第十八話 魔法
ラウルスが呆れたように俺の元にやって来て、そっと掌を上に向けて何かの合図をしている。
「えっ何ですか」
「お前さぁちゃんと案内に書いてあっただろ、いいか、過剰な魔道具の持ち込みは禁止なんだよ、そもそもF級の新人がそんな物に頼ったら何時まで経っても実力がつかないぞ、まさかお前がそこまで金を持っているとは思わなかったけどな」
「あの、この杖は魔道具なんですか」
おばば様から貰った杖を使うと魔法の精度が上がるので使用していたが。これが魔道具だとは知らなかった。
(杖って魔道具なのか?)
ラウルスにその杖を渡すと暫くその杖を手に持って調べ、後からやって来たエルマーも杖を手に取りながら二人で真剣な顔をして話合っている。
新人の子供達は俺を取り囲んでいきなり文句を言ってきた。
「あんな魔道具は卑怯じゃないか」
「そこまでして試験に合格したいとはね、バレるに決まっているのにさ」
「二人ともそれ以上言わない方が良いぞ、彼は何処かの貴族か大商人の息子に決まっているだろ、あんな凄い魔道具なんて金貨何枚するか分からな」
「あのさ、君はたしかアマルフ君だっけ、勝手に俺を金持ち扱いするのは止めてくれないかな」
「もしかして実力だとでも言いたいのですか」
俺の言葉に新人達の間に白けた空気が流れ始めたので、何だか気まずい空間になってしまった。
エルマーとラウルスは杖をまだ調べ終わったらしくどんな結論が出たのか知らないが、二人とも首をかしげながら寄って来た。
「なぁユウよ、この杖の中に強力な魔石を隠しているのか? そこまでの細工をした理由と言うのは試験対策なのか?」
「それは只のもらい物なので良く分かりません」
「何だかな、本来はそこまでの細工をしたなら失格と言いたいが俺達にはわからないんでな、それに戻って調べる訳にもいかんからこれは訓練が終わるまで私が預かっておく、そしてギルドに戻って何かしらに仕掛けが見つかったらお前は失格どころか資格を剥奪する事になるだろう、いいな」
「はぁ」
俺の事を完全に馬鹿にしているのか新人達の冷たい視線が俺の身体の至る所に突き刺さっている。
「それでお前の代わりの武器は何にするんだ」
「そうですね、素手で大丈夫ですよ、威力は落ちますが使えますので」
「あのな、どこに武器を持っていない冒険者がいるんだ。まぁいい、俺の予備の剣を貸してやるから使え」
エルマーが呆れながら言ってきたが、別にやけになっている訳では無く里では杖を使う前は掌から出していたのでそれ程問題は無いと思ったからそう言っただけだ。
「剣は俺には使えないからいいですよ、それに杖なんてちょっとの補正程度何で気にしないで下さい」
「杖が補正程度だと、お前は何を言っているんだ?」
エルマーやその他の人達も魔法を使えないようなので彼等はどうやら魔法使いの事を理解していないようだ。
ただ新人の中に14歳のマリューという女の子はレイピアの柄に魔石を嵌め込んであるので魔法が使えるのかも知れないが、その子も俺の言った意味が分かっていないらしい。
(それはいいのかよ、何だかな)
「魔力さえ使いこなせれば杖など無くても魔法が使えるじゃないですか、この中にまともな魔法使いがいないから分からないだけですよ、まぁ気にしないで下さい」
「んっそうなのか、ラウルスは知っていたか」
「そんな事初めて聞きましたよ、うちのパーティの治癒師は杖が無いとかなり治癒力が下がりますね」
「そうだよな、それが普通だよな」
俺の意見がおかしいのかマイルス達は考え込んでしまっているし、新人達は俺を嘘つきだと思っているのか更に蔑んだ視線を浴びせてくる。
(もしかして、俺は変わっているのか? そういやおばば様はエルフの魔法だと言っていたしな)
何とも言えない状況になっている時に、ずぶ濡れになっているジールが走って戻って来た。
「何をしてるのかな? 流されないようにどうにか縛ったんだから早く手伝って……この空気は何?」
「あのですね……」
ジールの従者であるあるホムラはそっと耳打ちを始めると、少ししてからいきなりジールがわざとなのか大声で笑い出した。
「そんな本当かどうかなんて考えるだけ時間の無駄だよ、直ぐにでも素手で魔法が同じように使えるのか見せて貰ったらいいじゃないか」
その言葉に真剣な顔をして話し合っていたエルマーとラウルスは顔を見合わせながら恥ずかしさを誤魔化す為か苦笑いを始めた。
「そうだよな、まさか貴族のボンボンに気づかされるとはな」
「それは言い過ぎでしょ」
ジールは思わずエルマーに殴りかかりそうになったが、エルマーに気づかれないように身体でラウルスとホムラがガードしている。
「そういやそうだよな、じゃあ、あの木でも狙いますよ」
「あの木かよ? そこまで見栄を張らなくていいんだぞ」
距離は100mは無い位だし大きくて太さはあるのだから俺としては全く問題はない。
たださっきと違う魔法を使うとまた難癖をつけられそうなので同じ【雷銃】を掌から発動させてその木を狙ったが、久し振りに杖無しだったの木には当たらず、その根元をえぐる形になってしまったがまぁ倒した事には変わりないので誤差の範囲だろう。
「どうですか、殆ど同じでしょ」
「………………」
「ちょっともう音は鳴りやんでいるんだから耳を塞がなくていいですよ」
この世界の人達は騒音に慣れていないのか一々耳を塞ぐのでその度にジェスチャーをしなくてはいけないのが面倒だ。
耳を放しながら燃え盛るあの木を誰もが黙って見ているが、ジールだけは笑いながら俺の肩を叩いて来る。
「ねぇ私と一緒にパーティを組もうよ、それとも君さえ良ければ私の父である領主の近衛兵にでも推薦してあげようか」
「どっちも嫌だよ」
「それは心外だね」
ジールはその綺麗な顔を歪めているが、それよりも領主の息子だとさらっと言ってきたことに少しだけ驚いた。