第八十九話 治安部隊にて
アキムの話を聞いているうちに段々と恥ずかしくなってしまった。先ずはジールだが領主の娘と知られたくないのなら冒険者になった時に秘匿申請をすれば良かったのにそれを怠っていた。
そして俺の馬鹿な質問の答えは誰が何処のギルドの所属になっているのかは公表しても良い事になっているしそれが嫌ならそれも秘匿申請をしなければならない。
二人とも最初の段階で話を聞いていなかった事が分かってしまった。
(最初の話が長すぎるんだよな)
ちなみに俺の所属はナンスルのギルドとなっていて他の誰かが居場所を尋ねた場合はナンスルの街ということになりいくら此処で仕事をしている事を職員が知っていたとしてもそれは秘密となっている。
「いい加減分かったか、まぁ知らねぇ奴もいるからいいけどよ、それよりジールは街さえ出なけりゃ好きにしていていいがお前は駄目だぞ、門番か警備をしねぇとな」
「どうしてですか、俺ってまだD級だよね、そんな義務は無いと思うんだけど」
「はぁちゃんと自分のギルドカードを見ろよな、いいか今回の事でC級に上がっているんだぞ、この先に上がるのはそう簡単にはいかんがお前ならいけるだろうな」
C級になった事で早くも冒険者として一人前になったという事だろう。これで何処の街でもそれなりの対応をしてくれると思うのでもう十分だ。
別にこの世界に長くいる訳でもないのだから。
「それじゃあんたのC級のお祝いをしなきゃね」
「そう? だったら食堂に行こうか、それじゃ失礼します」
頭を下げてから立ち上がりそのまま部屋を出て行こうとしたがアキムはそれを許してはくれなかった。
「駄目に決まっているだろうが、お前はもう強制なんだ。さっさと衛兵の詰所に行って来い」
「え~嫌なんですけど、それにC級は全員じゃないんですよね、だったらなったばかりの俺がやらなくてもいいじゃないですか」
「お前なぁ45層を攻略したパーティじゃねぇか、明日には誰もが知る事になるだろうよ、ジールはまだD級だから仕方ねぇがお前は無理に決まっているだろ」
ギルドの情報の早さに驚いてしまうと共に俺の背中に寒気が襲ってくる。
(ちょっと嫌だな、目立ちたくないんだけど……んっドロフェイが【サムライ】の存在を知ったのは彼が目立っていたから何だよな、そうなると俺にも当てはまるじゃないか、まだ隠れている他の同僚なら良いけど、面倒な事にならないか)
「ねぇどうしたの、真剣な顔をしちゃってさ」
「あぁそうだな……ちょっとね」
(この街ではもう今更だがこれからは自重しないとな、もう階級はこれで良いんだから)
◇◇◇
衛兵隊長が希望を聞いてくれたので退屈そうな門番ではなく治安維持部隊に配属してもらった。大袈裟な部隊名だがやる事は詰所での待機やパトロールと言う名の散歩しかない。
冒険者が治安維持をする事になった当初はいろんな場所で喧嘩や窃盗があったそうだが衛兵とは違って冒険者はかなり乱暴に捕まえたので今では前より安全な街となったようだ。
乱暴の内容はある程度想像がつくので聞く事はしなかったが、鬱憤の溜まった冒険者はかなりたちが悪いだろう。
「あ~暇だし金は少しだしか貰えねぇし、やってらんねぇよな」
「まぁまぁウルスさん良いじゃないですか、宿は無料だし食事も付いて来るんだからさ」
「お前はあれで稼いだから良いかも知れねぇけどよ、こっちはもっと稼ぎたいんだよ、いいよなオリハルコンの籠手を発注したんだろ」
「そうなんだけど持ち込みなのに加工賃があんなにするとは予想外ですよ」
「お前さぁ普通はよ鉱石を多く渡して相殺で作って貰うんだよ、まぁ今回は勉強になったんじゃねぇの」
加工賃をちゃんと確認しなかったせいで想像以上の出費が出てしまった。ヘンリクに分けた分を返して貰えば全く支払う必要がなくなるが今更そんな事は口が裂けても言えない。
(それでもワイバーンの分だけで足りたから良いとするか、ミノタウロスの魔石には手を付けていないしね)
数日もするとパトロールすら行かなくなってただひたすら待機場所の小屋で時間が過ぎるのを待っている。
てっきり今日も暇な一日が過ぎていくのかと油断していたが、そこに慌てた衛兵が飛び込んできた。
「のんびりしている場合じゃない。貴族の屋敷に賊が入ったんから手伝ってくれ」
半分眠りかけていたウルスがその声でパッチリと目を開けて勢いよく立ち上がる。
「やったじゃねぇか、これは暇つぶしにはもってこいだな」
その言葉に衛兵の視線は冷たいものに変化していった。
「人の命が掛かっているんだぞ、よくそんな事を言えるな」
「……いやっ暇だったんで思わずというか……」
ウルスの言い訳に何も反応しない衛兵はそのまま小屋を出て行くので、直ぐに俺達も後を追いかける。
「余計な事を言うなよ、見学できなかったらつまらねぇだろうが」
「悪ぃな、思わずな、だってよ貴族何でどうでもいいじゃねぇか」
「そんなのは心の中で思ってりゃ良いのによ」
「あぁもう行こうぜ、さぁ貴族の情けない姿が見れるとは面白い余興だな」
やはりこの街の冒険者は好きになれないな。