第百七話 ジールの考え
頭の中では色々な案が浮かんでは消していくのを繰り返し、俺の中では現役の盗賊がいない事を信じて無理やりここから立ち去る方向にしようかと思った時にジールが集会場の中に入って来た。
「外で聞いていたけどさ、昔はあんたらも盗賊だったんでしょ」
「あのなお嬢ちゃん、信じて貰えんかもしれんが儂らは盗賊では無いんだ。ただ綺麗な身体では無くてな、実はの、帝国の犯罪奴隷を扱う鉱山から脱走して此処に逃げて来たんじゃ」
堰を切ったように話始めたので話の腰を折らないようにずっと黙って聞き始めた。
最初はこんな森の中ではなく王国に亡命も考えたそうだがその頃は王国と帝国との戦争が終わったばかりで王国に助けを求めるよりも憎しみの方が勝っていたそうだ。
初めは200人以上の囚人と共にこの場所で住み着いたのだが、こんな辺鄙な場所に耐えられない者達は次々と何処かに去って行った。
残った者達の中で結婚する者も現れ、その頃になると森に畑を作り狩りなどで自給自足で生活を営んでいたが子供達の世代はそれに不満を募らせていた。
第二世代が狩りに行っていると偶然森の中で盗賊と出会い意気投合してそれからは盗賊と手を組んで生きる事を選択した。
第一世代の者達は咎めようとしたそうだが、彼等も帝国では犯罪に手を染めていた者達だったので強く言う事は出来なかったらしい。
目の前にいる老人たちはその時に止めさせればこんな事にならなかったと後悔の涙を流しているがそれを見ていても何も感情が揺さぶれない。
(ただの見て見ぬふりじゃないか、それで生活していたんだから同罪だろ)
だからと言って彼等を殺そうなどとは思えないのでやはりこのまま帰ろうと思ったがジールは違う考えを持っていた。
「あんた達さぁ、もういくら何でも王国にまだ恨みが残っている訳じゃないよね、だったらこんな場所に居ないで王国の街で住んだらどうなの? 嫌だったらここに残っていてもいいけど私はこの場所の事を言うからね」
「今更、王国の街に行ってどうするんじゃ」
「だから住めって言ったでしょ」
いきなりの提案に俺もエドも驚いているが、ジールの目は本気そのものだ。
「ジール、いくら何でもそれは無理じゃないか」
「そうだよ先輩の言う通りだと思うな、こんなに身分証を持っていない人達をどうやって説明するのさ、さっきの話をそのまま行ったら捕まるか殺されるんだよ」
いくら古い話とはいえ帝国の犯罪者を何お咎めの無く受け入れる訳はないし、子供の世代とは言え盗賊行為で生活をしていたのだからそれだけでも罪になる。
「素直に言う必要はないでしょ、いい、帝国は滅んだんだよ」
ジールの考えはこの人達は帝国の外れにある村に暮らしていたと設定して、この機会にただ帝国から亡命した事にしようとしている。若い男達がいないのは魔国との戦争に駆り出されて帰って来ない事にするらしい。
老人たちが過去に犯罪をしたとしてもそれは帝国内の事なので調べても何も出てこないし、辺境の村で暮らしていたとすれば正確な情報が何も入って来なかった理由にもなる。
「あの~それはちょっと強引じゃ無いかの」
「大丈夫よ、これでも私は領主の娘だからね、お父様はこういった話に弱いから無下にはしないと思うな、ただもしこの中に王国内で犯罪をしてそれを見られていたら保証は出来ないけど、まぁ好きにしなよ、あっそうだ言っておくけどただの親切じゃなくてあんた達にはして欲しい事があるんだからね」
「それは何ですかの」
「簡単な事よ…………」
◇◇◇
当たり前の事だが簡単に答えは出ない様で集落の者達だけで話し合いが続けられている。
「ジールさん、本当に大丈夫なの?」
「エドって意外と心配性なんだね、こんな何処も混乱している時期なんだから平気じゃないかな、ただ王国内では実行犯じゃなかったらね、それだったら知らないわよ、そんな事よりもお父様も私の手土産を喜んでくれると思うな」
薄っすらとほほ笑んだジールの顔は美しくもあったがその目の奥にある物には怖さもある。
(ジールは冒険者より領主になった方が良いんじゃないかな)
こっちがこんな事になっているとは思っていないジンガは安らかな顔で眠りについている母と兄弟の顔を見ながら一人で涙をこぼしていた。
翌朝になると集落の代表である長がやってきてジールと細かい打ち合わせをしている。
その間に集落は移動の準備が進められ俺とエドは自分の足で移動が出来ない人の為に担架を作り始めた。
(担架を浮かせる魔道具があるとは驚きだな、これなら子供一人でも運べるじゃないか。帝国の技術は昔から王国よりも進んでいたのか? それともこの中に研究者がいるのだろうか)
準備は簡単いは終わらず、二日を過ぎてナンスルの街を目指して行く。