第三十話 雰囲気の悪い食卓
(どうして此処にいるのだろうか? ずっと居心地が悪いんだけどな)
ジールを治療院に運んだまでは良かったが、その後で知らせに走ったホムラの帰りを待っていたのが失敗だった。
治療師からジールの状態を聞いたホムラは報告をしなければいけないと言い此処から出て行ってしまったので帰っても良いのか分からずジールの側にいると、一時間もしない内にこの治療院を馬車が取り囲み、赤揃えの鎧を着込んだ屈強な兵士とともに貫禄のある初老の男とブロンド髪の若く見える綺麗な女性が病室に入って来た。
「あぁ何てことなの」
「騒ぐでない。問題は無いと聞いただろうが」
「だったら何故目を覚まさないのです」
「奥様、ジール様はかなりの出血をしてしまったので回復が少し遅れているそうです。私のせいで申し訳ございません」
後ろにいたホムラはこの世の終わりかと思う程に憔悴しきっている表情で話している。
誰かと確認するまでもなく初老の男は領主であり、そしてこの女性は夫人に決まっていた。
「僅かな時間とはいえ冒険者をしているのだからこうなるのも覚悟の上だろう……ただな、ホムラが報告したあの事は本当なんだろうな」
「はいっユウ殿が救ってくださいましたが、その時に服どころか下着までこの男が切り裂いたのも事実です」
(おいっお前は何でそんな事を言うんだよ、俺に恨みでもあるのか)
「貴方っジールは貴族でしかも女性なんですよ、どうしてそんな卑猥な事をしたんですか」
「直接傷口に回復薬掛けたかった事もありますし、そもそもジールは男だと思っていましたので……すみません」
女性だと知っていたら決してそんな真似はしなかったが、あの時は時間が無いと思っていたし男だと信じていたのでそうしたまでだ。
「男の振りをした娘が悪いのだろうよ」
「すみません」
領主は頭では理解しているようだが、本当の所はどうなのか分からない。
「君はユウと言うのだね、姓はあるのか」
「いえ、平民ですので」
この世界では平民は姓を持つ事が許されないそうなので、この世界の平民の振りをする為にも津崎と言う姓を言う訳にはいかない。
◇◇◇
このまま解放されたらどんなに良かったのか知らないが、領主の家に招待されてしまった。
そして広すぎるダイニングテーブルで奥に領主と夫人が座り、一番入口に近い席に俺が座って食事をする事になってしまっている。
この家は領主の家らしくこの部屋に入る迄の廊下は長く、数々の調度品が並べてありかなりの豪華な家なのでその事を褒めたのだが、二人ともにこりともしてくれなかった。
(会話のきっかけに失敗したか、だけど別に俺が来たいって言った訳じゃないんだからもう少し愛想を良くしてくれないかな、そんなに平民と一緒に食卓を囲みたくないなら呼ばなきゃいいのに)
重い空気が流れてるので早々に立ち去りたいが、中々そのタイミングが掴めない。
「貴方は冒険者としてどれほどなさってるの」
体感時間でかなり時間が過ぎた後の夫人が最初に発した言葉がこれなので、この表面上の薄い話を広げるしかない。
「まだ一月も経っていません。ジールさんとは新人訓練の時に知り合いました。ジールさんはかなり勉強なさっていたのかその動きによどみは無く……」
「そんな事はどうでもいい。それより君は記憶を無くしてどういう訳かあのファウンダーエルフの里で生活を共にしていたらしいな、それに間違いはないのか」
「はい、その通りです」
「エルフの里はどういうところだね」
知りたい気持ちは分かるがエルフの里の中の事は詳しくは言わない方がいだろう。
「そうですね、この街と大差はないように思えます。」
これは全くの嘘で一見エルフの里の方が田舎ではあるが、魔法をふんだんに使用しているのでかなり住みやすい。
「そうか、それとだな君の事は色々調べたが何も出てこなかったんだ。もしかしたら君は他の国の人間かも知れんな」
「そうかも知れないですね」
「ただな別の問題も出てくるがそれは分かっているのか」
いきなり領主の目つきが鋭くなったので、俺の事を他国のスパイか何かと思っているのかも知れない。
「あなた、それは考え過ぎじゃありませんの、この方が一人でこの街に来たなら嘘の可能性が高いですが、あの者達と一緒に来たと言う事がそれを示しているんじゃありませんこと」
「それもそうだな、彼等が人間の思惑に関与する訳が無いか」
もし俺が一人でこの街に来てしまっていたら面倒な事になるところだったのでホッとしているが、人間にとってエルフはどう思われているのか少しだけ疑問に思った。
居心地が悪すぎるのでいい加減帰ろうと思い立ち上がろうとした時にこの部屋に執事が飛び込んできた。
「旦那様、ジール様が目を覚ましました」
また週明けに再開します。




