第九十九話 アフガルの街での最後の仕事
「それで今度はエルフの里を目指すで良いんだよね」
「里に行くのは俺だけさ。義人……いやエドにはナンスルの街で待っていてもらうんだ。それとジールは大分契約期間が過ぎたからな」
「何が言いたいの、あれは最低1ヶ月って事でしょ、まだ私には冒険者をやる時間があるんだけど解散したいって事」
「それが良いと思うんだ」
初めは厄介だと思っていたが今ではとても頼りになるし出来る事ならこのままでいて欲しいのはやまやまだが、この先の俺達のやる事を考えると解散した方がジールの為に言いと思う。
「その話はまた今度でいいかな、それよりエドとはいつ出発するの」
「やり残した仕事を済ませてからだってさ」
◇◇◇
エドが引きこもる前にやろうとしていた仕事がてっきり終わっていると思ったがまだ誰も達成出来ていなかった。
それはこの近くのオビト山の中にアラクネが巣を張っているので駆除の依頼だったが任務に失敗の報告がかなり上がっているのでこれを最後の仕事にしようと決めた。
エドはジンガと二人で行こうとしたがこの先の連携の事も考えるといい機会だと思うので俺とジールも一緒に行く事を決心する。
「アニキ、いきなり流暢に話し出しもんですからあのシロンさんが驚いていましたよ」
「本当だな、出来ればもっと早くこの魔道具に出会いたかったよ」
「義人、それをずっと付けているんじゃなくてたまに外すといい勉強になるぞ」
義人は腕輪が無くてもかなり言葉を理解出来るそうなのに話すのが苦手なのはやはりこの世界独特の発音のせいだろう。
「ねぇあとどれぐらいで目的地なの?」
「そうですね、山に入ってから一日も歩けば到着しますよ、ジンガがいなければもっと時間がかかりますけどね」
「ふ~ん」
「なぁお前はB級だしこの世界なんだからその話方は止めろよ、誰かに聞かれたらどう思われるか分からないからな」
「そうか、だったらおいらもいいよね」
「「「お前は駄目だ」」」
ジールならまだしもジンガはかなり年下なので対等にはして欲しくない。せめてC級に上がる迄は言葉使いはそのままにして貰うつもりだ。
「はいはい分かりましたよ、こうなったら早くC級に上がって認めて貰いますからね」
(それにしてもすっかりアニキは元気になったな、それに何処かゆとりが出来たように見える。本当に良かったよ)
◇◇◇
険しい山を歩いていると段々空気が淀み始め、ジンガの口数も少なくなってきた。
「もうすぐですね、感じるだけで100体はいるようなのでギルドで聞いた情報よりかなり多いですよ」
「まぁ何とかなるんじゃないか、先輩、いきなり連携は無理だと思うので聞きますが、もし先輩達だけだったらどうしますか」
やはり義人の話方は簡単に治らないようなのでこれからは直させる意味を込めてエドと呼んでみよう。
「俺は魔法しかないからね視界に入ったら直ぐ撃つし、場合によってはジールに任せる場合もあるかな、エドの方はどうなんだ」
「僕達はジンガが正確な場所と数を伝えてきたら僕だけで戦うかな、ジンガがもう少し腕を上げたら参加させたいけどゴブリンはともかくこれは無理だね」
エドの動きが読めないので一緒に討伐するのではなく交代でやる事にした。最初に俺達が戦う事になったが後方から見られると思うと何だか恥ずかしいような気もする。
「あのさ、全部やらないでよ、私だって戦いたいんだから」
「俺は木の上のアラクネに集中するから降りて来た奴は任せるよ」
進んでいくと頭上に蜘蛛の糸が張り巡らされているので決して触れないように慎重に歩いて行く。ここまでくると魔力感知をしなくてもアラクネの気配が伝わって来た。
「右上前方からやって来るよ」
後ろからジンガが叫んできたので合図を送るとエドがジンガの口を塞いで
頭を下げている。
(そこまで気を使わなくてもいいのにな)
進むのを止めて杖をしっかりと握り深く長い息を吐いて集中する。
「俺が全てを撃ってから好きにしていいからな」
「分かってるわよ」
杖を頭上に掲げ何十もの【雷針】を出現させると、直ぐにでも飛び出したいのか【雷針】が咆哮を上げている様な音を出し始めた。
(やはり地上は良いよな、五月蠅い事には変わらないけどこれなら全然我慢できるよ)
「ねぇちょっと後ろを見てみなよ」
肩を突かれたので振り返るとエドは驚いた顔をしているし、ジンガは耳を塞いでいる。
(そうか、言っていなかったか)