7話
結局、リリィを頼らずに一人でお父様に監禁生活について抗議しに行くことにした。
義弟(多分)が出て行った後に、もう一度窓から覗いてみたが、やっぱりリリィに話しかける勇気がなくて逃げてしまった……が今まで散々嫉妬心を抱いてきた相手に助けを求めるなんて今の私には屈辱でしかない。
だから、話しかける勇気がないんじゃなくて、私がただ話しかけたくないだけなのかもしれない、というより絶対そうだ。
なんて思いながら、取り敢えず侍女を呼んだ。
「お父様に会いたいわ。」
「申し訳ありません。今はお仕事中なのです。」
「会わせないと……分かるわよね?」
私にできる、精一杯の睨みをきかせた。
恐らく物凄い悪役面になっている事だろう。
「ひっ!」
予想通りに侍女は顔を青白くさせてパタパタと部屋から走り去って行ってしまった。
せめてドアぐらいは閉めようよ……と思うが、怖がらせてしまったのだから、このくらいは我慢しよう。
そう思いながら、開いたままのドアを閉めようとすると突然、かなりの激痛が頭を襲った。
「いっ!」
あまりの痛さに、その場で蹲ってしまう。
「うっ……」
次第に吐き気までして来た。
お腹がぐるぐる気持ち悪くは無いから、吐く事はないだろうが、気分的には最悪。
「だ、大丈夫ですかっ……?」
この症状の原因が誰なのか、オロオロのした声と小さな靴で分かった。
「な、何…義弟……」
恐らく、というか確実に昨日見た義弟だ。
昨日は頭が痛くて殆ど覚えてい無かったが、オロオロとした口調ということだけは覚えていた。
心配して、肩に触れてくるがそれが逆効果でしかない。
「や、や…め……」
言葉を、うまく紡ぐことすら今はままならない程に症状がひどかった。
「だれかっ!」
意識が飛びそうな程に酷い目眩や頭痛なのに、全く飛びそうにない。
きっとこの義弟がどこかにいけば治るのだろうが、言葉が紡げない今、そんな事が出来るわけない。
それにここは……
「なんで誰も居ないんだ!」
オロオロしている割には大きい声を出すなと、どうでもいいことを考えながら、それもそうだと思う。
基本的に我儘で何をされるか分からない私を怖がっていた侍従や侍女たちは私の部屋に近づきたがらなかった。
その為、大体食事の時間やお風呂の時間は遅かった。
その事にも、今の私は怒っていたけれど今となっては次女の気持ちが分からない訳でもないから、複雑すぎて言いにくい。
「このままじゃ……」
そろそろ限界が来て横に倒れてしまいそうな体を義弟が支えてくれる。
その優しさがこの時ばかりは、本当に辛い。
「う、あ……」
頭痛と吐き気に続き体の震えまで出て来てしまう。
段々と真っ白になっていく頭の中で、どうやってこの危機を乗り切るか考える。
この屋敷は無駄に広い。その為、お父様の執務室から私の部屋まで3分は最低限かかってしまう。
あの侍女が出て行ってとっくに3分は経過しているが、来ないという事は来れないということなのだろうか。
だが、来れなかったとしても誰かが言いに来るはず。
「しっかりしてください……」
そろそろ、意識が切れてしまいそうだ。
だからその前に、義弟の顔でも見てみようか。
「顔…みせ、て……」
震える手を伸ばすと、泣きそうな目でしっかりと私の手を握る義弟。
何と無く、この展開は乙女ゲームでいうところのヒロインが、もしくはその友達が死んでしまう時のスチルに似ているかも、なんて思った。
そして、私の意識は真っ暗な底に飲み込まれる様に落ちて行った。