第二話 ゴブリン退治
会社の人かそれとも救助の人だとどんなに良かった事か、しかし俺の目に写ったのは背が低い割には腕が長く顔のパーツも一つ一つが大きすぎる緑色の二人?組?匹?だった。
「ハルクのコスプレじゃないよな」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ」
「くっごっぐぐう」
その二匹は顔を向き合って何かを話しているようだが、その会話を終えて此方を見たその表情は蔑んだような目を向けているので決して友好的でには見えない。
「頼むからそこから動くなよ、動くならあっちに行ってくれ」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ」
(言葉が通じる訳ないよな)
背を向けるのは悪手かもしれないが、それでも後ろを振り向いて一気に駆けだす事を選択する。
思い描いた未来は軽快に走り出して、圧倒的なスピードで森の中に逃げ込むのだが、現実はそうは甘くなかった。
現実は走り出して僅か数歩で足がもつれてしまい、そのまま倒れ込むように泉に中に頭から飛び込んでしまった。
直ぐに身体を起こし、奴らが寄ってこないように両手を何度も交差させる。
「ぶっぷわぁ~ゴホッゴホッ頼む、こっちに来ないでくれ…………あれっ」
薄目を開けながら奴らを見ると、俺の方に全く興味はないのか追いかけてくるどころか、震えて動けないでいるあの狐もどきの方へ向かっている。
(狙いは俺じゃないのか、だったら今の内に逃げるしか無いな……それでいいのか? いや、この俺に何が出来るんだ? たかが変わった動物だろ)
ほんの数分前あったばかりだが、この喧嘩もした事のない俺では何も出来ないのはちゃんと分かっているはずなのに何故か俺の身体は動き出してしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
黙って近づけばせめて奇襲出来たかも知れないのに、恐怖がそれを許してくれなかった。
叫び声を上げながら走って近づき、振り向いた一匹を右手で突き飛ばし、もう一匹を前蹴りのような形で押しのけると二匹はぶつかってもつれるように倒れる。
疲れてはいないけど肩で息をしながら狐もどきに向かってなるべく優しく声を掛けた。
「震えてないで早く逃げるんだよ」
(あ~俺は何をやっているんだ)
後悔しか頭の中には無いが、それ以上動けないでいると倒れている二匹が立ち上がり俺を睨みつけてきた。
(どうしよう……)
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ」
二匹同時に向かってきたので拳を強く握って一匹の顔に振り下ろすと、まるで特撮ヒーローの様にそいつを吹っ飛ばすことが出来たが、もう一匹は肩に噛みついてきた。
(ダウンの上から噛みついても意味無いんだよ……いたたたた、いってぇ~、離れろ、離れろ)
身体を左右に振ったり、顔を掴んで振り払おうとするが肩の痛みは高まるばかりで、その顔を殴ると離れて行ったが、ダウンの肩パットとともに肩の肉までも噛み千切ったようだ。
(いって~~~~~~)
右肩からは吹き出すように血が流れ、右半身は熱湯でも掛けられたかのように熱くなってきた。
「ふざけろよ、お前」
言葉の威勢のよさとは裏腹に尻もちをついた俺は無事な左手で落ちている小石を掴んではただ投げつけると言う事しか出来ない。
(何なんだよ、どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ)
「きゃんきゃんきゃんきゃん」
いつの間にか吹っ飛ばしたはずのもう一匹が戻ってきて、まだ動けなくて佇んでいた狐もどきを捕まえてその汚らしい口を大きく開けて噛みつこうとしている。
「いい加減にしろ~」
バチバチバチバチバチバチ
ただ立ち上がろうとしただけなのに、一瞬でそいつに近づき俺の膝がその背中に突き刺さった。
すると掴んでいた手が緩み、再び自由になった狐もどきは俺の足元に逃げてきた。
「俺の方じゃ無くて森の中に逃げるんだよ、早く行って」
左手で俺から少しでも離れるように押し出すが、それに対抗するように身体全体で左手を押し返してくる。
ボゴッ
「ぐゎぁぁぁ~」
全ての意識を狐もどきに向けていたせいで、耳の後ろ辺りに何か硬い物で叩かれたような衝撃が走った。
二撃が来る前に腕を振り回して攻撃を試みるが、そいつは片手で腕を掴んで手に噛みついてきた。振り払うとそいつは離れて行ったが……。
ぶちっぶちっ
生まれて初めて耳にする音は聞こえ、指が掌から離れてそいつの口の中に収まっている。
「嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ…………」
(嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ…………)
ゴリゴリ、ゴッキュ。
指を噛み砕きながら向かってくるので直ぐにでも逃げなければいけないのに身体が固まってしまったかのように動かない。
「キュ~ン、クンクン」
足元から狐もどきの泣き声が聞こえると、守らなくてはいけないと思う気持ちと、痛みによる怒りが頭の中を駆け巡る。
「お前、いい加減にしろよ」
ズバン。
大きな音が聞こえたと思ったら目の前は真っ白になり、焦げ臭い匂いが漂ってくる。
(そういや噛まれた俺はこいつらみたいになったりして……嫌だな……)