第二十七話 さぁ逃げるぞ
山を駆け下りているのは見覚えのある二人なので、このまま無視する訳にはいかなくなった。
「お~い、こっちの方が安全だぞ、その下には魔獣が回り込んだようだからな」
「あっユウじゃないか、何でこんな所にいるんだ」
「いいからこっちに来なって」
(領主の息子だったら冒険者なんかしてないで違う事をすればいいのに)
先頭を走っているホムラの肩を掴んで走るのを止めさせ、ジールはこっちにやって来た。
「いやぁ、ちょっと手こずったんでね引き上げようとしていたんだよ」
(どう見ても逃げていたようにしか見えないけどな)
「ジール様、偶然ではありますがこれでもう安心ですね」
「あのさぁ勝手に俺を巻き込むなよなそれでも冒険者かよ、それにどうして君は武器を持っていないんだ?」
ジールの分まで荷物を背負っているからだとは理解できるが、だからといって何があるか分からない山で武器を持っていないのはどう考えても気が狂っているとしか思えない。
「何処に武器を持つ手があると言うんだ。この袋の中にはジール様が討伐した獲物が入っているんだから武器を持てるわけないだろう」
「だったら静かに逃げればいいだろ、あんな風に走るなよ」
「私の為に荷物を持っていてくれるんだ、ホムラの事は私がちゃんと守る」
従者が主人を守るのだと思っていたがどうやらそれは思い込みだったのかも知れない。まさかジールがホムラに対してそんな風に言うとは思わなかった。
「ちょっと待って……雷銃」
忍び寄って飛び掛かってきた魔獣は頭を吹き飛ばす事に成功したが、その後ろにいた二匹には木を利用して【雷銃】を躱して姿を消してしまった。
「やはり凄い魔法だな」
「何がだよ、こんな音を出したんだから奴らの仲間が直ぐに此処に来るぞ、それにしてもヴァーウルフ何て二人しかいないのに手を出すなよ」
嘆きの森では数が少ないヴァーウルフだが、普通の狼より身体は大きくその割には俊敏さは失っていない。
それに群れで襲ってくるので少人数では決して相手にしたくない魔獣である。
「ユウの魔法なら楽に殺せるんじゃないか」
「そうですね、それでしたら死体を分けてもらいましょう、ヴァーウルフの体毛は飾るには最高の毛皮ですから」
ホムラが頭が足らないのは分かっていたし、彼だけ試験に落ちたのだから戦力にもならないのは分かっている。
ただジールはE級に上がれたのにこの状況を正確に理解していないようだ。
「あのさ、奴らの集団戦を甘く見たらいけないよ、それに動きが速いからもっと慎重に狙わないといけないから全部を倒すのは難しいだろうね」
「そうか、だったら私がおとりになって戦うからじっくりと狙って撃ってくれ」
いきなり走り出そうとしたジールの手を掴んでその動きを止める。
「痛いな、いいから私に任せてよ、おとりになればいいんでしょ」
「あのさ、そんなに少ない数じゃないし動きも早いって言っただろ危険なんだよ、いいから逃げるぞ」
「……分かったよ、下山するか」
(俺に期待をしないでくれよな、さっき迄逃げる事に精一杯だったのにさ)
ホムラを先頭にゆっくりと歩きながら降りていく。何時ヴァーウルフが現れても良いように何かを出しておきたいが音がしてしまうのでわざわざ居場所を教える事になってしまうから諦めるしかない。
ようやく麓が見えて来たので少し安心したがその期待は早々に裏切られることになった。
「何だよ、ここに待ち伏せしてたのか、やはり頭がいい連中だな」
「君の魔法で全てを倒せる?」
「ん~ちょっと考えさせてくれ」
(雷瞬を使えばいけそうだけど、そうなるとジール達が心配だしな、あ~もう一人の方が楽だよ)
向こうも俺達を発見したらしく続々と集まり始め、三十体以上がいるようだ。
「こうなったら正面突破をしよう、君はなるべく倒してくれ」
「止めなって、それより後でかなり苦しむと思うけど死ぬよりはいいよな」
「えっ何をするつもりなの」
「苦しむってどういうことですか」
ホムラが大事そうに抱えている袋を投げ捨て、背負っている荷物もその場に置かせた。
「さぁ行こうか、雷瞬」
二人の身体を抱えながら一気に走り出す。ヴァーウルフ達は動きは遅いがそれでも襲う為に動いているので侮れない存在だ。
(不味いな、視界から消える場所まで逃げておきたいんだけど無理かな)
ただ街道に入ってしまえば魔獣除けの魔石が置かれているのでそこまでは追って来ないと信じるしかない。
(後2秒で付くかな?)




