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5話 リリィ・ララナ

お姉様は私のことをひどく嫌っていたかは、分からないが、嫌悪していたと思う。

そんな相手に泣いている姿なんて見られたくなかったはず。


「私のせい、かも知れません。」


「リリィのか?」


「はい。実は……」


私が、心配して踵を触ってしまったこと、泣いているところを見てしまったこと。


きっと、泣いているところを私に見られることはお姉様にとって耐えられないことだったのだろう。


「そうか……」


6歳で、かなり頭が回る方だった私は直ぐに原因がわかってこの時ばかりは、頭の良さが嫌に感じた。


「少し、話が必要そうね。」


処置法を聞いて、医者を下がらせたお母様は、お父様の腕からお姉様を奪い取り、頭を撫でる。


「あ……」


「貴方じゃ、寝かせられないでしょ。」


そう言って、部屋からお母様が出て行ってしまうと残ったのは私とお父様だけ。

正直、私とお父様は中が良くない。いつも話が持つのはしゃべる事が好きなお姉様が居たおかげだ。


「リリィ。」


「はい。」


「お前が気に止むことはないぞ。」


「分かっています。」


お父様のいう通り、私は普通に生活していただけ。

嫉妬したのはお姉様で私は悪くない。勝手に彼女に敵対心を出していたのも侍女達なわけだし。


「だけどな。」


まさか、繋ぐ言葉が出てくるとは思わずに反射的に下り気味だった顔を上げた。


「ラーナの気持ちもわかってやれ。」


「……。」


「お前は気づいて居ないだろうが、いつもラーナを見る眼差しは物欲しそうにしている。それにあの子が気付かないわけがない。」


そんな目をして居たのだろうか。だが、確かに思い返してみれば、お姉様が複雑そうな顔をして居た理由は、それがあったのかもしれない。


「もし、これから感情を表に出す様になった時、きっと憎悪や嫉妬の感情を向けてくる事になるだろう。その時は見限らずに居てやってくれ。」


「はい。」


「これは、私たち家族全員の責任だ。もっと見てやるべきだった。」


それからお母様も会話に入ってきて、これからのことを相談した。

もし、このまま死んだ様な正気のない目をして居たら、どんな感情でも良いから表に出す様に仕向ける事。


それが憎悪でも嫉妬でもなんでも良い。

取り敢えず、人間らしくしていれば、それで良いーーーそう思って居たが、目を覚ましたお姉様はとても元気な子だった。 


私達が目に正気がないだろうと色々心配しているのを他所に、気に入らない事があると暴れまわったり癇癪を起こしたり、我儘な令嬢と化して居た。


本人に侍女伝いに聞いてみると、もう吹っ切れたらしい。

妹と家族もみんな嫌い。一人でいいと。


結果的に、感情は有り余るほどあり人間らしく戻ったが、優しさが完全に抜け落ちて居た。

そんなお姉様を見ていると、お父様もお母様も、だんだんと熱が冷めてきて居た。


もちろん私もそうで、今までお姉様のために色々考えてきた事がバカらしく思えて、彼女のことを放っておいた。


私も、前の嫉妬を向けながらも無視したりせずに話してくれて居たお姉様とは全く違う彼女とは話したいとも思わなかった為、本を読んだりして、徹底的に避けていると、いつの間にか無関心を貫くようになっていた。


本当に時々向けられる嫉妬心にも気づかないほどには。




ーーー




そんな日々が数年続くと、私達家族は覚めていき前の様な暖かい家族ではなくなってしまった。

お姉様は、13歳にして我儘な令嬢。私は文武両道で容姿端麗な10歳の少女。


かなり差別されて居た。もちろん、この時も嫉妬されてはいたが、幼い頃とは状況が違っている為、可哀想とも何も思わなかった。

もう、優しさも何もない彼女に用はない。


自分でもずいぶん冷めきっているなと思う。

聞いた話によると第一王子の誕生日パーティーで泣くなんて恥を晒したらしい。

そんな恥を晒されたら、お茶会で私が何を言われるか……本当にやめてほしい。


そう思いながら、夕暮れのオレンジに染まった薔薇の庭園を歩いて居た。

因みにここは昔、お姉様と仲良く歩いて居た場所だ。


「どうしようかしら……」


前方の方面から、聞き覚えのある声がした。

深刻そうな声に気になって、偶然を装い方向を変えて声の持ち主ーーお姉様と会った。


「あ……」


お姉様は気まずそうに目線を逸らす。

いつも、彼女は私と目を合わせない。劣等感がそれだけ凄いのだろう。


まぁ、どうでも良いけれど。


「こんにちわ、お姉様。」


「え、えぇ。こんにちは。」


いつもなら、挨拶もせずに去っていくのに珍しいと思いながら、少し会話をしようと試みる。


「今日はどちらに?」


「ただの散歩よ。」


ものすごく真顔で言われた。特に私に興味もないのか直ぐに行こうとするお姉様の腕を掴む。


「今日は生き生きしているんですね。」


「……良い事があったから。」


お姉様が頬をほんのり染めて年相応に笑った。

その笑みは、屈託無く笑ってくれて居た幼い頃に似ていて……初めてお姉様に嫉妬した。


私じゃない人を考えてそんな笑みを向けるなんて許さないって。


「お姉様……」


不思議そうな、その中にもやっぱり憎い感情や嫉妬心が含まれている事に安心しつつ「何でもありません」と、お互いに通り過ぎた。


「どうでも良いけれど、お姉様が私以外に笑うことは許せませんわね……。」


一人寂しそうなお姉様の背中を見送りながら侍女を呼んで部屋に戻った。

嫉妬や憎む心は私のものでも1番ほしい"笑顔"を他の人に向けるなんて、許せない。


だから、次の日の朝、意趣返しで中々食事に手をつけないお姉様に無理矢理ステーキを口の中に入れた。

すると、お姉様の様子がおかしくなってきた。


「ほら、食べて……お姉様?」


突然、首を押さえて下を突き出した。


「うえっ……」


黄色い液体とぐちゃぐちゃになったステーキが口の中でから出て来た。


「うぅ……」


苦しそうに体を震わせて、ガタガタと涙を流している。

目の前でお姉様が泣くのはあのダンスレッスンの先生の件以来だ。


「リリィ……憎いわ……」


その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。

だけど、次の言葉がもっと私を悩ませた。


「大丈夫……」


何が大丈夫なのか、食器を退けて机に突っ伏している状態のお姉様がニヘラっと昔の笑みで"私に"笑いかけた。


ーーもちろん、瞳には嫉妬の色があったけれど。

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