第百十一話 かりそめの勇者が?
待ち合わせの宿に行くとその中にはジンガしかいなく、エドはジールと共に領主館にずっと行っているそうだ。
部屋を借りて待つことにしたが開いている部屋の数が少なくて仮面の男と同室にされてしまっているので息がつまりそうになる。
(オルガめ、何もこの男と同室にしなくてもいいじゃないか、仕方が無いのは分かるんだけどさ)
仮面の男は俺と会話をするつもりがないらしくずっと黙ったまま窓の外を見ていたが、不意に声を掛けて来た。
「君は今度の事をどういう風に思うんだ」
「馬鹿な先輩が何かをしたんだと思っているよ、ただ他の人達がどうして従っているのか分からないけどね」
「それでは君は王子がクーデターを起こしたことを信じていないんだな」
「そりゃそうでしょ、五聖柱は王子直属でしょ、それなのに利用しないなんてありえないし、腕輪を外したのを知っていたとしたらそんな事をしている場合じゃないでしょ」
嫌な考えだが国王達を殺したのは会社の人達でその罪を王子に擦り付けたのだとしたら合点がいく。
それが本当だとしたらあの人たちはこの国を根本から壊したいのだろうか。
「君はどうしたいんだ? 仲間に入るつもりなのかね」
「真意を確かめたいだけさ、それよりさあんたは俺達の事嫌いなのか」
「あの連中には借りがあるからな、是非とも会わないといけないのさ」
「借りって?」
ようやく仮面の男の秘密が聞けるかも知れないと思ったが、そのタイミングで部屋の扉を何度も叩く音が聞こえて来た。
「先輩、先輩、入りますよ」
扉を開けると息を切らしたエドが立っている。
「どうした? 何があったんだ?」
「帰って来たと聞いたんで走って来ました……あの人はエルフじゃないよね」
「あぁ人間だよ、そうだっみんなを紹介するよ」
◇◇◇
食堂の個室に集まりエドにオルガ達を紹介した後で仮面の男はまたしても試すようにゆっくりと仮面を外すがエドもジンガも表情に変化はない。
「「誰です?」」
「お前らもかよ、何でこの顔を見ても分からねぇのかな、人間はそうなのか」
「オイラは人間族じゃなくて獣人族だけどね」
「どうでもいいわよ、いい、彼は帝国にいた勇者ワミレスよ、どうして顔を知らないのかな、ギルドに肖像画があるでしょ」
思い返してみると何処のギルドにも入口付近に絵が飾ってあったような気がするがまともに見た事は一度も無かった。
「オイラは勇者なんて興味はないさ」
「僕もかな、何処に飾ってあったのかすら覚えてないな」
「アニキ、それにアフガルには飾ってなかったと思うぜ」
「あるに決まっているでしょ、勇者だよ勇者、彼だけじゃなくてもう一人の勇者の肖像画もあるの、何で興味が無いのよ」
ワミレスはまたしても仮面を被り、オルガとドロフェイは此方に対して少し怒っているようだ。
そのせいでジンガは下を向いて怖がっているし、エドは困ったような顔になっている。
「見ていないんだからしょうがないだろ、ってゆ~か二人は人間に興味がないんじゃないのかよ」
「勇者は特別に決まているでしょ、あんた達がおかしいの」
変な雰囲気になってしまったが、エドが恐る恐る手を上げて立ち上がった。
「もうその事はいいかな、もっと大事な話しがあるんだ」
エドは領主館で知り得た情報を全て話し始めた。
「君、本当かね、かりそめの勇者如きが次期国王になるだと」
「かりそめと知っている人は殆ど死んでいるからね」
だがいくらクーデターを起こした王子を捕らえたからと言ってそのまま国王になるなど出来るはずはないんだが、ある継承権を持っている公爵家に平井が養子として入りそのまま継承権を譲ると宣言したそうだ。
もう王都では平井は勇者として認められているので反対する声はあまり上がっていない。
「それはおかしすぎるわよ、そんな簡単な事じゃないでしょ」
「その事はここの領主も疑問に思っているようですがクーデターがあったばかりなので口にする事は出来ないみたいでしたよ、それに異を唱えた貴族達は何故か直ぐに賛成派に鞍替えしたそうですね」
「かりそめの勇者が勇者と名乗るなど馬鹿にしているにも程がある」
ワミレスはこの国の政治よりも勝手に勇者と名乗られる事に不満を持っているようだ。
(かりそめ、かりそめって五月蠅いんだよな、召喚した奴らのせいだろ、何か嫌な奴だな)
「先輩、行きますよね」
「あぁそうだな、出来れば平井よりも前に今村主任に話を聞かないと、あの人もかりそめの勇者なんだろ、そもそも国王になるにしてもどうして今村主任じゃないんだよ」
「それがですね、今村主任は亡くなってしまったそうです。だからかりそめの勇者は平井さんだけになるんです」
「死んでしまったのか……だから平井は暴走を……いや、何かが違うな、駄目だ此処にいても何も分からないから早く行くしかないな」
「ええ、そうですね」
二人だけで行くつもりだったが、案の定ワミレスもついて行くと言い出したのでどう断ろうかと考えていたがオルガ達も来てくれると言うので渋々その提案を受け入れた。