ぼんくら王太子から逃げるために、意地悪妹が悪だくみでほぼめでたく婚約破棄されてから、後釜にされた双子の姉です。逃げやがったなあの子! 悪役令嬢そのものだ! 絶対に再び婚約破棄させて見せますわ。
「お姉さま、あとは宜しくね!」
手紙を受け取りました。
双子の妹からです。
この一文だけ書いていました。
「くっそ、逃げやがりましたわね、あいつううう!!!」
私はこう雄たけびをあげるしか……ありませんでした。
「エレーナ、お前はみかけだけならあの子と同じだし」
みかけだけなら同じです。双子ですから~、心の中で歌いながら私は耳をほじりました。
あ、父上が強い目でこちらを睨んでますわ。
「おい聞いているのかエレーナ!」
「はい聞いておりますわ」
私は読んでいた書物から目を離して、父上にため息を返しましたわ。
眼鏡がずり落ちるのを直したら、絶対にそれはかけるなと怒鳴られましたわ。
「亡き母上がいたら……」
「いないものは仕方ないですわ」
私はリアリストらしいです。だからお前は適齢期になっても結婚できんのだ! 情がないと父上がまた泣き出しましたわ。
私は十八歳、双子の妹と違い全く縁談が来ません。
この世界に舞い降りた天使、淑女の中の淑女、などなど、誉め言葉は満載の妹でした。
『眼鏡の真面目ちゃん、研究の鬼』『本に埋もれて笑ってた、怖い』『図書館の魔女』などなどの二つ名を持つからでしょうか。
魔法学院の図書館にそういえば一週間泊まり込んで、司書を怒らせ。
最後の図書館の魔女の二つ名がつきましたわ。
妹は愛らしく社交的で、双子といえども全く違い、縁談は降るほどありましたわ。
つまり縁談を選んでいて婚期ぎりぎりの妹と、縁談が来ない姉の違いですわね。
いえ別に嫉妬などはしておりません、なんというか要領のいい妹が厄介ごとを私に押し付け、そして結局父上に私が怒られるというのがねぇ。
ほら父上がエレーナ! と怒鳴るときってろくなことがないのですわ。
「エレーナ! おい眼鏡をあげるな! はずせ! お前が王太子殿下の婚約者になるんだ!」
「はあ?」
なんですか、私は保険ですか? いえ、顔がおなじだからこっちでもいいかって、王太子殿下からわざわざ妹がほしいと婚約の打診があったのに、なぜ今更私です?
「ごめんこうむりますわ」
「だから、うちの、家の存続がかかっておるんだ!」
「はあ」
つまり妹が婚約破棄されたのは、表ざたになりませんでしたが、浮気ですわ。
妹が浮気をしたのです。
というか、王太子殿下もしてるから同じなのに男がよくて女はダメって差別ですわ!
「ふう、お前でもよいと陛下はおっしゃったのだ!」
「はあ」
「だからお前が婚約者になるんだ!」
「聞いておりませんわ!」
予想はしておりましたわ、しかし全力で否定してみました。
しかし安直ですわ、私はスペアじゃありませんことよ。
「眼鏡をかけるな! わかったな!」
「これがなければ見えませんわ」
「根性で何とかしろ!」
いや父としては悪い人ではありませんわ、後添いすら迎えず、亡き母上を思い続ける一途な人ですし、
跡取りはまあ、従兄弟がきてくれるので安泰ですわ。
「……」
沈黙の私、怒鳴る父、そして私はなんとか婚約者の座から抜け出そうとなんとか謀略を考えていました。
そしてそれを実行に移すことにしたのですわ。
「……お前一生涯独身のつもりか?」
「はい父上」
「跡取りにするはずのレオンがお前を好いているそうだが」
「はあ?」
めでたく婚約破棄されましたわ! さすがに楽師としけこむわけには(妹がやりましたが)いけませんので、簡単です。学園で一人、妹とても仲が悪かった……あの子と。
「くそ、ブラウン家のメアリー・スーなんぞに!」
「これも運命ですわ」
学園の卒業の舞踏会で、私がなんとなくといった感じで紹介したお嬢様が王太子殿下に御気に入られて、こうベッドインでしたわ。
お腹ぽっこりになられたまでは計算外でしたが……。
あの王太子殿下の女の好みをデータベースにして、最適な女性を選んだのですわ!
しかし手も早かったですわよね。
妹と仲が悪かったあの子に妹の悪口とともに、王太子殿下寝取り計画を持ち掛けた私でしたわ、いやあ、ほいほいのってくれましたわ。しかし、妹が覚悟を決めた演技を見破れなかったのは、私も修行が足りませんわ、人間観察の。
浮気なんて絶対に許せないというタイプの子を婚約者に据えてやったので、あのバカ王太子殿下の浮気性は収まりますかしら?
浮気をしたらあの子は怖いですわよお。ざまぁ、見てろですわ。
スペアとか、同じ顔だから別に姉でもいいとか、眼鏡外させろとかふざけんなですわよ!
従兄弟のレオンが跡を継いでくれるのでやっと安心して研究に打ち込めますわ!
だがしかし、婚約破棄2回もしでかした王太子でこの国大丈夫ですかしらね?
ぼんくら王太子の女好きと、頭の悪さを思い出し、私はため息をつくしかありませんでしたわ。
あの妹はいつもこうでしたわあ、いつもいつも嫌なことを私に押し付けて逃げやがりますの。
要領のいい子でしたわ。
今はどうしているのでしょう。
まあ、苦労していないといいですけどね。
そういえば従兄弟のレオンがものすごく私が婚約破棄されたとき、喜んでましたわ。お祝いしましょうと私がいったら、すごくすごく喜んでおりましたもの。
あと、いつもいつもなぜか妹じゃなくて、私に会いに来て、研究を手伝ってくれましたわ。
変な従兄弟殿ですわ。
王太子殿下の女性の好みのデータ集めも手伝ってくれましたし!
『エレーナ、僕にもっと何かできることない? 君さえよければもう一度、おじ上に君に妹の代わりなんてさせるなっていってあげるよ!』
と何やら息巻いておりましたわ。
この婚約者を妹から姉にすげ替えるというのを、一番常識がないと反対したのはレオンですの。
父上も家のまぁねえ、体面もありますし、どうしても家から王太子妃を出したかったようですわ。
すごくブラウン伯爵家に決まって怒っておりましたもの。
これでまた髪の毛が抜けて、は……いえ一歩また近づきましたね。
私あてに花束を抱えてにっこりと笑うレオンが訪ねてきて、お祝いのパーティーの時間ですわなんて思いながら、おいおい泣く父上をあとにして、はーいと彼を出迎えたのでした。
お読みいただきありがとうございます。感想、ブクマ、評価など頂けたらとても喜びます。
よろしければ宜しくお願いいたします。