最終話
「先輩、勇者になったって事ですか」
「ザシャの言葉通りなら君の持っている力にかりそめの勇者の力が備わったんだろうな、なぁそうだろ」
ワミレスはザシャの方を見て答えを待っている。
「、そうなるのかな、ただよ、早く解除しないとやばいんじゃねぇの」
「えっどういう事?」
「そうか、今の君の身体はブーストが掛かっている状態なんだ、早く魔法を解除したまえ」
ワミレスは焦ったように俺に言ってくるがそんな事をいきなり言われてもどうしたら良いのか分からない。
「お前はやはり面白い奴だな、何だかどんどん好きになっていくぜ」
「そんな事はいいから危ないんだったらさっきみたいに取り出してよ」
「そりゃ無理だろ、お前にあれをやったら死んじまうけどいいのか」
「だったら駄目、絶対にやらないで」
◇◇◇
「ねぇどうしてあんたが魔国に行かなくちゃいけないのよ」
「俺だって行きたいとは思わないけどさ。ザシャが俺を鍛えたいって言っているんだから仕方がないだろ、もし断って暴れられたらここで殺されるかもしれないんだぜ、それにワミレスも一緒に行ってくれるって言うからさ」
「もう、説得して一人で帰らせればいいのに」
「それこそ無理だろ」
ザシャは護符の力でこっちに来る事は出来るが帰る手段は自力で歩いて帰るしかなかった。そうなるとザシャだけで帰らせたらどうなるのか想像するだけで怖くなる。
ワミレスはそれもあって魔国に同行してくれる。
(かりそめとはいえ、勇者の力の使い方はワミレスに教わらないと難しいだろうしな)
「ねぇ魔王はあんたを強くしてから戦いたいんでしょ、負けたら殺されるし、勝ったとしても他の魔族に殺されるんじゃないの」
「そんな事はしねぇよ、まぁ瀕死になるかもしれねぇが勇者がいるから直るだろ、それにな俺は人間族との交流を持とうと考えているんだ。それには魔国に問題があるから簡単には約束は出来ねぇがな」
ザシャは優しくジールに声を掛けるが、ジールはその笑顔が怖いらしく俺の背中に隠れた。
オルガとドロフェイは人間以上に魔族が嫌いなようで少し遠巻きに此方の様子を伺っている。
「先輩、僕も一緒に行ったら駄目ですかね、どうせなら魔国を見てみたいんだどな」
「駄目だって、お前には残って貰わないと困るんだ」
エドにはここに残ってもらって小川さん達を元のように戻して貰わなくてはいけない。みんなの症状は魔法ではなく薬のせいだと分かったので時間をかけて薬を身体から抜いて行けば元に戻る可能性があるらしい。
「う~ん、だったら私も魔国に行ってみようかな、ねぇ安全は保障してくれるのかな、人間と交流が持ちたいのなら女の私も行った方が良いんじゃない」
「そうだな、儂が言えば誰もお前を襲わんだろうな、来るが良い」
いきなりのジールの言葉に遠巻きに見ていたオルガもやってきて説得したがジールは自分の意見を変えようとはしなかった。
◇◇◇
「魔王さんよ、そういやどうして俺と戦おうとしないんだ? それは俺が弱いからか」
「ふんっエルフと戦ったら冗談では済まなくなるだろうが、人間族以上にお前らエルフ族とは関係性が悪いんだぞ戦争になったら面倒じゃねぇか」
「だったら約束しろ。そいつらを無事に返すんだ。もし殺したらただでは済まさねぇぞ」
「分かっているさ、それにこいつがこの国に戻る頃には魔王を討伐した勇者として迎え入れられるんじゃないか」
ザシャの言葉は全く意味が分からない。やはり俺は殺し合いをさせられるのか。同じようにオルガも思ったらしくザシャを睨みつけながら問い詰める。
「どういう事なの、さっきとは話が違うじゃない」
「あのな、魔王って言っても俺じゃねぇよ、他に魔王がいるじゃねぇか、いいか俺が戦いを挑むと魔国中が混乱するからな、だからこいつにやらせるんだ」
「それじゃ俺はオーガ族の兵器になれって言うのかよ」
「そうじゃねぇよ、俺達は仲間だろ」
笑いながら肩を叩いてくるが、何処までが本気で何処までか冗談なのか分からないし、そもそも見た事もない他の魔王と戦うなんて今は考えられない。
◇◇◇
「なぁ魔国に行く事を領主は知っているのか」
「そんなの言える訳ないじゃない。大丈夫よ、今は女王陛下を盛り立てるために忙しいから私に構っている暇は無いでしょ」
「そうかぁ? 先日挨拶に行った時はジールの嫁ぎ先を探しているって言っていたぞ」
「行ってしまえば探しても無理なんじゃない、それにお父様には最低限の条件をクリアしないと嫁がないって宣言したから」
「その条件は何だよ」
「魔王に匹敵する力がある事だよ」
この世界にそんな男が何処にいるのだろうか。
ワミレスはもう初老だし、もう一人の名も知らぬ勇者は聖女と結婚しているし……。
不思議そうにジールの顔を見ているが、ジールの横顔は何だか買い物にでも行くのではないかと思えるほど楽しげだった。
最後まで読んでくれて有難うございます。
新作も投稿していますのでお願い致します。