第百九話 森の中で
ナンスルの街が見えてきた時にジールは彼等と最後の打ち合わせを始めた。
「絶対に馬鹿正直に話したらどうなるか分からないから駄目だからね、それを守ってくれたら私が何とかするから」
彼等も自分達が帝国では重大犯罪者だっととも、息子達の世代が盗賊をしていたなどと言える訳が無いのでそこはよく理解している。
(当事者もいないし国が違うのだから正直に話しても大丈夫だと思うんだけどな)
そっちの事は問題なく話が終わったが、俺にはもっと大事な事が残っている。
「ジール、ちょっといいかな」
「別に改まって話さなくてもいいわよ、あんたはこのまま里に行くんでしょ、あ~あ、私もエルフの里を見てみたかったな」
「勝手に人間を連れて行く訳にはいかないんでって、そりゃオルガやドロフェイなら歓迎するかもしれないけど他のエルフが違うからね」
「良いよね、あんたは特別なんだから」
「あのなぁ普通に接してくれるまで長かったんだぞ」
里に暮らし始めた頃を思い出すとあの中には人間が嫌いだと言うエルフは少なからずいた。
それに静かに暮らしたいエルフにとっては俺は邪魔な存在だっただろう。
「そんなに先輩を責めないで下さいよ、戻って来たら今度はちゃんとパーティとして登録しましょうよ」
「勝手に決めるなよ、いいか、これから俺達がやろうとしている事に巻き込めないだろ」
「あんたこそ勝手に決めないでよね、ねぇ少しは考えてみてよ」
「ジールに時間が残されていたらな」
エドのせいで期待を持たせる事になってしまったが、俺達のやろうとしている事はジールにとって悪影響でしかない。
(元の世界にも戻りたいしな)
◇◇◇
一人で森の中を歩いている。懐かしさを少し感じるけど一人だけでこの森の中にいるのは今日が初めての事だ。
「まぁ怖くなんかないさ」
この森で生息している魔獣の種類は頭の中に入っているし、それこそ何度も戦ったので今なら小さく作った【雷針】の1本だけで仕留める事が出来るだろう。
(かといって試そうと思わないけどね)
夜になり一人でこの森に居ると流石に怖さを感じるようになり身構えているとこっちに向かて何かが走って来る音が聞こえて来た。
(この足音は魔獣じゃないな、里の誰かだとは思うけどこんな時間に走る何て)
「誰ですか~ユウで~す」
勘違いされては困るので此方の素性を早めに教えてみた。そうすれば向こうも警戒しなくていいはずだ。
(大人しく待っていればここに来るだろうな)
暗闇に目を凝らして待ってると何故かその足音が突然音を出さなくなった。
(えっ里のエルフじゃなかったのか、盗賊とは違うようなんだけどな)
その足音の持ち主を探る為に意識を集中するが近くにいる魔獣の気配を感じ取る事が出来てもそれ以外は全く分からない。
(もしかして魔人なのか)
危険を感じるので杖を構え、姿勢を低くして身体を隠しながら姿を現すのをじっと待っている。
(何処にいるんだ?)
「いよぉ元気だったか」
「うわぁぁぁぁ」
いきなり背後から肩を叩かれたので思わず声に出しながら杖を手放してしまった。
振り返るとお腹を抱えて笑っているドロフェイと冷めた目でそれを見ているオルガがそこにいる。
「可哀そうでしょ、だから止めなって言ったのに」
「はぁはぁ、そんな事を言ってるお前だって気配をちゃんと消したじゃないか、本当は腹の中で笑っているんだろ、俺のせいだけにするなよな」
「てっきりこれぐらは対処出来るようになったと思うのにまさかこんなに驚くなんて思わなかったわよ、もし敵だったらどうなったのかしらね」
オルガは相変わらず厳しい事を言ってくれるが、これはただの嫌味では無くて叱咤激励だと信じたい。
「あのね、ちょっと油断しただけだよ、それに殺気が全く無いんだからしょうがないだろ、もし敵だったら直ぐに察しするさ」
「そうだと良いけどね」
「もういいじゃねぇか、それより入れ違いにならなくて本当に良かったよな、ずっとナンスルで待ちぼうけを食うところだったぜ」
ドロフェイ達がナンスルに向かっているのはおばば様が腕輪の秘密を解けたせいだった。
その説明を黙って聞いていた。
それだと今村さん達はただ騙されているな、早く教えて外してあげないといけない。
今は何処にいるんだっけ? 確か元帝国の王都に五聖柱がいるんだよな。