第二十六話 一人で山に行こう
暇になってしまったので簡単な仕事が無いのかギルドに張り出されている依頼票を見ている。
一人でも討伐出来そうな魔獣か魔物の依頼が無いか探したが良いのが全然見つからない。
どんな魔獣でも良いのなら草原や森の中に入ればいくらでもいるだろうが、どうせだったら依頼されている魔獣を討伐した方がお得だろう。
じっくりと時間を掛けて依頼票を見ているのだが中々近場には無いようだ。
するとよく知っている人物が俺に声を掛けて来た。
「討伐依頼は一人で行くもんじゃないぞ、エルフのお仲間は飛竜討伐に行っているそうだから暇なのはわかるけどな」
「そうなんですよラウルスさん、伝言では戻って来るまでにまだ数日かかるそうなので自分に出来る依頼を受けたいのですが」
「それで討伐依頼か」
「そうですね、ただ依頼がないので近場の山で狩りをしに行こうかと今思っていた所です」
こうなったらハイキングに行くつもりで山に行こうとしたのだが、動き出した俺の肩をラウルスがしっかりと掴んだ。
「だ・か・ら・単独行動はするなって言っているんだ」
「そんなに奥までは行かないから大丈夫ですよ」
「あのなぁ……もしかして嘆きの森でも一人で行動してたのか」
ラウルスが真顔で聞いて来るが、あの中に里があるのだから当たり前の事だろう。どうしてそんな顔で聞いてくるのか意味が分からない。
「長い間暮らしていましたから、そりゃありますよ」
「そうか……だからか……」
ラウルスは俺が目の前にいると言うのに自分の世界に入ってしまったようで、顎に手を当てながら何かを呟いている。
(どうしたんだ? もしかして危ない人だったりして)
そっと離れようとしたが、その瞬間に目が合ってしまう。
「あぁもう行きますね」
「お前さぁ、臨時でいいから俺のパーティに入らないか、俺は今回でB級になったし仲間もC級ばかりだぞ」
新人研修で数日間過ごしていたのでラウルスは良い先輩だとは思うが、残念ながらその提案を受け入れる訳にはいかない。
「すみません、ラウルスさん達クラスなら日帰りの依頼なんかやらないですよね、俺にはそこまでの時間はないので」
「そうか、そうだよな、ただいつかは一緒に仕事をしような、君のような魔法使いは貴重なんだよ」
◇◇◇
結局俺は一人でこの街の北西にある山を登る事にした。
この山にはどういった種類の獣や魔獣がいるのか知らないが、それほど奥に行かなければ俺一人でも対処出来るだろう。
この辺りで<嘆きの森>以上に危険な場所はないとラウルスが言っていたのでそれを信じようと思う。
(ただのサラリーマンだった俺がこんな事をするようになるとはな、俺も随分と変わったよな)
道なき道を登るのはそんなに苦ではないし、迷うような山では無いので問題は無いのだが、それよりも問題は獣はいるが魔獣は全くいない事だ。
「これじゃ本当にハイキングだよな、こうなったら討伐は止めて薬草でも探そうかな」
薬草の採取はおばば様から鍛えられたのでその知識をこの山でも使えるだろう。
すっかりと薬草採取の気分になったので本気でハイキング気分になって来た。
そもそも魔獣だと魔石と取り出すのにいちいち解体をしなければならないので、知らない魔獣だったら探すだけでも厄介だ。
◇◇◇
「リカル草も生えているし、ズボークもあるじゃないか、それにいい質をしているぞ」
興奮した俺は周りに誰もいない事を良い事に独り言を存分に言いながら採取をしている。
「んっこの声は?」
「…………って……に……けら……」
「何処だよ、よく聞こえないな」
上の方から何やら誰かが話している声が聞こえてくるが、いくら耳を澄ましてもその内容は上手く聞き取れない。
(気にしなくていいか、心霊現象じゃ無いだろうしな)
もっと上に登れば珍しい薬草がありそうだけど、別に他の冒険者に会いたいとも思わないので他の場所に行く事にする。
草木をかき分けながら探していると何だか嫌な感じがしてきたので腰を下ろして魔力を探ると無数の魔獣が上にいるのが分かった。
もう討伐をする気分でもないし、数も多そうなので上にいる魔獣に見つからないようにゆっくりと山を下って行く。
(そういやあの声は上から聞こえていたよな、まぁ冒険者だと思うから気にしなくていいよな、数が多いけど頑張って倒しなよ)
関りを持たないように静かに降りていくと、上から走って降りてくる人の姿が見えた。
(何やってんだよ、そんな勢いで走って降りたら転ぶぞ)




