第八十六話 45階層にて
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ」」」
誰もが歓喜の声を上げながら階段の中に飛び込んで行く。この嬉しさは何とも言い難いがこの数日間はかなりハードだったのでこれぐらいは喜んでも仕方のない事だと思う。
「これでやっとまともな食事が出来るね」
「そうね、それにゆっくりと眠れるんじゃないの」
「回復したら最後の階層か……まさかと思うが討伐した後に下に向かう階段がなけりゃいいけどな」
ヘンリクはただ疑問を口にしただけだが冷たい視線をその大きな体に浴びる事になった。その予想が本当だとしたらもっといい鉱石を発見できるかも知れないと本来なら喜ぶはずのドワーフの二人も冷ややかな目を向けている。
「あの、そうなったとしても一度戻りましょうね」
「分かっているって、上級種の魔石を使って転移魔道具を作らねぇといけねぇんだろ」
「そうだんだ……えっそうなるとまた普通にダンジョンを歩かきゃいけないのか」
「俺達はもう良いんじゃなねぇか、魔物も弱体化するんだから大丈夫だろ」
◇◇◇
45層に向かう階段はやけに長く中々下に辿り着けなかったがようやく階段の終わりが見えたのか階段に光が射し込んでいるのが見えて来た。
「やっとかよ、さ~どんな階層なんだ?」
ヘンリクは小走りで階段を降りて行って一歩踏み出すと直ぐに階段に引き返してきた。
「何してんのよ、邪魔なんだから戻って来ないでよ」
「んなこと言うなよな、あのな、今までの倍以上もあるミノタウロスが見えたんだよ、下手に入れないだろうが」
階段から顔だけ出してミノタウロスを確認すると暗がりの洞窟の中にピンスポットが当たっているような光が伸びている場所にかなりの大きさのミノタウロスが微動だにせずに立っている。
他に魔物の姿が見えないし気配も感じられないのでこの場から魔法を放つ事にしたが、何があるのか分からないので俺の前には盾を構えしっかりと耳栓をしたヘンリクが守ってくれるし、念には念を入れて階段を守るようにゲルトは魔法障壁を張った。
「簡単に終わってくれたらいいんだけどな」
杖の先に雷の玉を出しているとそれに気が付いたミノタウロスが砂煙を上げながら走り出してきた。
「かなり早いぞ、もう撃て」
「まだ、あ~もう」
これから魔力を込める段階だったがかなり動きが素早いので二発の【雷銃】をミノタウロスに向けて飛ばしていくが、当たると思われた瞬間にミノタウロスは横にそれて躱してしまう。
「意外と早いな、なぁどう思う」
ヘンリクに尋ねるが耳栓をしているので答えは返ってこない。
(ったく、今度はどうだ)
同時に四発の【雷銃】を放ち、一つはこの場で更に魔力を込めている。魔法は正面と左右と上から同時に当たるようにしたが今度はその場で立って持っている斧で全ての【雷銃】を弾き飛ばし消滅してしまった。
「躱さねぇのかよ、だったらこれはどうでる)
魔力を込めた【雷銃】は重低音を響かせながらミノタウロスに向かって行き、もし躱されたとしても戻すように杖を構えている。
すると今度も躱すのではなく斧で弾け飛ばそうとしたが【雷銃】はその斧を粉砕しその顔に大きな火傷を負わす事が出来た。
「避ければ良かったのにな」
「ぶぉぉぉぉぉぉぉ」
ミノタウロスは両手を広げ上を見ながら咆哮すると身体から湯気が出てきてその姿が消えた。
次の瞬間にヘンリクは階段の中にまで吹き飛ばされてしまう。
「ぶるるるるるる」
にやけたような顔を浮かべながらがゆっくりと階段に向けて歩きだしていくがやはり上級種とはいえ所詮は魔物だと言う事だろう。
「俺がそこに居ない事に気が付かないとはね、雷網」
光の網がミノタウロスを包み込むが直ぐに網が切れていく。破る力と再生する【雷網】は初めは拮抗していたが徐々にミノタウロスの力でも破れなくなってきた。
「さぁもう終わりにしようか、雷盤?雷円? どっちだっけ、まぁいいか」
その魔法に魔力を回すと再び【雷網】は切れ始めたが、ミノタウロスを囲むように2m程の薄いギザギザの付いた薄い雷の円盤が高速回転を始めている。
その見た目と音があっていなく胸がざわつくような不快な音がしているので全身に鳥肌が立ってくるが今は我慢するしかない。
「ぶぉぉぉぉぉぉぉ」
ミノタウロスの咆哮と共に【雷網】はバラバラに引き裂かれたが…………それが最後の抵抗だった。
【雷盤】はミノタウロスが破ったと同時に一斉に身体に食い込んでいってゆっくりと身体を切り刻んで行く。
苦しそうな声を上げながらどうにか逃げようと藻掻いているが残念ながら何処にも逃げる場所など存在しない。
(ちょっと残酷だよな、抵抗しなければ早く楽になるのに)
立っていられなくなったミノタウロスはその場に倒れるが、上級種だけあるのか中々頑丈に出来ているらしく中々身体を通過しなかったがそのままミノタウロスは消えていった。
死んだんだよね?