第九十一話 助っ人参上
「父上~ご無事でしょうか、おい衛兵、早く奴を殺してしまえ」
「落ち着いて下さいアドリアーノ様、下手な事をすると伯爵様の身が危ないではありませんか」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
そんな風に怒りをあらわにする人間がいるとは思わなかったのでこれは珍しいのを見れたと思う。
バルコニーの上では猿轡された伯爵は此方を睨みつけているので言葉には出せないが早く対処しろと文句を頭に思い浮かべているに違いない。
ロドロは大声を上げて要求を言ってきてその内容はゲルトから聞いた話とほぼ一緒だが、少し違うのは三時間以内にサチを解放しないと伯爵を殺すと言う事だった。
「ロドロ君、私は衛兵隊長のブルートだ。何度も君に言うがそんな事をしても君の妹の罪は消えないんだ。諦めて投降しなさい」
「ふざけろよ、ちゃんとした取り調べ何てしていないでしょ、いくら国がこんな状態だからと言って直ぐに奴隷商に渡すなんてありえないでしょうが、それにサチを売った金がどうしてこいつらの懐に入るんだよ」
「損害賠償として……いやっその」
言葉に詰まってしまった隊長をみると何だか嫌な物を見てしまった気がしてこの場から少し離れることにした。
ゲルトもそう感じたのか一緒に付いて来る。
「色々疑ったがありゃ真っ黒だな」
「そうだね、それでどうにか上手く解決できないかな」
「あんなやり方をしたらもう無理だろうな、気持ちは分からなくも無いがこれはやりすぎさ」
今までは魔法で解決をしてきたが、今回はそんな力ではどうにも出来る訳はなく胸が締め付けられる思いを持ちながらロドロを眺めた。
するといきなり背後から話し掛けられる。
「確かに難しいけどよ、なんとかしてやりてぇよな」
「ギルド長じゃないですか、どうして此処にいるんですか」
「ロドロの馬鹿が暴走したって聞いてな、またお前の力を借りなくちゃいけないがいいよな、まぁ嫌なら他の手を使うまでなんだがよ」
ロドロは少し前までD級冒険者としてギルドに所属していたのだが怪我が原因で離れる事になってしまった。アキムの紹介で今は違う仕事をしている縁もあるので見過せなかったようだ。
こんな状況で俺が何の役に立つのか分からないが俺の手を取ってそのまま隊長とアドリアーヌがいる場所に向かって行く。
「ちょっと何をするんですか」
「お前に求めているのは魔法に決まっているだろ、ミノタウロスを倒す事よりかは楽だからな」
そのアキムの言葉で背中に冷たいものが走ってくる。
(まさかロドロは伯爵のどちらかを殺させるんじゃないだろうな、出来ない事はないけどそれをして何の意味があるんだ)
俺の力では抵抗したところでアキムに敵う訳もなくあきらめの境地で一緒に歩いて行く。やはり先程の場所ではアドリアーノが隊長に向かって文句を言っていた。
隊長は額から汗を流しながらアドリアーノを落ち着く様に説得していて、部下の衛兵はアドリアーノに対して冷たい視線を向けている。
(ふ~ん、衛兵もそう思っている人がいるって事か、だけど逆らえないよな)
「お話し中悪いんだけどさ、隊長さんの悩みを一気に解決する方法があるんだけどここはギルドに任せてくれないか」
「あぁ君は、本当なのかいギルド長、任せたいんだけど責任の所在が……」
失敗した時に自分に責任が掛かるのが嫌らしく答えを出せずにいたが、全ての責任はギルドが持つとアキムが言うとどこかホッとしたような顔つきになった。
だがアドリアーノは全然納得していない。
「おいおい勝手に話を進めるなよ、いいかこれはお前達の仕事じゃないか、冒険者などに任せて良いと思っているのか」
「ここに魔法を使える奴がいるので充分に役に立つかと思いますがね」
この街に残っている衛兵の中に遠距離で狙う事が出来る弓使いも魔法使いもいないし、責任をとら無くて良いのならギルドに任せたいと考えたのか必死になって隊長はアドリアーノを説得し続けた。
「貴様がそこまで言うのならギルドがやればいいさ、ただな絶対に父上を無事に解放させろよ、それとなあの野郎は殺すんだ」
「その事ですが、ただ一つだけ問題があってそれが解決できればご要望に応えられるですがいいですか」
「何だねその問題とは言ってみなさい」
「奴の気を逸らさないといけないので屋敷の近くに魔法を放つんですがもしかしたら屋敷に被害が出てしまうかも知れませんし、あぁ見えて奴は怪我さえしなければS級になれるほどの人材だったので殺すとなるとそれなり事が……」
「あぁもう好きにしたらいい。ただし分かっているだろうな」
「えぇ無事に助け出しますし、奴は殺します」
俺の意見など全く聞かずに話が進んで行き、結局は屋敷に被害が出たとしても問題は無い事になった。
(ロドロってS級の力があるのかよ、それだったら無理だろ、そもそも殺したく何てないんだけど)
この場で戦闘が始まる為に俺とアキムを残して他の人達は全員門の外に出て貰う事になった。
「何処に行くんだ。伯爵がどうなってもいいのか」
「うるせぇよ、お前は黙ってそこに居れば良いんだよ」
何が起こるのか分からなく動揺しているロドロをいきなり怒鳴りつけたが、俺は何をすればいいのだろう。