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第三十六話 もう嫌だ

 ドロフェイはその性格のせいか一度も振り返らずに王女の護衛団と合流し、そのまま行ってしまった。


 オルガもそのつもりだと思うが、セレニテがその手から逃げ出し俺の所に戻って来たので嫌々戻って来た感じだ。


「セレニテ様、もう戻らないといけませんよ、今は元気ですがちゃんと儀式をしないと暫く動けなくなってしまいますよ」


「くぅ~ん」


 セレニテの声を聞いてしまうと俺の視界が涙でぼやけてしまうが、それを見ていたオルガは呆れたように俺を見ている。


「里に来ればいつでも会えるわよ、それにねもう少ししたらセレニテ様の姿は変化してしまうの、そうなったら禄でもない人間に狙われるかもしれないのよ」


「分かってるって、セレニテ、俺は元の世界に戻れる事になっても必ず会いに行くからな」


「馬鹿っ」


 感動的な別れなのにいきなりオルガに怒鳴られてしまった。


(あっそうか、ジールがいるじゃないか)


 元の世界と失言をしてしまったがジールはどうやら聞いていなかったようで無言で馬を操ってくれている。


 二人だけになってからあれ以上失言しないように言葉には気を付けながら、記憶が無い設定を守り、何とか会話を続けるがやはりジールの話が中心となってしまう。


 たわいのない話を三日も続け、そろそろ口数が少なくなってきた頃に前にいるジールの雰囲気が少しだけ変化した。


「あのさ、私の事どう思ってる」


「どうって、変わった貴族って感じかな」


「そうじゃなくてさ、仲間だと思っているのかって事だよ」


「えっ。二人だけしかいなくなったけど一応パーティって事なんだから仲間だろ」


 ジールの後頭部しか見えないのでどういった表情をしているのか分からないので、少しだけ緊張感が走って来る。


 はっきり言ってしまえば最初は迷惑でしか無かったが、一緒に行動しているとそんな事は思わなくなった。


 それは多分、オルガ達もそう思っていただろう。そうだと良いが……。


「だったら何時話してくれるのかな、あの時言った元の世界って言葉がずっと気になっているんだけど、どういう事なの」


 一瞬にして体温が下がって行く。この三日間の間ずっとジールは俺が言い出すのを待っていたのかも知れない。


「そうだよな、何て言ったら良いのか説明は難しいんだけど……ちょっと待っていてくれないか」


「……いつかは話してよね、それまではもう聞かないから」


「あぁ……」


 ジールの背中を見ていると直ぐにでも話してしまいたくなる衝動に駆られるが、その気持ちをグッと押さえ込んだ。


(こんな感情に流されちゃ駄目なんだ)


 少し空気が重くなってしまったせいなのかジールは馬を止めた。


「ねぇあそこにいる連中ってもしかして……」


 ジールが見ている方向には小川の畔で十人程の男達が集まっている。嫌な予感しかしないがどうやらその予感は当たってしまった。


 その連中も俺達に気が付いたようで馬に跨り始めた。


「どうする? もうさ戦いたくないんだよな、此処から一番近い村にでも逃げるか、そうすれば追って来れ無いだろ」


「村は駄目でしょ、せめてちゃんと衛兵がいる街に行かないと」


「そうだよな、だけど十人か、とりあえず逃げようぜ」


「そうね」


 ジールは全速力で馬を走らせたが此方は二人で乗っているので徐々に追いつかれ始めてきた。


「ねぇもう殺しちゃってよ、あんたなら余裕でしょ」


(そうだけどさ~ちょっと引くな~)


「嫌だよ、馬は殺したくないんだよね」


「何言ってるのよ、奴らに決まってるでしょ」


「そんなに怒鳴るなよ、冗談に決まってるだろ」


 分かってはいるがまた人殺しをしないといけないと思うと気が重たくなってくる。これ以上逃げ切る事は不可能なのでやるしか無いのは分かってるが……。


「なんであんな目に遭って襲おうとするかな、雷爆」


 あの連中と俺達の馬との間に【雷爆】を落とした。予想通りに砂が巻き上がり奴らの視界を遮る。


「ねぇ何やってんのよ」


「これなら逃げられるだろ、向こうの馬は驚いて足を止めたしな」


「ふ~ん、まぁいいけどね」


 ジールは不満に思っているのかも知れないが、この魔法を見たら奴らはもう諦めるだろう。


(あ~もう、早くゴルゴダに着かないかな)


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