第十一話 旅立ち
最初はドロフェイだけが送ってくれる事だったが、聖獣様が行きたがった事もあり、オルガもそしてクラウジーも行く事が決まって、更には冒険者として少しはまともになるまで付き合ってくれる事になった。
(何だか子供扱いされている様だけど、俺の年齢だとエルフにとってはそうなのかな)
村を出る日になるとこの里にいる殆どのエルフが見送りに来てくれたので、最初の冷たい態度の頃を思い出すとやはり此処を離れたくない気持ちが顔を覗かせてくる。
(まさか俺がこんな田舎暮らしが気に入るとは思わなかったよ、狩りも楽しかったし農作業も楽しかったな)
「ユウ、ちゃんと記憶が戻るといいよな」
「自分の国が見つからなかったら此処で暮らせばいいんだぞ」
かりそめの勇者はエルフ達にも忌み嫌われているので、この里で暮らす事になった最初の段階でおばば様は俺の事を聖獣様を救った記憶喪失の人間と言う風に設定をした。
(みなさん、嘘をついたままでごめんなさい)
俺の事を魔力が高いだけの人間と思っている彼等は俺のために花火のような色とりどりの魔法を空に打ち上げ、音楽を奏でて盛大に見送ってくれる。
此処にいる者達は感動に包まれていたが、簡単にこの空気を壊してくれたのは背中に大きすぎる籠を背負った初めて見る中年のエルフだった。
「お~これはこれは、ここまでして私の帰還を祝ってくれるなんて思いませんでしたな、みなさま~四十年ぶりにこのクラガが戻ってきましたぞ」
クラガは笑顔のままだが、感動の見送りに水を差されたエルフ達はクラガに対してジト目を向けている。
「誰がお前にこんな事するかよ、ほんの少し何処かに行っていただけじゃね~か、それになお前が今日戻って来るなんざ誰も知らねぇよ」
「あんたはいつもいつもいい加減にしなさいな、こっちはなもう二度と会えないかも知れないユウとの別れなんだからね」
各方面から一方的に攻められているクラガを見ていると、初めて会ったばかりだが何だか可哀そうに思えてきた。
「あの、もういいじゃないですか、皆さんの気持ちは充分に伝わりましたから俺は嬉しいですよ」
空気が変わってしまったのでこのまま里を出て行こうと背を向けると、クラガがが誰かに話している声が微かに聞こえてくる。
「そうなんですよ、<黎明の平原>からオークがこの森に向かっているんですよ、神聖な森に入って欲しくないんですが止められないでしょうな」
「またオークかよ、あいつら森を汚すからな、被害が酷くなる前に討伐隊を結成するしかないな」
俺が聞こえたぐらいなのでドロフェイ達にも聞こえていて、歩きだしたその足を止め、クラガの方を振り返っている。
(せめてこれぐらいは恩返しをしないとな)
「あのさ、寄り道して俺達で討伐に行けないかな、冒険者としての練習になるかも知れないからね」
「それは有り難いけどよ、方向が違うからかなり時間が掛かってしまうぞ、それでも良いのか」
「良いに決まっているだろ」
「場所は聞いた、行くぞ」
俺とドロフェイが話している最中にクラウジーはクラガから正確な情報を聞き出し、同意をしていないのにいきなり走り出してしまった。
「どうしようもないね、あいつは」
「まぁいいんじゃなぇの、あいつはユウの気持ちを分かっているんだろ、さぁユウは俺がおぶさってやるよ」
大人の俺がおんぶされるのは恥ずかしいが、森の中を疾走するエルフの速度に俺は全くついていけない。
「ユウはあの魔法を使えば良いんじゃないの」
「あれはそれほど便利じゃないんだ。そもそも短時間しか使えないしな」
オルガが言ってきたのは、俺が【雷瞬】と名付けた魔法でほんの数秒だけドロフェイすら凌駕する動きを見せるが、連続使用や無理して時間を伸ばすと一気に反動がきてしまい数日の間は全く動けなくなってしまう。
「そうだ今度夜に見せて貰えよ、あれは綺麗だぞ光が走るんだからな」
「そうなの、だったら今日やってよ」
「ドロフェイ、よく気にしている事を言うよな」
「あぁそうだっけ、すまんな」
俺が【雷瞬】を使うと、身体から光を発してしまうので目立って仕方がない隠密行動がしたいので光を出さないようにしたいのだが今のところ成功する欠片も無い。
「さぁもういいか、はやくしないとクラウジーの奴に追いつかないぞ」
「そうね、それなら行きましょうか、あっそうだ討伐はユウだけでやりなさいよ」
いきなりのその言葉に俺もドロフェイも驚いてしまったが、ドロフェイは何かを感じた様でそれには答えず里の者達に声を掛けて走り出していく。
「すみません。本当にありがとうございました」
「「「元気でな~、頼んだぞ~」」」
走りながらドロフェイが説明してくれると、俺が冒険者になる為の練習相手としてオークを選んだそうだ。オルガにとってはオークなど虫けらと変わらない存在なのだろう。
(オークってゴブリンよりも強いんだろ、冒険者ってそんなに強いのか? 参ったな俺は大丈夫なのかな)
「く~ん、く~ん」
オルガの手の中にいる聖獣様だけが俺を心配してくれている。
森の中で二晩を移動して過ごし、昼頃になってくるとそれまで空気が綺麗だった森の中に濃い獣臭が混ざって来た。