第百四話 狙え!
いよいよ数日後にはナンスルの街に到着する事が出来るところまでやって来た。そこでジールとのパーティを解消するつもりなのだがまだその事をちゃんと話せていない。
(真剣に話さないといけないな、この問題はジールだけじゃないんだから)
直ぐ近くには岩山があり、なぜかジンガがその岩山を気にしている。
「あっあんなところにいやがった。馬鹿だな魔獣対策をしないで登ったのかよ」
ジンガが指を指した先には崖に張り付いている二人組がサックバードに襲われていて必死に何かを振ってどうにかしようとしている。
サックバードはその連中より大きく、鉤爪を伸ばしながら捕まえようとしているように見えた。
今のところはどうにか捕まらないでいるが、あんな場所ではそうやっていられるのも時間の問題だろう。
「まさかと思うけど子供じゃないよね」
「やっぱそう思う? 薄々そうじゃないかと思ったけど……あ~もう、僕がちょっと行ってきますわ」
「いくら何でもエドでも間に合わないだろ、俺がやってみるしかないな」
「200mはあるけど狙えるんですか先輩」
その距離でしかも相手は動いているのだから確実とは言えないが、だからと言ってやらない訳にはいかない。
杖を構えてその目でサックバードの動きを予測し雷の玉を準備する。
「それは駄目、【雷銃】の音だと驚いて落ちてしまうかもよ」
「そうか、だったらこれなら、行けっ」
細くて小さな【雷針】を飛ばしていく。刺さった後の破裂させるとそれにも驚くかもしれないので確実にダメージを与えなくてはいけない。
俺の緊張とは裏腹に子供の笑い声の様な馬鹿にした音と共に飛んで行った【雷針】は5発のうち2発がサックバードの胴体を突き破りよろよろと落ちてくる。
「雷銃」
子供達から離れたので雷銃で頭を吹き飛ばす。
「上手いじゃない、だけどさ、どうして同じ魔法なのに毎回音が少し違うのよ、ねぇわざとやってるの」
「そんな器用な真似が出来るなら音なんて出さないって、俺だって訳が分からないよ」
「先輩、そんなことよりあいつらまた登りやがった」
偶然にサックバードが逃げたと思っているのか、下を見る様子もなくまたしても崖を登り始めている。
「アニキ、また出てきますぜ」
「マジかよ、あいつらも気がつけよな」
岩山でしかも形が入り組んでいるせいで全てが見える訳では無い。もしも亀裂の中にサックバードの巣があるのだから手の施しようがないだろう。
「アニキ此処からだと良く分かんないな、只かなりの数かこの山の中にいるよ」
「そうか……もういい僕が行くから先輩フォローをお願します」
「分かった。任せてくれ」
登っているのが大人であったのなら自己責任だと思うのでエドも俺もそこまではしないと思うが子供だと確信してしまったので見逃せなくなってしまった。
「アニキ、登るだけならオイラの方が早いんで行ってきます。説得はしますが嫌がる様なら見捨てますけど良いですよね」
「あぁ危険だと思ったら直ぐに戻って来い」
「雷針、何だよ中々当たんねぇな」
エドとジンガが話している内に別のサックバードが襲いかかりそうだったので撃ち落としたかったが今度は上手くいかない。それでも子供達の方には近寄らせない様には出来ている。
「どうしたのよ、そんなに下手だっけ?」
「しょうがないだろ、なるべく小さくしてるんだからさ」
「先輩、別の奴が来ますよ」
「何だんだよ諦めたと思ったら次かよ」
やけくそ気味にさっきより数を増やして一気に撃ちまくる。
それなりに音も大きくなっているが殺されるよりかはマシだろう」
「あっやっと気が付いたみたいよ」
「もっと前から分かるだろうに」
子供達はようやく異常さに気が付き二人して下を見ている。そのまま諦めてくれたらいいがどうするかまだ考え中のようだ。
「あっジンガがもう下にいるじゃない」
ジンガは隙間に入りながら登っていたのですっかりとその姿を見失っていたが子供達に近い割れ目の中から出て来た。
「雷針……早くしてくれ」
「頑張れジンガ」
「何やってんだあいつは」
子供達に追いついたジンガは少しその場にとどまった後で少し上にある割れ目に子供達と共に姿を消して行った。
「隠れたならもういいか、雷銃」
遠慮なしに魔法を放つと命中率はかなり上がるし威力も違うのでどんどん落とす事が出来る。
「そのまま落ちてくれたら回収が楽なのにね」
「諦めろよ、そこまでは無理だって」
落ちてくるサックバードは風の影響をうえて流されながら落ちていく。空にはサックバードの姿が消え、少し経つとかなり下の方の割れ目からジンガと子供達が出て来た。