第百十五話 かりそめの勇者
地面から数々の死体が湧き出てくるのが見えると、先程まで大人しかったエリシュカがいきなり大声を張り上げた。
「いやぁ~~~~クリストフ~」
まだ地面が動いているのにそこの駆け寄ろうとしたエリシュカをしっかりとドロフェイが押さえ込む。
そんな悲痛な表情をしているエリシュカに対して平井は呆れるように言い放った。
「おいおいお前は俺の妻になるんだからそんな男は忘れてしまえよ、俺にとってはこいつも同罪なんだ」
「そうだな、あの王に使える者は全て殺さないと気が済まねぇよ」
「お前らそれで勇者を名乗るなっ」
ワミレスが飛び掛かろうとしたが直ぐにエドが抱き着いてそれ以上は行かせないようにしている。
「手を出さないで下さい」
「なっ君はこれを見ても奴の味方をするのか」
「そんな訳無いでしょ、ねぇ先輩」
「あぁ、これはいくら何でもやり過ぎだ。これではただの虐殺じゃないか」
これを見るまでは平井達と折り合いがつくのではないかと思っていたが、もう平井は完全に俺の知っている平井ではなく、もう話し合いで済む状態ではない。
「どうしたんだよ、復讐なんだからこれぐらいはするだろうよ」
「だったらそこに見える女や子供の死体はどう説明するんだ。こんな事をして良いと思っているのか」
「元の世界でも昔だったら当たり前だったろ、それにこの世界では珍しくはねぇだろ」
平井のその態度は何も悪い事をしていないと開き直っているように見える。そもそも俺達を取り込むために話をしたはずなのにこれを見せても考えが変わらないとどうして思えるのだろうか。
平井も北村も壊れているのか?
「もういいよ。あんた達の暴走は俺達で止めて見せる」
「あのなぁ悪い事は言わねぇから土下座して謝れよ、平井は勇者なんだぞ、お前らが戦って勝てる訳がねぇんだよ」
その言葉に今度はワミレスがキレて仮面を平井に投げつけた。
「そいつは勇者などでは無い。所詮はかりそめだろうが」
「お前は帝国の勇者じゃねぇか、俺に簡単にやられたのによく顔を出せたものだな」
「貴様に負けたのではない。魔王の呪いに負けたのだ」
「負け惜しみかよ、おいっ二木、そこを直せ」
平井が命令すると死体は再び地面の下に潜り。元の地面に戻っていく。
「馬鹿な後輩だな」
北村はその手の中にマシンガンを出すと容赦なく撃ち始めたが、同時にワミレスが出した障壁によって全て防がれている。
「流石勇者だ。障壁出すの早いですね」
「当たり前だろ、これで驚くぐらいなら私が戦おうか?」
「いえ、俺達でやりますので解除して下さい」
「その必要はない、そのまま進むがいい」
言われた通りに進むと何の抵抗もなく障壁をすり抜ける事が出来た。その間にも弾丸を撃ち込まれているのだがそれは障壁が防いでいる。
「ゲルトが哀れに思えるな」
「先輩、ゲルトって誰ですか?」
「あぁすまん、気にしないでくれ。それより奴が撃ち終わったら行くぞ、俺は平井と戦うからエドはあいつを頼む」
「ずるいな先輩は、まぁ従いますけどね」
そう言ったエドではあったが、まだ北村が弾丸を撃ち終わってもいないのに障壁をすり抜けて姿を消し、次に姿を現した時には北村の両手を切断した時だった。
「ぐガガガが、この馬鹿が俺の手を。平井っ」
地面がえぐれる音がするとエドはまたしてもその場から消え、先程まで立っていた場所に斬撃が通過する。
「これぐらいは躱せるか」
「舐めて貰ったら困りますよ平井さん、勇者のくせにこれで終わりですか」
「生意気なんだよ、ブースト」
平井も姿を消し、二人の足音だけが聞こえてくる。
完全に出遅れてしまっているし、何処を狙えば良いのか判断がつかないのでこの場に居るしかない。
剣と剣がぶつかる音と共に鈍い音が聞こえてきたと思ったら、目の前にエドが吹き飛ばされてきた。
「それで終わりか高岡ぁ~、やはり口先だけじゃねぇか」
「そっちはいいから早く俺の手を戻してくれ」
「ちょっと待っていろよ、目を離せる訳ないだろ」
(話してろよ、雷銃)
北村の方を見た瞬間に【雷銃】を放ってみたが、デコピンの要領で弾き飛ばされてしまった。
「これがお前の力か……五月蠅いだけの魔法か、期待外れだな」
力の差を確信した平井はこっちに攻撃を仕掛ける前に北村のほうに近づいて行き北村の腕を持って回復魔法を掛け始めた。
するとワミレスがその二人を障壁で包み込む。
「君達は何を遊んでいるのかな、やる気がないなら私が変わるがどうするかね」
「大丈夫です。いや、やはり手伝って下さい。そのまま障壁を出したままにして貰えますか?」
「あぁ任せたまえ」
試してみると俺の魔法はワミレスの障壁を通過していく。そのまま魔力を注いでいくと平井は雷の玉をどうにかしようとしているが、本気を出した俺の魔法はその程度の力で壊される訳がない。
平井は北村の腕を投げ捨てて耳を塞ぎながら今度は障壁を壊そうとしているがワミレスの障壁は無傷のままだ。
北村も最初は平井と一緒に障壁をどうにかしようと藻掻いていたが今は耳から血を流して意識を失ってしまった。
「おいっ津崎、何だよこれは、うるせぇんだから止めろ、いい加減にしねぇと此処を出たらどうなるか分かってるんだろうな…………そうだよ、そうすりゃいいんだよ」
音が小さくなったので平井は俺が諦めたと思ったのか両手を広げてニヤニヤしている。
だが、次の瞬間に魔法は暴発して二人の身体は跡形も退く消え去った……そのはずだったが平井がいた場所には黒い霧が広がっている。
次話は来週の月から水と3日連続て投降いたします。