第十三話 討伐終了
「おっ何だ、あれはクラウジーの魔法だな」
意識を集中してもオークを発見できないので目視で探していたところ、かなり離れた場所で火柱が上がっている。
俺が何時まで経っても最後の一体を発見できないのでクラウジーが仕留めたのだろう。
完璧では無かったがようやく戦いが終わったのでホッとしているとオルガとドロフェイがやってて来た。
「相変わらず魔力を探るのが下手よね」
「そんなこと言うなって、人間にしては良い方だぞ」
冷たいオルガはさておき、ドロフェイの斧には何故か血がべっとりと付いていた。
(あれっ最後の奴はドロフェイが倒したのか? そうなると火柱の意味は何なんだ)
少ししてからクラウジーが現れたが、俺を見るなり何故か浮かないかをしている。
「何かあったのか」
「悪い、俺が数を読み間違えた」
クラウジーは36体いると言っていたが実際は40体いたそうで、俺が仕留められなかったのは1体ではなく5体だったそうだ。
「分かっていないあんたが悪いんだからね」
「はい、すみません」
傍から見るとオルガの見た目は俺の同世代以下にしか見えないので、それが余計に情けない男に見えるかも知れないが、実際は300歳以上も離れているのだから頭が上がる訳は無い。
「まぁオルガもその辺にしておけよ、それより魔石を回収しようぜ」
魔物と魔獣の違いの一つとして、死体がそのまま残るのが魔獣であり体のどこかに魔石が存在する。そして時間の経過とともに死体が消えて魔石だけが残るのが魔物だ。
ただ不思議な事に魔物を解体をしている最中やその解体した部位は消える事が無いのが不思議で、その説明をおばば様からちゃんと聞いたがいまいち理解出来ていない。
「俺が倒した奴の魔石は回収できないだろうな」
「そりゃそうでしょ、たかがオークにやり過ぎなのよ」
「仕方が無いだろ、身体がうずいたんだよ」
オルガ達が言い合いを始めたので俺だけで落ちている魔石を拾い集めたが、オークの魔石は身体の大きさのわりにはパチンコ玉ぐらいしか無いし、あまりいい状態ではない。
見つからなかったのは諦め、結局まともに回収できたのは10個にも満たなかった。
「あのさ、こんなもんなのかな」
「そんな訳ないだろ、お前の魔法が魔石に傷をつけてるんだ」
「いいんじゃないの、もっと上のクラスの魔物だったら勝手に修復されるから気にしなくていいんじゃない、それより街に向かおうよ」
「俺は報告に里に戻る」
里の者達はこの討伐が失敗するなど微塵にも思っていないはずだが、生真面目なクラウジーは報告しないと気が済まないらしくドロフェイが止めたにも関わらず行ってしまった。
「なら私達だけでいいでしょ」
◇◇◇
半日をかけて森を抜けてようやく平原に辿り着いた。
周りに国にとってこの<嘆きの森>はエルフの国だと思われているが、その中心の地区がこの中の何処にあるのかは知られていないし、何処の国も探そうとはしない。
決して敵対している訳では無いが友好と言う訳でもなく、ただ触れない方がいいと判断しているだけだ。
南側の平原に出るとここからは人間の国であるニックスヒリア王国の領土となっているが、森と平原の境には何かがある訳では無いのでエルフは自由に行き来しているし、王国も暗黙で了承している。
のんびりと平原を歩いて行くが、たまに見える村は近寄る事なく通過し夜になると野営をすることになった。
「あのさ、どうして村に入らないんだ? お金が無いからなのか」
「そうじゃないさ、金ならそれなりに持っているしお前もその魔石を売れば金にはなる。だがな、お前はここでの野営を経験した方が良いんだよ、森の中とは違うからな」
(確かにその理屈も分かるが、何か隠している気がするんだよな)
それから更に日数が過ぎ、ようやく村ではなくギルドがある街に到着するらしい。
「どうだ、もう少しで同族に会えるぞ」
「それもあるし、これからの事も考えると何だかね」
「あっそうよ、あんたは里でもそうだったけど勇者召喚された事は絶対に秘密にしなさいよ」
「分かってるよ、かりそめの勇者が嫌われているからだろ、里の人達にも嘘をついたんだ。こっちでもそうやるさ」
出来る事なら街に着いた途端に何処かに助けを求めて、勝手に召喚された者ですとでも言えれば話は一気に進みそうだが、残念ながらそんな単純にはいかない。
全ては過去に召喚された者達の一部が散々な事をしたせいだ。勿論いい事をした者達もいたそうだがしでかした連中がそれを全て台無しにした。
勝手に呼び出されて、道具のような扱いを受けるのだから気持ちは分かるが、大量虐殺はやり過ぎだ。
(まぁ何にせよかりそめと呼ばれているから召喚された者達は嫌われる存在なんだよな)