第三十二話 参ったな
ゴルゴダの街を目指す事になった俺達は早朝から街を出ようとすると、城門の前で立派な白馬に乗り青いランスを背負ったジールが待ち構えていた。
「おいおい、あれは付いてくる気なのか」
「そうみたいね、まぁもういいんじゃない、言うこと言ったんだしね」
「そうだな、後は成り行きにまかせるか」
二人はジールを受け入れるようだが、嫌味を言った理由を知っている俺には簡単には受け入れたくない。
「大丈夫かな、正体がバレたら不味いんだよな」
「こうなったらバレないようにするしかねぇんじゃねぇの、まぁ練習だ、練習」
「そうね、それにバレてもいいように口説いておきなさいよ、そうすれば秘密を守る側になるでしょうね」
オルガの提案は馬鹿バカしくて反論する気にもなれなかった。
確かにジールは綺麗ではあるが、俺の好みは小柄でおしとやかな女性が好きなんだ。
(そう、春奈先輩のように……どうにも出来ないんだけどな)
◇◇◇
二人は颯爽と馬に跨り街を出て行くが、俺はオルガの企みによりジールの服にしがみ付いている。
「ちょっと掴み方は何なんなのよ、気持ち悪いんだけど」
「仕方が無いだろ平民が貴族に触れたらいけないって言われたんだよ」
「だからって服を持たないでよ切れたらどうするのよ」
「じゃあいいのか、腰に手を回すからな、いいんだな」
「あ~あんたがこんな情けない奴だとは思わなかったな、いい、確かに私は貴族だけど今は冒険者なんだよ、変な気遣いは止めてよね」
「分かったよ」
俺とジールのやり取りをオルガとドロフェイは楽しそうに見ている。
「中々いい雰囲気じゃないか」
「そうね、あれで実力があればもっといいんだけどね」
「そう言うなって、あいつには言えないが【サムライ】が本当にユウの世界の奴か分からないからこっちの世界の人間の仲間を作った方が良いのかもしれないな」
◇◇◇
今日は殆ど休まないで馬に乗りっぱなしなのでお尻が限界を迎えて来た。
「なぁお尻は痛くないか」
「私と同じ動きをしてないからでしょ、座りっぱなしだからそうなるのよ」
ジールは腰を浮かしたりしているのは知っていたが、乗馬などやった事の無い俺にとってはそのタイミングが分からないし、そもそも俺の場所にはあぶみが無いから出来る訳がない。
「二人とも今から飛ばすから俺について来い、オルガは聖獣様を守ってくれよな」
「当たり前でしょ、言われなくても分かってるわよ」
「そうですか、はいはい」
ドロフェイはどんどん速度を上げ、ジールはその後を追うのに必死になっているようだ。
そのおかげもあってか、ドロフェイが不用意に聖獣様と言った事に違和感を感じていないようだ。
「何があったんだ」
「この先の曲がり角の所で争いが起こってるんだ。だから準備を怠るなよ」
「えっ本当なの」
「ドロフェイの感知は本物だよ、まぁ行けば分かるさ」
横並びになりながら左に曲がった道を曲がると一台の馬車が脱輪していてその馬車を他の馬車が囲むようにしながら守っている。
そしてそこでは同じような恰好をした連中が剣を抜きながら殺し合いをしていた。
「どっちがどっちなんだ?」
「う~ん、どうやら護衛は下級冒険者かも知れんな、ったく分かりづれぇや」
「護衛よりも馬車を狙っている奴から倒せば良いんじゃないの」
「そうするか、盗賊共、俺が相手をしてやる」
ドロフェイは馬車に向かって剣を振り上げている男を盗賊と認定し、一足飛びに近づくとその首を簡単に跳ね飛ばした。
(よくあんな重いハルバートで簡単に操れるよな、本気を出したドロフェイは動きを追うのがやっとだよ)
仲間の首が飛んだのを見て怒りに満ちた目で若い男がドロフェイに向かって剣を振り上げるがその剣が少しも下がる事なく頭上からまた下まで一気に切り裂かれた。
(容赦ないな、人間てあんなに血を吹き出すんだ)
「うっうぐっ、ごぼぉ~」
ドロフェイによって切り裂かれた人間だけではなく、至る所で血が飛び交っているので見ているだけで気持ち悪くなって胃の中の物を全て吐きだしていく。
「ちょっとどうしたのよ、まさか毒矢にでも当たったの」
「そうじゃないんだ、只ちょっとな……」
ジールはまるでこの光景を気にしていないようだし、俺だって人型のゴブリンやオークを何体も殺して慣れているはずだが人間の殺し合いはまた別だったようだ。
(これが現実か……)




