第二十二話 俺だけで
エルマーとラウルスは上位種のゴブリンをそのまま逃がす訳にはいかず、暗くなり始めた森の中を追いかけて行った。
エルマーは俺を一人にするのに難色を示したが、昼間でさえ追いつくのに必死だったのに暗くなってしまったら彼等に追いつける自信はない。
「ここには俺が居れば何とかなりますから二人は行って下さい、上位種は厄介なんですよね」
「それはそうだが……分かった。お前は此処から動くなよ、いいか、彼女らが出たいと言っても森の中に入らせるな」
まだ動揺している人達を俺だけで移動させる事は無理なので力強く頷いた。
◇◇◇
「皆さん、こっちに来て貰えますか、先ずは汚れを綺麗にしてそれから食事にしましょう」
この中で何があったのか想像はつくが、俺には心のケアなどは出来ないのでせめて身体の汚れだけでも落としてあげたい。
雷属性以外は苦手だと言っても温水や温風を出す事ぐらいは出来るのでこれで少しは気分が落ち着いてくれたらと願う。
(オルガやクラウジーだったら服や体の汚れが綺麗に落とせるんだけどな)
捕らえられた人達は大人の女性が八人と小学生にも満たない子供が六人いて、誰も動かないので勝手にやらせて貰った。
魔法をかける前は焦点の合っていない放心状態だったが、少しだけ清潔になった事で表情に感情が出てきたかのように思える。
(これ以上何と声を掛けたらいいのか分からないな)
マジックバックの中には干し肉しか入っていなかったが、それを一人一人に渡すと貪るように食べ始めている。
「ぐぎゃ、ぐぎゃ」
微かにゴブリンの声が聞こえ、彼女達には聞こえないで欲しいと願ったが、残念ながら聞こえてしまったようだ。
「ちょっと、ゴブリンが帰って来たんじゃない」
「いやぁぁぁぁぁぁ」
「もう逃げましょうよ」
「森の中へ逃げ込めば何とかなるかも」
恐怖に顔を引き攣らせた人達はパニック状態になり、このままでは危険な状態になってしまう。
「皆さん、落ち着いて」
杖を上に掲げ、その先から白く発光した鳥を出して周囲を旋回させる。
(ヘリコプターのような音はちょっとおかしいんだけどな)
「もう一度言います。落ち着いて下さい。私だけが此処にいると言う事はこの場を動かないでくれたら守れるからです。それに今聞こえたゴブリンは駆除出来ますのでこの光る鳥の動いている円から出ないで下さい」
半分は嘘で、光る鳥はただのお遊びであるし、暗くなってしまったら確実に一人で守りきれるかどうかは分からない。
それでも俺は決してそんな気持ちを顔には出さないように気を引き締めた。
「魔力を探るので静かにして下さい」
精神を集中させると何となくだがこの里の中にはまだ二つのグループが存在しているのが分かった。
(向かってくる奴らと隠れている奴らか、さてどうするか)
正確な数までは感知できないので姿を見せるまでその数は分からないが、ゆっくりと近づいて来るところを見ると少しは知恵があるようだ。
(ちまちましないでくれよな、そうなるとだな)
散らばりつつある人達を集め、なるべく小さな声で作戦を告げる事にした。
「此方に接近する奴らがいますので寝たふりをして下さい、奴らの姿が見えたら魔法を放ちますので耳に布を入れるの忘れないで下さいね」
「あの、どういう事ですか」
「縛られていた時に五月蠅い音がしたと思いますが、そのほとんどは俺の魔法の音なんですよ、なるべく近くに落とさないようにしますが、まぁ安全の為です」
(全く、俺の魔法は音が大きいし光を放つのが欠点何だよね、雷属性じゃなくて土属性が得意だったらもっといい戦い方があったんだけどな)
つまらない事を考えながら身体を横たえ周囲を警戒する、頭上に飛んでいる光の鳥の範囲を広げたので暗くなった集落を灯台の光のように照らしした。
音が邪魔してゴブリンの息遣いや足音は聞こえなかったが俺達を取り囲んでいる気配はしっかりと掴んでいる。
目を細めながら周囲を警戒すると暗闇に紛れて赤く光る眼が見えて来た。
それでも我慢をして全ての個体が姿を見せるのをじっと待つ。
「皆さん、耳を塞いでくださいよ、雷撃」
光る鳥と一緒に旋回していた弾が分裂し、走り出そうとしていたゴブリンを貫いていく。
中には上手く当たらなかったりまだ動ける個体もいたが、そいつらには【雷銃】で一体ずつ撃ち抜いて行った。
「キサマラ、ニンゲ……ゴパァ」
「あっ殺しちゃった」
最後に姿を見せたゴブリンはやけに身体が大きかったし、言葉を話したのだが思わず撃ち殺してしまった。
(不用意に出過ぎなんだよ、さて他は……動いてるゴブリンはいないな)
気配を探ると一塊になっているゴブリンがいるだけで此方に向かってくる奴らはいない。
ただ、その場所は分かっているのだが、万が一の事を考えると不用意に此処から離れる訳にはいかない。
(俺の感知が確実じゃなかったら不味いしな)
ただゴブリンの魔力だけに神経を注いでいると、俺を安心させる声が聞こえてくる、
「お~い、大丈夫か? 遠くからでも音が聞こえたから戻って来たぞ」
エルマーとラウルスが戻って来たのでプレッシャーで重たかった肩の荷がようやく取れたように感じた。




