので此処の上を通過して牧場に向かうのだと睨んでいる。
「あのさ、その六宝星ってどういった部隊なんだろ」
「う~ん、バリスタを必要としないって事は強力な魔法使いがいるんだろうね、どうする見に行ってみる?」
「見に行っている間にワイバーンが来たら困るからいいかな、これが終わったら見に行こうよ」
この国の王子の直属の部隊の実力がどの程度なのかやはり気になってしまう。もしかしてみんなと合流する時の障害になる可能性があるのでせめてどういう部隊なのかは知っておきたい。
「おいっ空気が変わったぞ、集中しろ」
ヘンリクが盾を構えながら叫ぶと、これまで聞こえていた鳥のさえずりは聞こえなくなり、風の音しかしなくなった。




