03-村の人間関係って面倒くさい
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戦闘で魔法使い過ぎてぶっ倒れた。
そして目が覚めたら戦闘は終ってた。
僕が生きてるって事で判る通り、村の勝利だ。
良かった良かった。
後、助ける為に頑張った小父さんの家から、感謝の品が来た。
イモ。
イモ料理。
美味しくいただきました、家族が。
だって、魔法の使いすぎて気分が悪くてご飯なんて食べれるものじゃなかった。
昼に戦って夜になっても、世界がくらくらと回って感じられる。
魔力を使い切ったのに、酔ったような感じ。
胃に何も無いのに吐きそう。
「大丈夫?」
母さんが心配そうに来るけど、無理です大丈夫じゃありません。
口開くと何かが出そうなので手を振って答える。
翌朝は元気になった。
太陽が黄色い気がするけど、気にしない。
と言う訳で、戦の後片付けに参加しようとしたら村長さんに呼ばれた。
何故にと思って行ったら、クラーラさんからの呼び出しだった。
「忙しい所を呼び出して申し訳ないわね」
「いえ、そんな事ありません」
穴を掘ってゴブリンの死体片付けとか、畑の整備から離れられるのは有難いから。
ゴブリンとかオークとかの200からの死体を埋める穴を掘るとか大変だもの。
それよりは動きやすさを優先してるけど、でもやっぱり村のお姉さん達のよりも洗練された服を着た美人のお姉さんと話す方が大事ですから。
当たり前だけど付き人さんが居て、2人っきりじゃないけど。
「有難う。実は私、貴方に興味が湧きましたの」
昨日の服も良かったけど、今日はお嬢様な感じの服だ。
そんな服を着てニッコリと笑われるとか、ドキッとする。
都会の匂いと言いますか、って感じで。
尚、興味を持たれたのは魔法の才に関してでした。
別に才能がある訳じゃ無し、前世さんで受けた教育であれこれと魔法によって発生する事象を結果なので、褒められても、そんなに嬉しくないんだよね。
取りあえず、発想の転換的な形で説明する。
科学だね。
何故、風が生まれるのか。
水とは何か。
どういう現象が火であるのか。
そんな事をつらつらと考えていたんだと、誤魔化す。
転生で、前世の教育からですなんて言ったら、正気を疑われるからね。
誤魔化すように、氷は何故冷たいのかとか、風って何なのだろうって疑問から試行錯誤しましたと言ったら驚かれた。
だよね。
前世の科学の進歩と積み重ねの階段を、初期段階分とは言え結構駆け上がってるもの。
とはいえ、そこはすっ呆け所。
「独学で魔法に使えるだけの知識を得るとは、凄いですね」
「有難うございます」
そんなこんなで雑談をしていたら、黒茶が出された。
黒くて少し苦い。
けど、こんな飲み物の嗜好品なんて久々に味わうので、大事に飲む。
お茶請けはビスケットみたいな小麦粉を焼いた奴。
甘くは無いけど、贅沢は言わない。
茶菓子まで貰いながら僕の話をクラーラさんが聞きたがっているのは、彼女が最近、魔法の勉強を重点的にやっているからだった。
裏門の戦いで派手な魔法を使ってたのも、その成果と言う事だった。
「特に火の魔法って派手だから使っていると気持ちが良いわよね。すっきりするわ」
「すっきりですか」
大きな声を上げるとストレスが減るとか、そういう事だろうか。
クラーラさんもまだ若いけど貴族の一員、色々とあるんだろうな。
一般人最高だ。
「色々とあったのよ、色々と」
目に哀愁がある。
女性がそんな顔をしているのはどうかなって、僕の中の義侠心が言うので、思わず言ってしまった。
僕に出来る事があればお手伝いしますよ、と。
男の子だもの、仕方が無いよね。
「ありがとう」
義侠心の結果、僕はクラーラさんの村での付き人になった。
クラーラさんがこの村に来たのは、オルディアレス伯爵家の開拓村の勉強だった。
だから僕が案内役としてクラーラさんに付く事になったのだ。
本当は、村長さんの2番目の息子さんのスカンが相手をする予定だったらしく、変更の話が出た時に少し睨まれた。
「おぼえてろよ」
聞こえないふりしておく。
スケベな下心もあって村のお嬢さん方とは違った、都会の香りをさせた美人さんと一緒に居たいって気持ちは理解するけど知らないよ。
魔法の練習相手でってのもあって僕が選ばれたんだから。
魔法の使えないスカンじゃ、役者不足だもの。
とは言え、村長さんの所の次男坊に睨まれたのは厄介だ。
面倒くさい。
悪い人じゃないんだけど、人間、欲が絡むと豹変するから厄介だ。
取りあえず、村を案内した。
森の木材切り出し場や、水場、港、その他色々と。
地形に応じた作りではあるけど、特段に他の村と変わったものは無いっぽい反応だった。
昼は見晴らしの良い海辺でご飯となった。
パン。それにイモとイモ、それにお客様という事で干し肉を茹でて戻したものが入ってた。
「おっ」
思わず声を洩らす位には豪勢だ。
と、それを見てたっぽいクラーラさんに可愛く笑われた。
なんだよ。
「礼儀正しい君が、年相応の顔を見せたと思ってね」
喰い意地が張っててすいませんね。
と言うかいつの間にか貴方から君呼びになってた。
仲良くなれたのかな。
「すねないすねない」
「すねてません」
「それがすねてると言うものだ」
ぷいっと横を向いたら、頭をなでなでされた。
恥ずかしい。
僕はもう、中身はオジサンだというのに、時々こういう態度をとってしまう。
外見に心が引っ張られるのかなぁ。
「だが面白いね、君は。開拓村で生まれ育ったのに、学がある。礼儀も知っている。どうやって得たのか不思議だ」
前世と言う不思議体験からですとはとても言えません。
誤魔化すようにイモに齧りついた。
ふかしイモ。
混じりっ気ナシのイモの味。
バターかマーガリン、或はマヨネーズが欲しい。
尚、昼からは、魔法の理論的な勉強会になった。
魔法使いの学校で学んでいると言うクラーラさんからは魔法の理論を。
僕はそこに、前世な科学の理屈を交えてみた。
実に盛り上がったけど、子どものする話題じゃないよね。
そうそう、クラーラさんだけど、僕より3つ年上でした。
子どもじゃないか。
尚々、その夜にスカンが僕を呼び出した。
手下っぽくガタイの良いツランさんを連れて来てた。
村長さんの家の手伝いをしている関係で無理矢理に連れて来られたんんだろうけど、面倒くさそうな顔をしてる。
他に、スカンの子分が2人。
こういう事しているから村長さんにクラーラさんの案内役を外されたんだろうに、自覚無いんだよね。
お兄さんは普通なのに、何でこの次男坊が性根が曲がったのか判らないや。
「判るよな、自分から案内役を止めろ」
「クラーラさんの指名と、村長さんの指示だよ?」
「だからお前が自分から止めるって言えば良いんだよ」
「判ったよ」
面倒くさいので了承しておく。
「明日、村長さんに言うから。スカンが辞退しろって言うんですけど、辞退した方が良いですか? ってね」
「なっ、お前、喧嘩売ってるのか!? 俺は村長の息子だぞ!!」
「煩いよ、馬鹿息子」
「ばっ、馬鹿だと! お前、赦さないぞ!!」
「村長さんの言葉と馬鹿息子の言葉、どっちを優先するかなんてのがわからいなら、お前は馬鹿息子で充分だ」
村長の息子だからと威張るこのバカは、村の若い衆では嫌われ者だ。
女性陣からも相手にされてない。
こんな開拓村では地位よりも実力、威張るけど喧嘩はからっきしなスカンは、村長の息子って立場じゃなかったら誰も会話をして貰えない奴だ。
「馬鹿にするな!!」
殴り掛かってくる。
僕より1回り上の体格をしたスカンだけど、日ごろから頭で立身出世するんだと言って農作業にも出て来ないのでヒョロっとしている。
避ける。
転んだ。
文官志向は良いけど、こんなに気の短い奴が日がな一日、文字を追う仕事なんて出来るモノなんだろうか。
少し、不思議だ。
とも角、転んだスカンの腕を掴んで極める。
体重を掛けて動けないようにする。
動かれても面倒だしね。
「い、痛い、何をするんだ!?」
「他人に殴り掛かってて、何を言ってるんだ」
「俺は村長の息子だぞ」
「村長さん、そういう態度は良くないって言ってたよね」
これは本当。
村長さん、スカンが調子に乗るのを何度も諌めてはいたんだ。
だけどスカンは、それを聞かない。
村長さんがスカンの為に権力を振るわないから、村人は今までスカンを排除しなかっただけ。
ある意味で可哀想な奴だ。
自業自得だけど。
「五月蠅い! 俺を馬鹿にするな!! なんだよツラン、はやく俺を助けろよ!!!」
「お前は俺に、付いて来て、見ているだけで良いと言った」
「融通効かせろよ!」
「なんで? 俺は子供が喧嘩してやり過ぎない様に居るだけだ」
「と、父さんに言いつけるぞ!!!」
「………」
しれっとしているツランさん。
そう言えば、コイツ、何時も言いつけているけど、それが実現した試しは無かったよな。
ある意味で村長さんにも見捨てられているのか。
少しでも、村長さんに媚を売りたい奴らが丁寧にしているだけ。
ある意味で可哀想だ。
許す気は無いけど。
「取りあえず、自分で村長さんとクラーラさんにお願いするんだよ」
後は知らん。
翌朝、村長さんに謝罪された。
ツランは右のほっぺを真っ赤にしていた。
知らんぷりしておくやさしさって大事だよね。
割と穏健な主人公っぽい希ガス。
いや本当に。
脳筋とか、貴族のアイツラに比べると、ペチコンする力が無いので穏当な行動が多い主人公。
バランス型。
胃と髪の毛は大丈夫だろうか__