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第十五話 ギルドにて

 街に入る事を許された俺はあの若い兵士が待ち合わせのギルドに送ってくれると言うのでそれに甘えている。


「どうしてあそこ迄やったんですか、血を一滴だけ垂らしてくれたら良かったのに」


「だったら最初に行ってくれよ、こっちは知らなかったんだからさ」


 身分証の代わりに魔石が埋め込まれた石板に血を垂らすように言われたので痛いのを我慢して掌にナイフを突き立てた。


 思いのほか切れ味の良いナイフだったので掌から大量の血が流れだしたので、周りにいた門番達はかなり引いていた。


 直ぐに回復薬を掛けたので傷口は塞がったのだが、周りの視線に耐え切れずそに直ぐに通過をさせてもらう。


「それにしてもよくファウンダーエルフの里で暮らす事が出来ましたよね」


「あのさ、そのファウンダーエルフって何だい。俺はエルフの里だと聞いているんだけど」


「私達だけが気にしているだけかも知れませんね、いいですか……」


 <嘆きの森>にるエルフはファウンダーエルフと呼ばれていて、エルフ族の中でも上位種であると言われているそうだ。


 それに里では誰もがマジックバックを持っていたが、人間の世界では上級冒険者か金持ちの貴族しか持っていないらしい。


(どうやら俺は相当に運が良かったようだな)


「ユウさん、もう着きますよ、あれがギルドです」


 初めて見るギルドは明治時代のような石造りの五階建ての建物で、全てが黒色に塗られているので知らなければ決して入りたくない外観をしている。


「有難う、また何かあったら頼りにしていいかな」


「勿論ですよ、あの方たちの知り合いでしたらどんな頼みも優先させて頂きますよ」


(そんなに、優遇されているのか)



 ◇◇◇



 ギルドの一階は食堂になっていて、二人はもう食べ終えているらしく空の食器を前にして暇そうにしていた。


 その二人をさりげなく見ているつもりだがあからさまな冒険者達がちらほらいる。


「お待たせ、何だか二人は人気者なんだな」


「いい迷惑よ、けどねそれは私じゃなくてドロフェイだよ、こんなでもA級冒険者だからね」


「あっそうか、そう言えばA級なんだよな、凄いじゃないか」


「凄くはねぇよ、こっちは随分と長く冒険者をやっているからな、それより早く登録を済ましてしまえよ」


「ちょっと待って、俺も食べたいんだけど」


 俺の意見は全く無視されて無理やり受付に向かわされると、俺の耳にはやっかみの言葉が聞こえてきた。


『あいつは誰なんだ? 何であんな奴が一緒にいるんだ?」


『羨ましい奴だな、あそこにいれば何もしないで稼げるじゃねぇか』


「おいっそこの暇人達、さっきからうるせぇんだよ、仕事もしねぇならとっとと出て行きやがれ」


 二階のフロアのバルコニーから片目の潰れたガラの悪い男が身を乗り出して冒険者達を恫喝し始めた。


 あまり関わりたく人物であったが、オルガは親し気にその男に寄って行く。


「この子に冒険者登録をしてくんないかな、ギルド長のあんたがやってくれたら助かるんだけど」


「誰がやるかっ、おいっお前が相手をしろ」


 どう見てもまともな中年の男には見えないが、彼がギルド長だとすると冒険者と言うのが少しだけ分かったような気がした。


 ギルド長の指名を受けた女性はオルガのような綺麗さを売りにするのではなく、子猫のような可愛さを売りにしているような小柄の女性だ。


「ではどうぞこちらへ」


 彼女の胸には<マヌエラ>と書かれていて、狭いブースに案内されるとオルガもドロフェイもその中に入って来る。


「それでは貴方様に冒険者の基本情報の説明を致します」


 マヌエラは丁寧に説明をしてくれるのはいいのだが、話のトーンが一定のテンポの為、一緒に聞いていたセレニテは俺の腕の中で寝息を立てている。


「お姉ちゃんよ、悪いんだけど詳しい事は俺達が教えるから初級訓練の手続きをしてくれないか、それと魔石の買取も頼むな」


「そうですか、次の初級訓練の日は……五日後になりますね、それでよろしいでしょうか」


「良いんじゃないの」


「ではサインをお願いします」


 マヌエラが渡してきた書類に普通にサインをしていると、ドロフェイが驚いたように俺の肩を揺さぶって来る。


「おいっどうして文字を書けるんだ?」


「ねぇもしかしてあんたは知らなかったの? ユウの袖を捲ってごらんよ」


 オルガに促されたドロフェイはその通りにすると、俺の腕にあると思っていた物が無かったことにかなり驚いた。


「どういう事だ」


「かなり前からだよ、あれに頼らなくても大丈夫なように覚えたんだよ、まさか今迄気が付かなかったドロフェイにこっちが驚くよ」


 目の前のマヌエルはこの会話の意味が分からずにいるが、さすがギルドの受付嬢をしているだけあって一切の表情を変える事は無かった。

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