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第九十五話 アフガルの街で

 街道に活気があるおかげで盗賊が姿を現す気配はないし、途中で立ち寄った村や街でも何故か衛兵が張りきっていたので事件らしい事件はなかった。


 ただ一度だけジールが酔っ払いに絡まれた時にイクサが助けに行って返り討ちに合ってしまったぐらいだ。


 ゴルゴダの街を出発してから8日が過ぎてようやくアフガルの街に到着した。そこで俺は生まれて初めて獣人族を見たのだが自分でも驚くほどすんなりと受け止めている。


(オーガやコボルトを見た後ではこんなものか)


 街に入るともう此処ではイクサの顔を知っている者はいないに等しいのでようやく煩わしかったであろうフードを外した。


「ユウさんにジールさん、本当に有難うございました。ここからは自分の力で妹を迎え入れる準備をしたいと思います」


「何よ、まだ一人じゃ無理じゃない」


「そうだよ、そのカードだとF級なんだろ、少しの間一緒に行動するよ」


 六宝星が元帝国の王都がある場所に居ると言う情報は仕入れてあるのでそれ程焦らずに【サムライ】を探そうと思っている。だからその傍らでイクサの生活が落ち着くのを手伝ってもいいと思っていた。


「いえ、ここまでで充分です。これ以上甘える訳にはいきません」


「そんな事気にしなくてもいいのにな」


「そうよ、別についでなんだからさ」


 酔っ払いに簡単にやられるほどの男だから心配なのだが、イクサの意思は固かったので何かあったら直ぐに助けを求める様にだけ伝えるしか出来ない。


 直ぐに【サムライ】と合流が出来てこの街を簡単に離れる事が出来るなどと思ってもいないからその間は気にかけておこう。



 ◇◇◇



 【サムライ】の情報を得るためにギルドの中に入って行くと、昼間のせいかあまり人間や獣人族の冒険者はいないがそのおかげで受付に誰も並んでいないのは好都合だ。


 ジールは誰でもいいと思っていると思うが俺としてはどうせなら猫の様な耳を持っている獣人族の受付嬢がいいのでさりげなくそこに行く事に決めた。


「すみません、人を探しているんですがいいですか」


「人探しですか? お答えできる範囲であれば大丈夫ですよ」 


 見た目はちょっとギャルに近い気がするが中々落ち着いた話方をする獣人族の女性だ。


「サムライって人なんですけど、個々の所属になっていますよね、何処に行ったら会えますかね」


「サムライさんですか……」


 顎に手を当てて考えていがその手は微かに震えているし少しだけ動揺している様な気がするので全く知らない訳ではなさそうだ。


「会いたいんですよね」


「申し訳ないですけど聞いた事がありませんので何かの勘違いじゃないですか」


「あのさ、隠さないでくれるかな、そもそも調べもしないでその答えが出るのは怠慢じゃないかな、彼はB級の冒険者なんだからすぐ分るでしょうが」


「いえ……その……」


 そこまで怒鳴った訳じゃないのだが受付嬢が泣きそうな顔になってしまったので心の中では動揺してしまう。


(何で調べようとしないんだよそれでいないならいないで済むじゃないか、この子は何がしたいんだ)


 完全に下を向いてしまった時にその娘の後ろから凛とした30代の女性が近づいて来てこの娘の肩を叩いた。


「私が交わりますよ、ミロさんは後ろに下がりなさい」


「えっあのシロンさん……」


「いいから下がりなさい」


「すみません副ギルド長」


 その娘に向けられた視線はかなり冷たく当事者では無いのに身体が縮こまってしまいそうになる。ミロと呼ばれた受付嬢を下がらせた後で副ギルド長のシロンはゆっくりと椅子に座った。


 息を飲んでその仕草を見ていると横にいるジールの肘鉄が突き刺さる。


「ねぇ見とれてるんじゃないわよ、その馬鹿みたいな顔は恥ずかしいから止めてよね」


「そんなんじゃないから声に出すなよな」


「それぐらいでは気にしませんから大丈夫ですよ、それよりサムライさんは確かにこのギルドの所属で間違いございません」


 いきなり話が進んで行く気配がしたので前のめりになってしまうが次の副ギルド長の言葉は俺の期待していた答えとはかけ離れたものだった。


「ただですね、もうサムライと言う名の冒険者とこの街で会える事はないでしょうね、これが私達ギルドの正式な回答になりますので他の人に聞いたところで同じですよ」


「どうしてですか。もしかして死んでしまったのですか」


「……お答えできません」


「何でよ、それぐらいはいいじゃない。何処かに行ったのならそう言えばいいだけなのに意味深なこと言わないでよね」


「どう思われようと構いませんよ」


 これ以上彼女に聞いてもまとな答えが返ってくるとは思わないのでギルドの前で戻って来る何人もの冒険者に【サムライ】の事を尋ねたが誰一人として知らなかった。


(B級の冒険者なのに何で誰も知らないんだ? 嘘を言っている様には見えなかったんだよな)


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