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その一 かりそめの勇者候補

 一人で使うには大きすぎるテーブルで二重顎の中年が食べきれない程の料理をつまみながら食べていると、その部屋に慌てた様子の兵士が飛び込んできた。


「国王様失礼いたします。今しがた勇者召喚が成功したとの報告がございました」


「そうか、それで何人を召喚する事に成功したのだ」


「十六人だと聞いております」


「はぁ~あれだけの事をしてたったの十六人だと」


 手にしていたコップをテーブルに叩きつけると、その勢いのまま立ち上がり息を切らせながら出来たばかりの別館に向かって行った。


 その別館の中では神官が意識が戻っていない転移者に身に着けている物を全て奪ってから腕輪を装着して、壁や床に掛かれている魔法陣を発動させている最中だった。


 国王はその様子を眺め始めたがその表情は落胆と怒りが入り混じっている。


「これはサンバルノ国王様、早速お越しいただいて有難うございます」


「法王よ、どうなっているんだ、たったこれしか召喚出来ていないじゃないか、奴隷とはいえ百人以上も犠牲に使ったんだぞ、少なすぎやしないか」


 国王はあまり苦言を言いたくはないが、中隊位の異世界人が揃うと思っていたのでこの結果は失敗としか思えない。


「前にも申しましたが数などどうでもいいのです。彼等がこの国の兵団よりも強ければいいではありませんか、それに使い潰しても国民ではないのでどうでもいい事です」


「ふんっ、ただな、見た目が悪い年を取っているやつはそのまま処分してしまえ、すぐにかりそめだとわかってしまうからな」


 国王が指定したのは召喚された課長や所長で、中年だった四人はこの世界で一度も目を覚ますことなくこの世界から消えてしまった。



 ◇◇◇



「みんなっ目を覚ますんだ。寝ている場合じゃないぞ」


(うるせぇな、その声は今村主任だな、せめて飛行場に着くまで寝かせろっていうんだ…………いやっそうじゃない)


 津崎友の先輩である平井が違和感を覚えて目を開けると、今村主任が寝ている者達を起こしているところだった。


 この部屋は家具などは置かれていないがらんどうの部屋だったが、壁にも床にも見たことのない文字のような物が描かれているし、それ自体が薄っすらと光を発していた。


(そうだっバスが……もしかしてここは異世界なのか、くぅ~そうならいよいよ俺にもチャンスが来たんじゃないか、そうなったら夢であるハーレムを築いてやる)


 目の前では目を覚ました途端に混乱状態になっている連中がいるので、思わず笑みを浮かべたくなるが必死に無表情を心掛ける。


「何なのよ、スマホも財布も無いじゃない。それにこの変な腕輪は何なの」


「あっ俺にも付けられているじゃないか、みんなはどうなんだ」


(けっ主任の奴は彼女も一緒かよ、まぁいい、それよりこの腕輪は何なんだ。もしかしたら単純な転移とは違うのか、少し厄介だぞ)


 リーダーシップを発揮した今村主任はまず最初に落ち着かせ、人数確認をすると男が九人と女が三人しか此処にいなかった。


「おいおい確か全員で三十四人もいたんだぞ、それにここはどこなんだ。病院じゃないよな」


「こんな病院があってたまるかよ、それにな俺の記憶だとガードレールを突き破ったのが最後の記憶だ。今村もそうか」


「あぁ俺もだ。光男、これは何だと思う?」


 隣の営業所ではあるがライバル通しの今村主任と中村主任がが話しあっているがなかなか結論が出る気配すらない。


(馬鹿な奴らだね、ここが元の世界の訳無いだろ、この部屋を見渡せば分かるじゃねぇか)


「もしかして私達は誘拐されたのかな、だったら犯人がいない間に此処から出ようよ」


「まてっ勝手に動くなよ」


 入社したばかりの三田村明日香が泣きながら扉に手を掛けると、すんなりと開いたのでそのまま飛び出して行った。


 まさか扉が開く訳が無いと思っていた平井は自分の都合のいい方に勘違いをしたのかと唇を噛みしめたが、直ぐにそれが間違いであったと気が付いて安堵する。


 他の者達も三田村と同じように扉から出て行こうとするが、扉の先に倒れている三田村を見て外に出るのを躊躇してしまう。


「お前ら何してんだよ」


 中村主任が三田村の元に行こうと飛び出すと、同じように倒れ込んでしまうが身体を引きずるようにしてゆっくりと三田村に近づいていく。


「光男っ大丈夫か」


「誰もこっちに来るな、扉を抜けると力が入らなくなるぞ、何とかして連れて戻るから心配するな」


 誰もが固唾を飲みながら見ていると、ほふく前進の様になりながら中村は三田村の服を掴んでゆっくりと戻って来た。


(そう言う事か、ここは監禁場所のようだな、あ~そうなると俺達は奴隷か何かで勇者じゃねぇのかよ、何なんだよ、それとも俺達は死んでいるのか)


 戻って来た二人はかなり体力を消耗しているようで起き上がる事も出来ず荒い息をしている。


 すると突然に扉が閉められて、天井から声が降り注いできた。


「あ~あ~声が聞こえるかな」


「誰だ、一体俺達に何をしたんだ」


「どうか落ち着いて話しを聞いてくだされ、ここは貴方方が今迄いた世界とは違うんだ」


「何だと、だったら俺達は死んだとでも言うのか」


 今村主任はこの中にいる者の代表者であるかのように天井に向かって怒鳴っているが、話を遮っているので一部の者からは少し引かれている。


「そうではありません。先ずはその扉を出れば自由に外に出れますが、あなた方の身体はこの世界にまだ順応出来ていませんので命に関わります。どうか大人しくこの部屋の中にいて下さい」


(よしよし、さぁどっちだ。単なる勇者とあがめる連中なのか、それとも利用しようとたくらんでいる連中なのか、まぁどちらにしてもどうかこの俺に特別な力がありますように)

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