6話
男性恐怖症の症状で倒れて数日、わたしは原因がわからないと言う事でしばらく部屋に監禁生活を強いられる羽目になった。
部屋から出られないのは不自由だが、男と合わないで済むのは良い。
それよりも、今は一つ問題があった。
まず、料理人の男ーーアンダーが疑われてしまう事だ。
彼の料理に特に危ないものは入っていない。それどころか毎日美味しい物を作ってくれていて、感謝している。
たまにお菓子もくれるから尚の事。
どうにかしてこの部屋から出ないといけない。いくら公爵命令でも聞けないものもあるーーが、命令に背くわけにはいかないと日本人じゃない私は理解している為、なかなか動けない。
「どうしよっかな……」
こういう時、頭の良いリリィだったら良い案が思い浮かんでいたのだろうか……私は前世でも頭良くなかったから正面突破が妥当か。
「当たって砕けろか……」
砕けたくはないけれど、もう馬鹿は馬鹿なりに当たっていくしかないだろう。
それにそろそろ、自分にリリィの様な才能がない事をきちんと認めるべきだ。
いつまでも嫉妬していたって、何も始まらない。
折角新しい人生を親友のためにも歩もうと決めたのに、嫉妬しまくりじゃ何も始まらない。
「ふぅ…….」
まず、妹の手を借りよう。
憎いけど嫌いじゃない相手。男性恐怖症の事を話しても、あの何事にも無関心そうな妹なら、もし断られても噂を広めたりし無さそうだし。
ーーと、いう事で思いついたら即行動の私はこの部屋から出る方法をまず考えた。
生憎と、この部屋の鍵は窓以外すべて掛かっている状態。
出る方法がない様に見えるが、よくよく考えてみれば扉が閉まっているだけで窓は空いているのだ。
「窓から出るしかないか……」
面倒だと思いながらもドレスの裾を持ち上げて万が一にも足が滑らない様にする。
部屋にあったやたら硬い縄を腰に縛り付け、余った部分の先を勉強机に括り付けて一階下にあるリリィの部屋へ足を伸ばす。
もともと私の部屋は3階でリリィは2階だから、長さはあまりいらない。
窓の枠に足を着けながら、間違っても滑らない様に慎重に降りていく。
高所恐怖症じゃないけど普通に怖い。
「ふぅ……大丈夫、大丈夫よ。」
あと少し、あと少しだけと言うところで妹の部屋から声が聞こえてきた。
トンッと窓の縁に軽く降り立って、耳を澄ませる。
我ながら盗み聞きなんてフェアじゃないと思いながらも、気になるから仕方がないと思う。
どうやら声の主は、少年の様だ。
まだ声変わりをしていない高めの声で、どんな子なのか気になる。
だけど、妹よりは幼い様でオドオドとした声色だ。
「……義弟になるのね」
「はい。」
その、二人の会話に一旦私の思考回路が停止した。
今、義弟って言った?
私に弟ができるの?
気になりすぎて少しでも顔を見ようと窓から部屋を覗いてみる。
すると、銀髪に緑目の少年がソファーに座っていた。
年齢的には、リリィと颯太割らない様に見受けられる。
じーッとみつめていると、だんだん頭が痛くなってきた。
パーティーの時ほどじゃ無いが、風邪ひいて頭が痛くなる時ほどには痛い。
非常に残念だが、弟とは近づくことさえ、難しいかもしれない。
何より、こんな遠距離で頭が痛くなっていたら、日常生活で一緒にいることなんて夢みたいな話だ。
「戻るか……」
弟と入れるリリィはいいなぁ……
そう思いながら、自室へと戻った。