第八十七話 地上へ
もしかしたら姿を消しただけかと思い俺の周りを【雷盤】で囲んで身を守るが何も起こらずただ目の前に大きな魔石が一つだけ落ちていた。
「終わったんだな、さぁ帰ろうか」
誰もがこの喜びを分かち合えると思って階段の方を向いたが残念ながらヘンリクがみんなを巻き込みながら吹き飛ばされたせいで誰もが気を失っていた。
「参ったな、これは効くのかな」
行商人から買った安物の回復薬を一人一人の口に流し込むとどうにか意識を取り戻す事は出来ている。
「いってぇな、おいっどうなっている、奴は何処だ」
「旦那、その怪我じゃ無理ですぜ、早く逃げないと」
目が覚めた途端に混乱し始めたので手を叩いて大きく音を鳴らしてみた。
「ほらほらもう終わったんだから落ち着きなよ、あそこに魔石が落ちているだろ」
「えっ本当なのか……お前顔が血だらけだぞ」
意味が分からないまま顔をぬぐうとその手にべっとりと血が付いている。攻撃が当たった記憶が無いのでこれは目や鼻や耳から流れ出た血なのだろう。
興奮していて全く分からなかったが自分の血を見た瞬間に痛みが襲ってきた。
「早く回復薬を飲ませてあげて」
ハルが持ってきた回復薬を一気に飲み干すと耳鳴りや頭痛があっという間に消えていく。
「何でこうなったんだよ意味が分かんないな」
「自分の魔法のせいでしょ、見てないから分からないけどかなり無茶したんじゃないの」
「そう言えば音が気にならなかったな、聞こえなかっただけか」
自分では分からなかったがいつの間にか鼓膜が破れ、何らかの影響で目や鼻にまで影響が出てしまったのだと思う。
「おいっお前ら勝手に良くなよ」
「早く台座を探して帰りたいんだよ」
ハルとヨモギが台座とやらを探しに走り出してしまった。
「あいつらだけでミノタウロスの対処が出来るのかよ」
「旦那、そんな心配はいらねぇのさ、45層の上級種を倒したんだから暫くは魔物は生まれねぇんだ。41層から下は全てそうなんですぜ」
ゲルトの説明だと再び魔物が生まれたとしても余程の事が無いかぎりミノタウロスではなく他の階層とのバランスを合わせた魔物が生まれてくるらしい。
疑問がいくらでも浮かんできたので思わずゲルトに聞きたくなったが、背中に刺さるジールの視線が怖いので止めることにした。
「あれっ、身体が……」
「ちょっと大丈夫なの、向こうは気にしなくていいから少し休みなって」
(あれっ魔力が失っているのはいいとしても、どうして回復しないんだ?)
今までなら魔力の回復が分かる位だったのにその感覚は何故か全くない。
(まぁこれが普通なんだろうけど……参ったな、そうだとしたら反動がくるぞ)
ヘンリクをミノタウロスが吹き飛ばす前からずっと【雷瞬】で行動をしていた。何度も切れてしまったがどうせ直ぐに回復するだろうと思って本来ではやりたくない連続使用をしてしまったがどうやら間違ってしまったようだ。
「ジール、俺、もしかしたらもう少しで動けなくなるかも……」
「どうしたのよ、もっと回復薬飲む?」
「いや、無理だと思う」
「ちょっと、ちょっと、誰か~」
俺がそのまま倒れてしまった頃、ヨモギとハルは小部屋の中の台座を発見すると同時にその周りに置いてある純度の高いオリハルコンを発見して盛り上がっていた。
俺はその場でずっと寝かされみんなと言うかハルとヨモギは興奮したように色んな場所から鉱石を採取してマジックバックの殆どを鉱石が埋め尽くしている。
ドワーフ達の気が済むには二日ほどかかってしまったが、その間もずっと全身の痛みに襲われているし、失ってしまった魔力は殆ど回復しなくなっていた。
「俺ってもしかしてこのままかな」
「何言ってんのよ、無茶した影響が出ただけでしょ、やはり急激に魔力を回復するようになってからおかしくなっていたんだよ」
(そう言えば魔素を……まぁいいか、どうせダンジョンは今回で終わりだ)
◇◇◇
40層の転移魔道具迄はヘンリクが背中を貸してくれ、魔物が全く出ない事もあったので行きとはまるで早く戻る事が出来た。
ダンジョンを出ると久し振りに浴びた日光は身体を優しく包んでくれているようでこの痛みを少しだけ和らげてくれる。
「やっぱり外は気持ちいいね、私はダンジョンより外かな」
「俺もダンジョンはこりごりだよ、変な癖がついていないか早く試さないとな」
「お前なぁせめて動けるようになってから言えよ、さぁギルドに……んっどうしたおっさん、契約を元に戻しやるって決めたのに不満なのか」
40層の転移魔道具に向かう途中で誰が言い出したのか忘れたがゲルトを許し、契約を最初の状態にほぼ戻す事が決まった。ほぼの部分とは討伐したミノタウロスの魔石は含まれていない。
それがちょっとした罰となるのだが、マジックバックの中には大量のオリハルコンが入っているのでミノタウロスの分け前などたかが知れている。
「不満何てある訳ねぇじゃねぇんだ。ただよぉおかしいんだよ、静かすぎるってんだ」
「どうしてです。今は昼間だから静かなのは当たり前でしょ」
「お前さんは工房に籠っているから分かんねぇだろうけどよ、昼間でも多少はいるんだよ、それにな職員の姿が一人もいねぇじゃないか」
ゲルトの言葉に不安を抱きながら急いでゴルゴダの街を目指す事になった。