02-開拓村に襲い来る大自然の驚異! 熊よりヒデェよゴブリンわ__
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父さん達が逃げ込んで来るのを助けたご褒美に、村長さんから干したブドウみたいなのを小さな袋いっぱいに貰った。
この村じゃ甘味は高級品なんで、僕が大事な働き手を護った事を評価されたみたいだ。
誇らしい。
後、休憩を言われた。
<黒>は村を包囲しているけど、まだ攻めてこない。
村の周りの畑を荒らし、イモや野菜を喰い散らかしている。
何というか、野盗か山賊みたいな感じだ。
家の傍で休憩。
1粒食べたら甘酸っぱくて美味しい。
質素な食事ばかりだったので、凄く嬉しい。
「甘い?」
モノ欲しそうな顔でバックルが訊ねてくる。
甘味は仕事をする大人にだけ村長が配っているんで、僕たちみたいなそこらの子どもは食べた事がないんだ。
なので気持ちは良く判る。
「美味しいよ、食べる?」
ちょっと大柄な顔に収まったつぶらな瞳を輝かせるバックル。
何というか、子どもらしい表情だ。
いや、同い年くらいなんだけどね、肉体年齢的には。
手を出させて、袋を逆さまにする。
一握り分くらい持たせる。
「こんなに貰って良いの?」
「気にしない気にしない」
別に独占したいって訳じゃ無い。
大体、モノ欲しそうな目に晒されながら喰うなんて、気持ちの良い事じゃない。
独占よりは共有だ。
特に幸せは。
「美味しいなぁ!!」
「甘いよね」
只、干してあるので口の中の水分を持ってかれる。
喉が渇いたのでバックルと別れて水場に行く。
家にも水はたくさんあるけど、どうせなら湧き出したばかりの冷たい水が飲みたいのだ。
手を洗って顔を洗ってから水を飲む。
キンキンに冷えている訳じゃないけど、爽やかなのど越しの良い水だ。
美味しい。
甘味の後、口を文字通り洗い流してくれる感じだ。
顔が服が濡れるのも気にならず、一気に飲む。
美味しい。
と、影が差した。
「ん?」
見上げると、綺麗な女性が立っていた。
いや、まだ20を超えて無いような子供かな? 整った顔をしているけど少し幼い感じだ。
特徴的な、豪奢で手入れの行き届いた感じの金髪をした女性だ。
服も赤い生地に金糸が施された上着とズボンと、野外での活動に向いた格好だが野暮ったさが無い。
この村じゃ先ず見ない様な立派な仕立てだ。
多分、お偉いさんの係累で、金持ちだ。
間違いない。
だけど、誰?
何で俺を見るの??
碧の目と視線が合った。
「貴方が先ほどの魔法を使ったと聞きました。違いませんか?」
鈴を転がすような声。
うん、凄い。
美人で声まで良いって、天は二物を与え過ぎだろ。
「あ、はい」
しゃがんだままだと失礼かもと思って立ち上がる。
この女性の方が身長が高い。
少し悔しい。
「初めまして、私はオルディアレス伯爵家が閥家、オスティ子爵家の娘、クラーラよ」
「初めまして、私はフェイ。ギルメの子、フェイリードです」
子爵家、貴族相手にこんな言い方で良かったか少し不安になる。
村じゃ礼儀作法なんて在って無いようなものだから習いもしなかった。
失礼じゃ無かったかとクラーラの顔を見れば、笑われた。
合格って感じかな。
取りあえずお話があるみたいなので、水場の傍の休憩所を案内する。
東屋だ。
と、悪くない身なりの人がやってきてお茶の準備をしていった。
何でもクラーラさん付きの、執事みたいな仕事をする人との事だ。
子爵家のお嬢様なんだな、クラーラさんって。
とも角、目の前に出されたカップを見る。
黒い液体がなみなみと注がれている。
黒茶って奴? お茶の親戚みたいなものらしい。
多分。
初めて飲む。
おっかなびっくりで飲んだら、苦かった。
クラーラさんが少し笑った。
顔に出てたかな。
「貴方は魔法を何処で学んだんですか?」
「何処でって??」
聞けば、クラーラさんから見て僕の突風の矢は面白い魔法なのだと言う。
魔法を攻撃に使う場合、普通は魔力を事象へと変換して投射するか、武器に力を付与する。
付与と言う意味では、僕の使った魔法も同じだけども、効能が違う。
普通は切れ味の向上とか、弓であれば誘導 ―― 命中精度の向上を図るものであるけども、僕の魔法は矢に掛けた魔法が何かに当たった瞬間にさく裂する擲弾だ。
今までクラーラさんが見た事もない魔法なのだと言う。
「私はオルディアレス家の学校で魔法を学んでいたんですが、そんな使い方をする師は居ませんでした」
「学校何てこの村には無い。師っていう人も居ないよ。基礎的な魔法の仕組みをアッディ婆さんに教えて貰って、それから自分で考えたんだ」
教わったのは医療用の魔法、こんな開拓村では良くある裂傷その他の外傷を治癒する為のものだったけど、医療用の魔法も攻撃用の魔法も基本は一緒だ。
魔法を生み出した魔法の神様、レオスラオに祈り、発動する魔法に相応しい回路を自分の中に構築して魔法を流し込む。
魔法の種類は回路次第なのだ。
幸い僕には時間があった。
学校も漫画もインターネットも無い。
家事を手伝うから遊ぶ時間だって無い。
そんな無い無い尽くしのこの村でも、考える時間だけはたっぷりあった。
何度も何度も地面に回路の図面を書き、試し、実験してきたのだ。
試行錯誤、擲弾みたいに前世で見聞きした現代兵器再現する様に頑張ったのだ。
暇だから。
畑仕事の合間に、薪拾いの合間に、時間があれば小枝で地面を引っ掻き続けたのだ。
物騒な魔法ばかり開発していたのは、生活用の魔法はすでに完成しているからだ。
それこを水を運ぶ手桶から竈に火を点ける火棒まで道具として完成した魔法道具が田舎の開拓村の家にだってあるのだから。
「凄いのね」
「凄いのかな?」
「凄いと思うわよ」
比較対象も無いと、凄いのか凄くないのか判りやしないしね。
その後、色々とした。
クラーラさんも魔法は使えるのだと言う。
オルディアレス家が立てた学校、教育所で一角の戦士になる為に修行しているのだと言う。
戦士である。
可愛い女性なのに戦士。
家の母さんも姉さんも、<黒>に対しては武器を持って戦う。
近所の小母さんも婆さんも戦う。
このトールデェ国って男女平等なのか、武力優先なのか、どっちなんだろう。
とも角、戦士として養成を受けていたクラーラさんだが、色々とあって現場見学としてこの開拓村に来たのだと言う。
何となく、何となくだけど判った。
上品そうなお嬢さんだけど、クラーラさん、多分、相当なお転婆さんだ。
子爵家のお嬢さんなのに指揮官では無くて戦士を目指し、魔法の、それも攻撃的魔法の使い方に食いつきが良いなんて普通じゃ無い。
自分でも標準的な魔法、それも攻撃魔法は使えると言ってる。
普通じゃないと思う、多分。
だって付き人さん、クラーラさんが攻撃魔法を使えると自慢した時に微妙な顔になっていたのだから。
これはきっと、何かをやらかしてほとぼりを冷ますためにこの辺鄙な場所にある開拓村にやってきたのだろう。
多分。
その時だった。
金属音
警報が鳴らされた。
<黒>が村の壁に近づいて来たのだろう。
「おーい、フェルー!!」
バックルが走って来た。
「弓組と子供は集まれってぇ!!」
「判った! 失礼します」
辞する礼をして、杖を手に立ち上がる。
と、クラーラさんが良い笑顔をした。
「私も手伝いましょう。まだ未熟だけどそれなりに剣と魔法を扱えると自負しているわ」
おいおい貴族のお客人、何を好き転んで戦場に行きたがるもんかね。
あんな危ない場所に。
いや、城壁を破られれば身も危ないから、そうなる前に戦いに参加するってのも大事かな。
判らないや。
とは言え止める事も出来ないので案内する事になった。
付き人さん、凄い顔になってる。
<黒>の軍勢は、村の入り口である門の周辺に集まっていた。
いつの間にか堀の一部が埋め立てられ、城壁に取りつかれていた。
ゴブリンたちは城壁に武器を叩きつけて壊そうとしたり、登ろうとしている。
そこに僕たちは弓を射かけ、石を落として邪魔をする。
火の魔法を使う奴が敵に居なくて良かった。
この辺りで余り石が産出し無い為、村の城壁は丸太で出来ていた。
内側に土を盛って防御力が増すようにしているけど、石組に比べると脆い。
村長さんの所にクラーラさんを案内した僕は、見張り台ではなく城壁に登って弓を撃つ。
僕の持つ魔力量の問題で、魔法を載せずに矢を放つ。
簡単に戦えている訳じゃない。
ゴブリンは盾を持っていて簡単には倒せない。
それに、ゴブリンは弓は持たないけど簡便な投石器を持ち込んでて、石は投げて来るので時間を掛けて狙えないのだ。
「ぐわっ!?」
鈍い音と悲鳴。
近くに居た小父さんが石の直撃を頭に受けて後ろに落ちていった。
生きているかな。
薄情だけどチラとわき目で見る程度、他人事の様に考えながら弓を操る。
考えている余裕が無い。
こんな<黒>の、ゴブリンの大群を見たのは初めてなので、僕だって余裕が無い。
兜でもあれば良かったよねって思う程度だ。
全金属製なんて贅沢は言わない。
革を金属で補強した程度のものでも、防御力は高い。
だけどこの村にそんな高価な防具なんて無い。
大人の人は兜代わりに厚手の革を頭に巻いただけ、僕ら子供に至っては手ぬぐいだ。
貧乏って嫌だよね。
と、矢筒の矢が尽きた。
周りを見渡す、予備は無い。
「矢をお願いします!」
城壁の周りで救護とか武器の補充で走り回ってる小母さん達に声を上げる。
「待ってな!!」
誰かが声を返してくれた。
まだ矢の在庫はあるみたいだ。
この村と言うか、国は割としょっちゅう<黒>に襲われるので武器は豊富なのだ。
防具が豊富で無いのは、値段が高いからだと思う。
取りあえず、矢が来るまではひと息つく。
水袋の水を飲んで、周りを見る。
真下、城壁に集まったゴブリンは獲物に集るアリみたいだ。
結構倒したと思ってたけど、それでも1/3も倒せて無いっぽい。
血気盛んに城壁に取りついている。
石や熱湯を投げかけて対処しているけど、それで簡単にやられてくれる程にゴブリンも馬鹿じゃない。
しかも、死んだゴブリンを掘りに投げ込んで足場になんてしたりしている。
酷い。
あいつらに人道とか、人の心って奴は無いみたいだ。
「ん?」
と、ゴブリンたちを見ていると、1つの事に気付いた。
最初に襲って来たという戦獣騎兵が居ない。
後、ゴブリンを連れて来ると言うオークも居ない。
ここに居るのはゴブリンだらけだ。
おかしい。
父さんに聞いた話だと、ゴブリンはオークに率いられないと臆病で逃げていく筈だ。
だから前に、僕がまだ子供で前に出て無かったころに襲われた時も、オークを倒して<黒>を撃退したって聞いてた。
おかしい。
でも周りの人たちって気付いている風に無い。
目の前のゴブリンに必死になって、気が回って無いんだ。
あぶない。
「矢を持って来たよって、何処に行くんだいフェル!?」
「有難う、置いてて! 村長さんの所に言って来る!!」
走る、走る、走る。
指揮する村長さんの所に走る。
城壁の上では気付かなかったけど、下には結構な怪我人が出てた。
血の滲んだ包帯を巻いてたり、酷い怪我をしたままの人も居る。
生きているのかな。
父さん達、無事かな。
そんな事を考えながらも走る。
居た、村長さんだ。
「村長さん」
「お、お前はフェイか、何事だ持ち場を離れて」
村長さんは筋肉の塊のような人で、岩みたいな顔に刻み込まれた感じの目で僕を見た。
低い声だけど、いつも冷静な人だ。
「今、目の前に戦獣騎兵もオークも居ないんだ!」
「あ?」
僕の感じた違和感を報告する。
恐らくは正門に攻めてきている連中は囮ではないかと言う推測だ。
「んん、裏門も、他の見張り台からも連中を見たと言う報告は受けておらん」
「戦獣騎兵が居ないのはどっかに逃げたのかもしれないけど、指揮官が居ないのはおかしいよ」
巨大な肉塊のオーク。
鈍重そうに見えるけど、悪知恵は働くというオーク。
「………うーむ、念の為に確認させておくか。ご苦労だフェイ、持ち場に戻れ」
「はいっ! いっ!?」
出来る事はやったという事で持ち場である城壁に戻ろうとしたら、轟音がした。
僕たちの場所から見て村の方、村の裏口の方、裏門がある方向だ。
回り中、みんなの動きが止まった。
恐る恐ると裏門の方から上がる煙をみていた。
爆発の魔法、かもしれない。
オークだって魔法を使う奴が居るって聞いてるし。
「何事だっ!?」
鐘を叩く音が聞こえて来た。
意味は1つ、敵襲だ。
村長が叫ぶけど、そんな事より状況把握が先だ。
弓は持っているんで、近くにあった矢筒を取る。
腰を確認、ナイフも魔法用の杖もベルトに挟まっている。
「僕が見てきます!!」
走り出す。
<黒>なんかに負けてたまるか!!
走り出すと裏門の方から又、轟音がした。
それも連続して。
オークに凄い魔法使いが居るみたいだ。
小さな村なので、僕の子どもの足でも直ぐに裏門に付いた。
門が派手に壊れていた。
オークとかゴブリンが攻め入って来ている。
だけど、自由にではない。
裏門の担当の人と、そしてクラーラさんが戦っていた。
剣と魔法で闘っている。
凄い。
さっきから響いてた轟音は、クラーラさんの魔法だ。
とと、見ているだけじゃ駄目だ。
手伝わないと。
客人を戦わせて村の住人が護られるなんて、恥だ。
僕だって男だ。
近くで腰を抜かしてた小母さんに、村長さんに状況を伝える様にお願いして、射ちやすい場所を求めて前に出る。
先ずは狙うはオーク。
ゴブリンの後ろで剣を天に付き上げて、指揮しているっぽい奴だ。
矢を濡らし、魔法を込める。
「偉大なるレオスラオの名に於いて ――発動せよ風まく力、矢に集え! 雷光の矢」
とっておきの魔法を載せて矢を放つ。
渦をまいて矢に宿った風の魔法は、矢を見えない程に加速させる。
命中。
懐音。
その瞬間、紫雷がさく裂、オークの首が飛んだ。
われながら凄い威力だ。
矢から放たれた紫電は、オークだけじゃなくて周りのゴブリンも吹き飛ばした。
少し、威力大きすぎた。
静電気の精製量が前の時より多い。
天気の違いとかかな。
でも、今はどうでも良い。
「手伝います!」
矢筒で持ってきた限り矢を撃ちまくる。
ゴブリンは子供の力で引かれた矢でも傷を負う。
本当に肌が弱い。
2つ、3つと矢を放つ。
悲鳴を上げて倒れていく。
4つ、5つと矢を放つ。
「ぐわっ!」
と、小父さんが倒された。
ゴブリンに囲まれて叩かれだした。
小さく力の無いゴブリンだけど、集まれば数の力で押し切られる。
助けないと。
でも弓は使えない、小父さんに当たる。
杖を抜いて走る。
「偉大なるレオスラオの名に於いて ――発動せよ風と炎の力、杖に宿れ! 焔剣」
動物は本能的に火を嫌う。
恐れる。
だから魔法は火を選ぶ。
杖に火を纏わせ、そこに風を送り込む事で焔へと育てる。
凄い音と熱を出す、必殺魔法だ。
僕に気付いたゴブリンが剣を振りかぶってくるけど、剣ごとゴブリンを両断する。
そのまま杖を掲げるように突進。
切る、斬る。
「うおおおぉぉっ!!」
焔剣は風と火の魔法なので、魔力の消費が激しい。
一気に小父さんを助けないと、今度は魔力切れした僕も危ない。
あと少し、そこで足がもつれた。
焔剣が消える。
魔力切れだ。
後少しなのに。
「負けるもんか!」
杖を捨ててナイフを抜く。
魔力切れで視界がくらくらするけど、そんな事、言ってられない。
力の限りナイフを握る。
と、目の前のゴブリンが吹っ飛んだ。
「へ?」
クラーラさんだ。
革手袋をした手でゴブリンを殴り伏せていた。
凄い。
対して僕は、気付いたらしゃがみ込んでいた。
足に力が入らない。
腕も怠い。
視界が暗い。
戦場でこの態だと、これは死んだかな。
「まだ幼いのに君は凄いな」
クラーラさんだ。
褒められて、頭を撫でられた。
良い匂いがする。
嬉しい。
だけどまだ敵がいる。
小父さんだってと思ったら笑われた。
「味方が来た」
「えっ?」
何とか顔を上げたら、武器を持ってきた小母さん達がゴブリンを叩き潰しているのが見えた。
勢いがあるしゴブリンたちは逃げ腰だ。
勝ったのかな。
「なら………少し眠ります」
「君は良く頑張った。このクラーラが認める。だから少し、お休み」
「有難うござい…ま……す………」
予約投稿の設定してたのに、最後までやってなくてぶっ飛んでた件__
尚、主人公のスコアはこの年頃の子どもとしては立派と言われるレベルです。
アイツがオカシイんや、アイツが__