第百三話 エドの告白
エドの様子が少しおかしいのでジールとジンガにはこの場所で待っていてもらい俺だけで近づいて行く。
エドはどす黒い血が滴り落ちる剣を握りしめたまま下を向いて微動だにしていなかった。
「どうした? 大丈夫か」
なるべく優しく声を掛けたつもりだったがエドはブルブルと身体を震わせ始めた。
「こいつらに同情なんてしやしないんですけど、ただ…………」
「ただ、何だ」
「いえ、気にしないで下さい。行きましょうか」
何かを言いかけたエドだったがその事は言わないようだし、もし人を殺したことに罪悪感があるとすればこの手で人を殺した事が無い俺には何と言って良いか分からない。
(俺はズルいのかな)
「二人が待っている、戻ろうか」
◇◇◇
あれから暫くエドは元気が無かったか数日過ぎると徐々に元の状態に戻りつつある。
それからの日々は食料にする為だけの討伐をし、それ以外の魔獣は見つけたとしてもやり過ごしている。
ただゴブリンだけは討伐しようと思ってはいたが一度も遭遇する事はなかった。
「アニキ~もうすぐ草原に入りますよ」
「そうか、やっと広い空間に出れるんだな」
これまで林の中をずっと歩いていたので此処から抜ける事は嬉しいのだがこの先に待っている場所は俺にとっては余り気分のいい場所ではなく、それはジールが乗っている馬にとっても同じだったようだ。
「落ち着きなさい。もうあんな事はさせないから安心してよ」
「どうしたの? 急にお姉ちゃんの馬がソワソワしてるね」
「これは全部ユウのせいなんだよ」
ジールが俺が魔法の制御に失敗して馬を瀕死の目に合わせたことを話すとエドもジンガも楽しそうに笑い始めた。
(ようやくエドの笑顔が出るようになったか、だけどな)
もうこの場所はただの苦い思い出の場所でしか無いが、もう少し先に進んで行くとオーガと戦った場所に行く事になる。
「先輩、何か緊張している様な気がするんだけど、どうかした?」
「よくそんな事が分かるな」
「師匠との修行の成果さ、僕は魔法が使えないけどその分こういった事が分かるのかな」
此処に来るまでの間にエドも魔法が使えるようになるかもしれないと思って色々試したがいくらやっても魔法が使える気配すらないし、エドの中にある魔力はジール以下でしかない。
「俺とは違うって事か」
「二人ともかりそめになれなかったしね、それでこの先に何があるんだい」
「何があるんじゃなくて前に会ったんだよ」
エドにコボルト、ハーピー、そしてオーガとの連続の戦いを聞かせると思った以上の事だったらしくかなり驚いたようだ。
「まさか先輩が本物の魔人と戦ったとはね、僕なんてはぐれ魔人位だけだからね、どうせならオーガと一度戦ってみたいな」
「止めといた方がいいぞ、俺は向うの気まぐれで生き残ったけど奴は全然本気を出していない様だったからな」
ザシャと戦ってから多少は経験を積んだのでその事を思い出すとザシャがいかに手を抜いていたのか分かるようになった。
(もう会いたくないな。けどもう一度戦えばもしかしたら……。)
戦った場所に近づいた時は思わず身体に力が入りながらオーガ達が去って行った方向を見つめていた。
当たり前の様にそこには空が広がっているだけで魔人の姿が見える訳もなかった。
「あの思ったんですけど今村さん達は魔王を倒したってことはさ、そうなると先輩よりもかなり強いって事になるんだよね」
「そうだよな、魔王なんて見たことないけど王と言うぐらいだからあのオーガよりも強いのは理解出来るんだけど、イレイガでの討伐の話を聞くと俺と今村さん達の間にそこまでの実力の違いがあるようには思えないんだよな、まぁかりそめとはいえ勇者なんだからあの時とは比べようもない程急成長したんだろう」
「平井先輩も勇者なんだよね」
「かなり自信を持ったいたな、何だか悪い方向に向かっているような気はするけど」
嫌な予感はしていたが、まさかこの時は平井がかつての同僚を傀儡として利用しているなんて思いもしなかったし、今村主任が魔王との戦いで死んでしまったなどとは想像もしていなかった。
「あの、ずっと言えなかったんですけど実は所長をこの手で殺してしまいました」
「えっ何があったんだ」
エドは馬の速度を緩め、ジンガとジールとの距離を開けるとその事について話しだした。
「僕のした行為は間違っていますかね」
「俺も同じようにしたと思うな、ただあの人はこの世界に来なければな」
「そうですね、それにまともに助けてくれる人がいたらあんな風に変わらなかったのかな」
運次第か、もし俺が所長の立場だったらそうなってしまったのだろうか。