第百十六話 荒ぶる魔王
「何だか嫌な予感しかしないな、もう一度だな……雷爆」
再び障壁の中で爆発させたが黒い霧は消えるどころかどんどん人の形に変化していく。
完全に黒い霧人間と姿を変えるとその手で障壁に触れただけなのにワミレスの障壁はもろくも消え去ってしまった。
「どけっ俺が行く」
ドロフェイがランスで突き刺そうとしたが先端が身体に触れただけなのに俺達を飛び越え後ろにいたジールの足元まで吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫なの、しっかりしてよ」
「痛みはないけどよ、それよりも王女を連れて此処から早く逃げるんだ」
「いやっでも」
「でもじゃねぇんだよ、おいっオルガっ邪魔な奴を連れてけ」
ドロフェイが叫ぶと直ぐにオルガはエリシュカとジールを抱えて走り出し、ジンガも自らの判断でその後を追って行った。
一方で霧の中から全裸姿で出て来た平井は自分の身体をゆっくりと動かしながら何かを確認している。
「先輩、今度は俺がっ」
「待てっ何かおかしい」
警戒をしながら見ていると平井は爪を伸ばし、その鋭利な爪で自分の身体を突き刺して皮膚をどんどん剥いでいく。
「何してんだあいつは、もうやりましょうよ先輩」
「そうかもな、雷銃」
二発の【雷銃】はうねり音を出しながら平井に当たったが、平井は何事も無かったかのように血だらけになりながらも自分の皮膚を剥ぐことに集中している。
「おいっお前の世界はあんな事をするのか」
「そんな訳ないだろ、気味が悪いな」
「見ている場合かっ」
ワミレスの魔法が平井に向かって飛んで行くとそれは平井が生み出した障壁によって平井自身に届く事は無かった。
「一緒に行くぞ」
「はいっ」
ドロフェイとエドが障壁を壊す為に向かって行くがランスと剣が障壁に触れると二人は弾き飛ばされてしまう。
すると、血だらけの平井が笑顔らしきものを浮かべながらこっちを見てくる。
「あ~気持ちいいな、私はね、ずっとこの時を待っていたのさ、ようやくこの身体が手に入ったよ」
両手を高く上げた後に前で交差させると、背中が割れ始めてその中から新しい身体が出てくる。
全身が黒くその背中には蝙蝠の様な羽が生え、目が異様に鋭くとがっているのでもはや平井の面影は微塵もない。
「あんたどうしたんだよ、魔法の力なのか」
「ふんっ、かりそめの奴はお前が殺したんだろ」
いきなり間合いを詰めて殴りかかって来たので【雷瞬】で躱すが、拳は当たらなくても衝撃波で顔が歪んでしまう。
「邪法を使ったのか、かりそめ~」
ワミレスが炎を纏った剣で斬りつけるが、それを平井は片手で受け止めてそのまま投げ飛ばした。
「だからよぉ~あいつは死んだって言っただろ、いいかこの俺様はイデアだ。いいか。悪魔族筆頭魔王イデアと呼んで貰おうか」
「魔王だと」
その言葉に恐怖を感じながらも魔法を放ち、ワミレスは土塊を飛ばし、エドは氷剣で突きさそうとし、ドロフェイは分身しながら斬りつけるがイデアには全く歯が立たなかった。
何度も攻撃を繰り返すが体力だけが奪われて、誰一人としてまともに立つ事が出来なくなってしまう。
「やはりこの身体はいいねぇ、この私に勇者の身体があれば無敵じゃないか、んっ……お前、何をしている」
ワミレスは背中から護符を取り出して地面に付けると目の前に魔法陣が出現して、そこから野太い手が出て来た。
「遅かったじゃねぇか、ようやく俺と戦う気に……あれっ何でイデアの馬鹿が生きているんだ? んっそれにお前は面白い魔法を使う奴じゃねぇか、元気だったか」
魔法陣から出て来たザシャは俺に向かって元気よく手を振っている。
「えっどういう事?」
「勇者が俺と戦いたいから呼んだに決まっているだろ、その為の護符を渡してあるからな」
この場にふさわしくない気軽さでザシャは話しているのでワミレス以外は呆気に取られて動く事も出来ない。
それはイデアにとっても同じだったようだが、次第に怒り始めた。
「何で貴様が此処にいるんだ」
「馬鹿かお前は、話を聞けよな」
「何だと、この私はもうお前を超えたんだ。魔王となったんだよ」
「誰が魔王だバ~カ、お前が魔王な分けねぇだろうが、俺が魔王なんだからよ」
ゆっくりと近づいたように見えたザシャはそのままイデアの腹を殴ると簡単に腹を貫いた。そしてその腹から手を抜いて汚いものを振り払うかに用に手を振っている。
イデアは腹を抑えながら前のめりで倒れるとその後頭部を笑顔のザシャが何度も踏みつけている。
その間にワミレスは倒れている俺達に回復魔法を掛けてくれ、元通りとまではいかないもののかなり体力を回復する事が出来た。
「どういう事なんですか、どうして此処にザシャがいるんです」
「君がザシャが言っていた面白い魔法使いだったんだな、実はな……」
ワミレスは平井達から逃れた王都を逃げ出したまでは良かったがその道中で魔族に捕まってしまい新たな魔王となったザシャの前に連れていかれた。
ザシャは弱り切った勇者には興味がなくその場で呪いを解かせ、完全に傷が癒えたら戦えとだけ言って護符を渡した後でワミレスを解放した。
「だからと言って良く此処にザシャを呼びましたよね、もし共闘したら終わりですよ」
「オーガ族と悪魔族は仲が悪いとその時に耳にしたからそれに賭けてみたんだよ、まぁ此処からはどうなるか予測は付かないがな」
俺達の視線の先にはザシャがイデアの右手を引きちぎりその手でイデアをいたぶっている姿が見えた。
滅茶苦茶じゃないか、もし敵になったらどうやって戦えば良いんだよ。
本日から三日連続で投稿してこの物語を締めたいと思います。
同時に新作を投稿していますのでそちらもお読みいただければ嬉しいです。