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その八 かりそめの勇者の力

「ご苦労だったな勇者平井よ、よくぞ三大魔王の一角を倒してくれたな。そのおかげで私が次期国王になるのは決まったようなものだ。そのお礼として何か欲しい物はあるか? 何でも与えてやろうじゃないか」


「誠に有難うございます、それでしたらこの腕輪を……」


 平井が言い終わる前にメティアス王子の鋭い視線が身体に突き刺さる。


(不味いな調子に乗ってしまったか)


「腕輪がどうしたんだ? まさか外して欲しいとかいうのではないだろうな、外したら言葉が分からなくなるがいいのか、それともその犠牲をもってしてでも国に対して何かをしようとするのかね」


「そうではありません、ただちょっとこの腕輪をあまり人に見られたくなかっただけです」


 今村が死んでしまったのでかりそめの勇者は平井だけになり、少し気が大きくなってしまったがもう一度冷静になって行動しようと心に決めた瞬間だった。


 もう一人のかりそめの勇者であった今村は魔王との戦いの中で自我を取り戻し戦ったが魔王には歯が立たず、恋人である小川春奈や同僚を守る為に魔王に抱きついて自爆し魔王と共に死んで逝った。


「それでどうしたいんだ」


「この腕輪を民衆達に見られたら奴隷の腕輪だと分かってしまうかも知れません。ですからどうにかして隠したいのですが」


「そうだな、これからお前は勇者としてもっと目立たなければいかんからな……よしっ早速手配させようじゃないか」


「有難き幸せ」



 ◇◇◇



「馬鹿王子の考えってこれなのか、まさかこれで終わりじゃねぇよな」


 王子が用意したのは腕輪の上に装着する籠手であって確かに見た目は良いのだが、これだと布を巻いて隠している現状と大差ない。


 部屋の中で一人で酒を飲んでいると近衛兵団隊長のミハイルが入って来た。


「おぉ良い腕輪じゃねぇか」


「そう思うならあげようか」


「出来る訳ねぇだろ、それより俺の出世は何時になるんだろうな」


「どうだろうね、俺達と一緒に魔国でも行って魔王を倒したら出世するんじゃねぇかな」


「そんな状況じゃねぇだろ、先ずは奪い取った帝国の領土をちゃんとしねぇといけねぇからな」


 帝国の領土は魔王軍にかなりボロボロにされてしまい、このだけではなく各地の街や村を立て直さなければいけない。


 その為に国王は領地無しの貴族を領主としてこの地に送って復興をさせていた。


「それで用事は何かな、まさか文句を言いに来ただけじゃないよね」


「ちげぇよ、貴族様から救援の要請が来ているんだ。魔国に戻っていない魔族が暴れているんだそうだ」


「まだいるのかよ、少しは休ませてほしいんだけど」


「仕方ねぇだろ、さぁ行くぞ、早く六宝星を……違うな、今は何だっけ」


「五聖柱だってさ、王都から一人寄越せばいいだけなのにまたしても変な名前にしたもんだよ」


「そんな事を言うなって、あいつのセンスはそんなもんなんだ」


 ミハイルはやけに親し気に平井に話しているが、それは決してミハイルの本当の気持ちではなく魔法による影響である。


 まだこの旧帝国の王都に王子が到着していなかった頃にこの城に隠されていた部屋の中から魔法の書物を平井は手に入れていた。


 その中には能力を上げる方法や知らなかった魔法が書かれてあり、その中の一つが【魅了】の魔法だった。


 ただこの魔法は誰にでも効果を発する訳では無くかなり狭い条件に合う人間にしか効果はないのだが心に闇を抱えるミハイルには効果的面でその事は平井にとってかなり有利に働いている。


(王子の方もかかると思ったんだけどな、まぁ加護の指輪をしているから無理なんだろう、あれ以上やったらバレて殺されるからな)



 ◇◇◇



「ツマンネーナ、コンナモノカ」


「くそがったかがオーガのくせによ」


 魔人の残党を順調に蹴散らせていた平井達だったが、国境付近に現れたオーガ族と悪魔族との戦いでは苦戦を強いられている。


 五聖柱が到着すると一回り大きいオーガだけが平井達と戦っているのだが中尾の斧はかすり傷すら与えられず、二木の土魔法は簡単に蹴散らかされ石井の火炎魔法も吹き飛ばされてしまった。


「だったら俺がやるしかねぇかブースト」


 燃えるように赤く輝いた平井はロングソードを片手に持ってそのオーガを上から斬りつけにいく。


 魔王には通用しなかった【ブースト】の魔法だが、オーガ程度ならば楽に殺せるはずで討伐成功の未来を思い描いていた平井の希望は打ち砕かれた。


 オーガはつまらなそうに持ったいた棍棒でロングソードを砕くと、そのまま平井の腹に向かって投げつけ深く棍棒は突き刺さった。


 更に伸ばした爪で平井の右目をもぎ取るとそのまま地面に投げつけて踏みつけてしまう。


「ぐががががががが」


 直ぐに小川が平井に再生魔法を掛けると腹の傷は塞がったが右目は再生する気配すらない。


「チョットマッテクレヨ、コレガサイコウセンリョクカ、モウイイヤ、アオイッオマエラアクマゾクガヤリヤガレ、クズノオマエラデモコレグライハデキルダロ」


 ザシャを先頭にしてオーガ族は魔国に向かって歩き出し代わりに悪魔族が前に出てくる。


 戦っている内に平井の右目は元通りになり体力も一気に回復したのでそのまま悪魔族を撤退させる事に成功した。


(小川の力が上がったのか、急に力が湧いて来たぞ)

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