第百十三話 いざ王都へ
王都に向かっている馬車の中では楽しそうにジールが勇者であるワミレスと話している。
「さっきから気になっている様だな、もしかして焼いているのか」
「何言っているんだよドルフェイは、いいか、そんなんじゃないに決まっているだろ」
大きい馬車ではあるがそれでもこの世界の馬車なので俺とドロフェイの会話はジールに聞こえてしまっている。
「あのさぁエルフって他人に興味がないから気持ちが分からないんだよね、馬鹿な事を言って楽しい?」
「そんなんじゃねぇって、ただよぉお前らが全然話さねぇからちょっとからかっただけさ」
「それと私に何の関係があるのです」
ワミレスは仮面をしたまま言っているのでその言葉が本心か冗談が分からないドロフェイは謝るしか方法が無かったようだ。
俺がジールをじっと見ていたのは焼きもちなどではなく、どうしてこの馬車にジールが乗っているのか意味が分からなかったからだ。
「あんたねぇまだ私に文句が言い足りないんでしょ、乗る前に話したじゃない。それにオルガさんが良いって言っているんだから、ねぇそれでも言いたい事ある?」
「あるに決まっているだろ、俺は駄目だって言ったよな、エドも反対したしジンガだって微妙な顔をしていただろ、危険もあるけど家の問題もあるだろうが」
エルフの二人は人間の政治の問題など興味が無いので簡単に了承したし、ワミレスも同じような感じだ。
「私はね、冒険者として王都に向かうの、領地が混乱するから落ち着くまで王都に用も無く来る事を領主達は禁止されているんだからこうするしかないでしょ」
「こうするしかって、他にも方法はあるだろうに」
「それを考えている時間はないでしょ、ねぇその他の方法って何よ」
「いや、まぁ、それは」
「だったらもういいでしょ、お父様からの頼みでもあるんだからグダグダ言わないでよね」
「だけどさ、もし俺達が平井と揉めたら不味くないか、次期国王になるらしいからな」
「状況によっては私はその場から消える事にするから平気なの」
「その時は私が全力で助けると誓ったら心配するな」
ワミレスはそう言ってるが、かりそめの勇者に何かしらの恨みを抱いているのにそこからジールと一緒に離れる事が出来るのか信用は出来ない。
「あんたは心配しすぎなのよ、それにね私は第三王女が何処にいるのか探るのが目的でもあるんだから」
この国で人気の高い第三王女に利用価値が無いとしたら何かしらの理由を付けられて殺されるはずだが公式発表では行方不明となっている。
他の街の貴族もまだ第三王女が何処かに生きていると考えて秘密裏に捜索部隊を王都に送っているそうだ。
(だったらどうして娘を危険な王都に送るのかな、ジール自身も気が付いていない何か別の目的があるのかも知れないのか)
「お前は心配し過ぎなんだよ、まるでかりそめの勇者と戦いに行くみたいじゃないか」
「別に戦いたい訳じゃないんだけどさ、けど、どう考えてもおかしすぎるんだよな、俺も、エドも同じ考えだけど彼等は召喚した使徒たちに復讐をしたとしか思えないんだ。あんな腕輪を付けられたぐらいだから相当な事をさせられたとは思うからその事についてはとやかく言うつもりはないけど、国王になるのは違うと思うんだ」
もしそれに正当な理由があるのならとやかく言うつもりはないし、もしかしたら協力するかもしれないが、その他にも気になる事がある。
◇◇◇
王都に向かう街道は混乱しているせいもあって人で溢れているので到着までに必要以上に時間が掛かってしまった。
俺達が王都に到着した時にはもう公開処刑は終わっていて広場に中には王子の首が見せしめの様に台の上に置かれてあり、かなりの量の石を投げつけられていたせいか殆ど原型が無くなっていた。
「先輩、僕は王子の事は全く知りませんけどあれは可哀そうですね」
「そうだな」
少しの間その場所で佇んでいると、オルガが驚く情報を近くいた人から聞き出していた。
公開処刑があ終わった後で城から発表があり、今まで姿を見せなかった第三王女と平井が結婚する事が決まったそうだ。
「何だかおかしな展開になって来たな」
「そうだね、早く行きましょう先輩」