005 483階層。
483階層でどんどん暗くなっていく海岸沿いを
トイレに向かい移動を始めたコマちゃんとコノハ。
数日の特訓で歩く事にも慣れてきたコノハだったが
しばらく歩くと、地面からの振動が下腹部に深刻に響くので
身体を浮かし揺れないように平行移動を始めた・・・。
「コマッ・・ちゃん・・・」
「なんじゃー?」
「ま、まだ? う、うち・・・ 無理かも。」
「漏れそうなのかー?」
「ぅ・・・ なんかそう言われると
めっちゃ恥ずかしい感じがするんやけど・・・。」
「生後間もないコノハがお漏らしをするのは当然じゃ。
今までは父上がピカピカくんで
こまめにおしめを替えておったようなものじゃ。
それにここは上層ではないのじゃ
もし漏れてしまっても捕まったりせぬから安心するが良い。」
「やっ・・・そうゆう方向に行きたい訳やなくて・・・
て、てか、ヤバ・・・ぃ、かもぉぉ」
「ふむ。 丁度良い。
最初じゃし、少し話をしておくとしよう。」
「は、話?? 今ぁっ? うち今それどころや・・・」
「余は、この階層ではあり得ぬ服を着て
さらに冒険者のカバンも使っておる。
じゃが、それを見せびらかしたり
広めたりする気は毛頭ないのじゃ。」
「ぁ、ぅ、うん・・・?」(ぷるぷる)
「まぁ、最初はそういった事もやりつくす程やったし
それが良いとか悪いとかではないのじゃが
今は、住人たちの楽しみを奪ってしまうような気がしてな。」
「・・・ぅ、ぅん?」 (ぷるぷるぷるッ)
「それに、ここの住人と同じ事をする事でしか
ここの住人たちの気持ちを知る事などできぬのじゃ。」
「せ、、、せやろな・・・??」(ぷるぷるぷるぷるッッ)
「そして、何より
余自身の真の衝動をもっと知る事ができるのじゃ!
ここへ来た意味は、この世界を知り、更には己自身を知る事じゃ!
コノハも新しい真なる自分を知りたいじゃろう???
きっとそうにッ!
決まってぇーーーー・・・おるぁぁッ!!!」
ドムッ!
「はぅんッ?!!」
へ? は? コ、コマちゃ・・・
おらー・・・って、ナニうちのお腹に、グーパン食らわし・・・
「ひぅぅッッッ ?!?!?!?!
無理無理無理無理むりぃぃぃーーー?!?!
なんならもう出てるまで・・・ある・・か・・も・・・ 。。><。。」
ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるッッ
「安心するが良い!
最低でも周囲1kmは誰もおらぬ!
流石にこの階層でも少女が人前で堂々と漏らす風習などないからのぅ?
それに、トイレまでコノハの膀胱は持ちそうになかったのでな?
余のグーパンという言い訳があった方が漏らしやすかろうと思ってな!
さぁ! 余のせいにして、盛大に漏らすが良い!
うははははw 乙っ!!! 」
「ぁッ・・・くぅぅぅ・・・・ッ
ど、どぢたらえ”えん????
う、うち・・・ ここで・・・?」
がくがくぶるぶるッ
「あぁ、ピカピカくんを使いたくないのでな?
そのジャージをおしっこで濡らすでないぞ?
いくら余のかわいい妹でも
臭かったらちょっと離れて歩くからな?」
「くッぅぅんッ・・・ぁ、あかん・・・
ぅ、、うちぃぃッ・・・
もぅ・・・」
ズリ・・・
※ しばらくお待ちください ※
(ふぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・ )
「ふふw 余もしておくかのぉ・・・(ピピッ)
キャスト~~~ オ~フッ!! (パサッ)」
※ しばらくお待ちください ※
「はぁぁぁ・・・・(ぽかーん)」
「ふふw どうじゃ? 下層も良いものであろう?」
「解 放 感 ・・・ パなかった・・・ (ぽかーん)
これが、おしっこかぁぁ・・・」
「うははははw
なかなかイケるクチじゃのぉ?
初めての階層酔いも2日でスッキリのようじゃし
流石、余の妹じゃのぉ?」
「生まれた日にいろいろありえへん事
いっぱい体験したからやろか?
なんか・・・ なんでもそんなものなんかなーってっ。」
「なるほどの。
流石父上じゃな、子育ても素晴らしいのじゃ!」
「あはは・・・ そうかも。
でも、びっくりした~
うちの身体には、ちゃんとこういう機能もあるやな。
なんかうちが知らへんいろんな事を
知らんトコでがんばってるんやなーって。
ピピッとしちゃうのも、逆にもったいないかもやね・・・。」
「そうじゃな。
余の細胞1つ1つも余なのであろうな。
じゃが、上層ではピカピカくんがフツーじゃし
ここではトイレがフツーじゃ。
深層にはトイレすらないしのぉ。」
「・・・そうなんや?
コマちゃんは上層でもおトイレ派ぁやと思った。」
「余も、今は上層でもトイレが良いと思っておるぞ?
階層酔いによってこの階層にある程度馴染んでおるからのぉ。
じゃが、階層に入れば階層に従え・・・じゃ。
この感覚は階層ごとに違ってな?
上層では上層の自分に出会う事になる。
好みも、薄い信念すらも、常に変化するものじゃしな・・・。」
「ふーん・・・。
確かにお家とここじゃなんかちゃうし・・・
そういや、動物はおトイレ行かへんもんなぁ。」
「ふふっ、まぁ、そんなところじゃな。
じゃが、決まり事がある訳ではないぞ?
その階層をその感覚で素直に楽しむだけじゃ。
つまらぬルールやペラペラな信念など
己を偽る無意味な枷にしかならぬからな。」
「なるるるる・・・? 難ぃっ!」
「ああ、それと、余とコノハは
他の階層や閻魔庁での記憶を持ったまま来るであろう?」
「ん? そりゃそやな?」
「他の者は記憶をリセットして
真っ白の状態でこの階層へ生まれてくから
ここの住人に他の階層の感覚を持ち込むと
良くも悪くも刺激が強いから、程ほどにな?
まぁ、余はいろいろとやらかしてきたのじゃが・・・
やってみねば分からぬとも言えるのじゃが、オススメはできぬ。」
「・・・・うん?
なんかよぉ分からへんけど、覚えとく。」
クンクン・・・? クンクン・・・?
「ん?
・・・ハッ?!
し、しまったのじゃ・・・
余とした事が、大事な衣装におしっこがッ!
こッ、これはいかん・・・」
ピピッ・・・・
「洗濯&脱臭っ!」
(シュイーン・・・)
「よしっ♪」
「へ・・・???
よしっ♪ って・・・ええぇ?
あ、あれだけ偉そうに長々と語っといて
今、ピカピカくん使ったやんなぁ??
ねぇ? コマちゃん?!」
「仕方なかろう?
世界にはエマージェンシーというモノがあるのじゃ!
それにピカピカくんではない
閻魔コスのオプション機能じゃ!
コノハの服にも付いておるぞ?」
「ナニガチガウンヨ・・・ソレ。」
また1つコマちゃんの事を深く知る事ができて・・・うちは嬉しい。
うん。 納得できへんけど・・・。
◇ ◇ ◇
やっとスッキリしたところでうちは
今更ながら今まで全くこの階層の事が見えてなかった事に気が付いた。
階層酔いとか、ごはんとか、おしっことかで一杯一杯で・・・
ザザーーン・・・ ザザザザーーーー・・・
まず、波の音のBGMが今更聞こえてきて
我に返って周りを見渡すと
すっかり日が暮れてて太陽の代わりに
今度は月がこの階層を照らしてて
見上げれば数えきれないお星さまたちが輝いていた。
波の音の方へ目を向ければ月明りを反射した海面が
夜空と同じようにキラキラと輝いていた。
そのキラキラ、どっかで見たなぁーって思ってんけど
多分、生まれてきて最初に見た
コマちゃんのキラキラお目々だったんやないかな・・・
「こんな、綺麗なトコやってんな・・・」
「コノハにとっての初めての景色じゃからな!
とっておきを用意したのじゃ!」
「あ・・・ ありがと。」
「うむ♪」
うちの為にこの綺麗な場所を選んで連れてきてくれた・・・?
その事を数秒遅れでやっと理解したうちの頭は
コマちゃんのその気持ちがじわじわと
しみじみと、どんどん嬉しくなってきて
それが一杯になって溢れてきてきたから・・・
もう一回口を開いた。
「ありがとね・・・コマちゃん。
いつも、いつも・・・。」
「うんむっ♪」
もぉ・・・ なんでうちよりもコマちゃんが嬉しそうなんよ?
うちがコマちゃんに喜ばせてもろぅてるんやで?
そんな事を思いながら
うちらはしばらくこの綺麗な海岸に腰を下ろし
景色を堪能しながら他愛のない話をした。
◇ ◇ ◇
で、多分2時間後・・・くらい
「コマちゃん?」
「なんじゃ? 飽きたのか?」
「あ、うん・・・
綺麗だし、素敵なトコやけど
夜なのに明るいし、眠くもないし
どっか行かへん?」
「良いぞ?
何かしたい事とかないのか?」
「したい事・・・は、思いつかへんけど。
そういやコマちゃんは、ここ、お仕事で来たんよねぇ?」
「ん? まぁ、そうじゃな?
閻魔庁から覗くだけでも良かったのじゃが
どうしても生で見届けておきたくてな?」
「んー、何か見に来たって事ぉ?」
「そうじゃ。
もっと下の階層でちょっと縁のあった者が
そろそろこの辺りへ辿り着いておるはずなのでな。」
「ふーん・・・ お友達?」
「お友達・・・か。
そうじゃな。 あっちは覚えておらぬがのぉ。」
「そうなんや?」
「じゃが、急ぎではないのでな
コノハは気にせずとも良いぞ?
この辺りの50年くらいならいつでも構わぬのじゃ。
余的に、今回はコノハのお散歩がメインじゃからな!」
「そっか・・・ 楽そうなお仕事やな?」
「うむ! そういう事じゃ。」
「じゃぁ! そゆ事なら、どこか楽しいとこ連れてってっ!」
「よしきた! おねーちゃんに任せるが良い! 余は大船じゃ!」
◇ ◇ ◇
テクテクテクテクテクテクテクテク・・・・
優しくて可愛いおねーちゃんってゆう大船にはきっと・・・
エンジンとか、帆とか・・・ううん、舵とかもないんやと思う。
ただ、絶対に沈むって事だけはなさそうやけど
全てが波任せってゆーか・・・。
今まで1週間も龍のお肉を捕りに行ってたとか
2日もごはん抜いてお塩を作ってたとか
まじありえへんくて、感動して、いっぱい泣いたけど・・・
コマちゃんにとって1年とかの単位は
ひょっとして、うちにとって1日とかその程度なんやないかなー・・・?
なんて、うちは思い始めていた。
任せろってゆうから、面白いところへ案内を任せてから、はや3日。
うちとコマちゃんは似たような景色の中
野宿をしながらサバイバル生活を普通に続けていた。
全部初めての事ばっかやから、外で寝たり
川で水浴びをしたり、そりゃ最初は確かに面白かってんけど
今思うと、最初おしっこしたくなったあの時
あのままおトイレまで我慢とか、絶対ムリやったと思う。
うん。だって、3日くらい歩いてるけど、未だにおトイレ見た事ないし・・・
ちな、うちの普段着にもいろんな機能が付いてて
ぶっちゃけピカピカくんが付いてるようなものなんやけど
“ 階層に入れば階層に従え ” ってコマちゃんがゆうから
なるべくコマちゃんと同じように生活する様にしてる。
おとんにまずは外の世界に慣れてこいってゆわれたのもあるし
おトイレ事情に、食事事情、あと、飛ばずに歩いたりとか?
とりあえず、初めての外の世界での生活の基本?
みたいなんをコマちゃんを見て勉強しようと思ってて・・・
やから、今日もコマちゃんがする事を受け入れながら
うちはその後に続いてた・・・ やや呆れながら。
・・・ ピクッ?!
「ふっ・・・ふふっw
コノハよ! イノシシじゃ! 久々の大物じゃぞっ!
今日はあれを狩って食べるとしよう!」
「マジ?! うち結構お腹減ってたんよっ!
てか、コマちゃんよく分かるなぁ? そーゆーの?」
「当然じゃ! 余はおねーちゃんじゃからな!
むぅぅー、余的にはベアナッコーで行きたいところじゃが・・・
昨日食べたうさぎの骨か固そうな石を使って弓矢を作って
2人でハンターごっこでもせぬかっ?!
いつまでも余が1人で狩ってしまってはつまらぬであろうっ?!
なっ! そうしようっ! 流石は余じゃなっ!!」
キャッキャ♪ キャッキャ♪
コマちゃんはかなりゴキゲンやった。
うちも、今日は朝、果物と木の実を食べたっきりやったから
ガッツリごはんは嬉しい・・・ けどな?
(キャッキャ♪ キャッキャ♪ ちゃうわー!?
コマちゃんならペチンと叩けばイノシシくらい倒せるやん??
なんで今から弓矢作らなあかんのぉ?
多分、うちでもそのへんの石とかぶつければ・・・
なんでこう、コマちゃんはのんびり屋さんなん???)
「出たな! 妖怪効率厨っ!
つまらぬヤツじゃのぉぉ?
そんなではこの階層の者がお肉を食べるのがどれ程大変な事か
さっぱり分からぬではないか!
この階層の事をちょっとは知りたいと思わぬのかぁ??
こ~~~れだから上層かぶれは・・・ はぁ・・・」
「じょ、上層かぶれってなんよーっ!??
ちゃんとおしっこだってしてるやん?!
しかもトイレやなくて、お外でやで???
なんでそんなガッカリ感出されなあかんのー??
それにうち、妖怪ちゃうわーッ! もぉおぉッ!」
「Oh~♪
今日のプンスカプンもかわいいのぉッ!! 最強かっ?!
野生の余の妹はっ♪」
「ま、また、そんなんゆうてごまかそうとしてーッ!」
「どーどーどー、落ち着け、分かったから、落ち着けっ!
言われてみれば余も最初は力に物を言わせておったしのぉ。
よし! なら、好きにするが良い!
岩で潰すもよし、100m程持ち上げて落とすもよし
好きに狩って良いぞ?
余は、次の獲物の為に弓矢を作っておるのでなっ。」
「ぇ・・・ ぁ、ぅん。 ん? んんー?」
(え、どゆこと? うちがイノシシ狩るん?
そういう流れなん???)
「そろそろコノハも自分で
ごはんが食べれるようにしたいじゃろ?」
「・・・んー、そうかも?」
(へ? でも、うち1人で、だいじょぶ?
いけそうな気ぃするけど
それよりむしろ、ちょっと・・・かわいそうちゃう?
岩ぶつけるとか・・・めっちゃ痛そうやし
落下死・・・ って、なんか怖ぁ?!
え? どないしたらええのぉ???
せめて、一瞬で・・・とか?
あ、剣とか・・・ましかも?)
「ふむ・・・ 石斧でも作るかー?
手伝うぞ?」
「ぇ・・・その腰の剣とか・・・貸してくれへんの?」
「ばッ! 馬ッ鹿者ぉぉぉッ?!
そんな雑な使い方できる訳なかろうがぁ?!」
「ぇ・・・ぁ・・・ごめ。
そ、そうなんや。」
なんかよぉ分からへんうちに
なぜか2人で石斧を作る事になってた・・・。
そんで、いろんな石をぶつけあって
なんかたまたまいい感じに割れたヤツを
他の石にぶつけてもっと鋭く・・・
しようとして粉々になって・・・失敗。
とかが続いた。
ここでもやっぱりコマちゃんは大船やった。
帆も舵もないアレ・・・。
できるまで続けそうな忍耐力は凄いんやけど
多分このまま明日になっても
全然おかしくない雰囲気をプンプン放ってて・・・
どうやらコマちゃんはこの階層の原住民さんと
同じくらいの知識レベルでなんでもしたいのかなー?
どれだけ時間がかかっても便利グッズを使おうとはしなかった。
うちはこのお腹ペコペコ状態で流石にそこまでの忍耐力とかあらへんから
よく分からないなりにも、持前のボディの性能に物を言わせて
なんとか無理くりそこそこ鋭くて固い石の刃物を数分で作り上げた。
インチキはしたけど原住民さんが石斧作るのはきっと大変なんやなって・・・
そんくらいはちょっと分かった、かも。
「Oh~♪
かっこいいな!
じゃが、手刀で石を割る自称乙女というのは・・・
乙女とは・・・ と思わざるを得ぬな!w」
「あ、あははは・・・ まぁまぁw
でも、なんか不格好やし・・・ 斬れるかなぁ?」
「最初にしては上出来であろう?
ダメだったらまた一緒に改良しようではないか!
それより次じゃ! 木でグリップを作ったり
そこへ固定する方法もいろいろありそうじゃし
そこそこの出来にするには、2、3日かかるかもしれぬな?
ふむ、やはりこういう時の為
今度もっと下層へ行って1年ほど勉強してくるべきじゃな・・・」
「は?? う、嘘ぉぉ・・・。
もう、これでええ事にしょ? なっ?
うち、めっちゃお腹減ってるし・・・」
「確かに余も小腹は減ってきたが・・・。
まぁ、コノハのパワーとスピードなら楽勝なのも確かか。
そうじゃなっ! 最初じゃし、思うようにやってみるが良いッ!!」
「よっしゃ! あ、でも・・・ これ
リーチもないし、めっちゃ近くで斬らなあかんよねぇ??」
「じゃから、最初は弓矢にしておけとあれ程・・・
コノハが嫌じゃと言ったのじゃぞ?」
「あ、あれ? そういえば・・・?
え? うちのせいなん??」
「まぁ、ずっと生きていけば
どうせどれも何度もするのじゃ
まずは折角作ったそれで、やってみてはどうじゃ?」
「ぅ・・・うん・・・」
そんな流れでイノシシ狩りへ・・・
「ゴクリ・・・ うちが狩りとか、いけるやろか?」
「ヤツのキバなどチクッともせぬと思うぞ?
かなりの質量とスピードで突っ込んで来るじゃろうが
ちょっと飛ばされる程度じゃ。
そのボディや服が大きなダメージを受ける事はあり得ぬから
安心して、落ち着いていくが良い。」
「せ、せやな? わ・・・分かった・・・」
コマちゃんに案内されて
イノシシの方へ石の刃を持って進んだ。
素振りしながら。
コソコソとばれないように近づいてたんやけど
うちが30m手前辺りでイノシシを見つけた時には
あちらはもう、こっちを向いて警戒態勢をとっていた。
(ばッ、ばれてる・・・よね?)
「ばれるのは当たり前じゃ。
イノシシくんをナメるなよ?
むしろコノハがここまで近付けたのは上出来じゃ。
逃げられたとしても追いかける手間がかなり減るからのぉ?」
(向こうから来たりしない?)
「それはない・・・ とも言い切れぬ様じゃな?
ほぉ、どうやら来るようじゃ。
そのビビった気が伝わってナメられた様じゃぞ?」
(うぅ・・・
あ、危なかったら・・・助けてよ?)
「???
・・・・危ない????
あ、あぁ、もちろんじゃ!
余がコノハを護る!
ぉ・・・ どうやら仕掛けてくるようじゃぞ?」
(えッ 嘘? ぅゎ・・・ き・・・来たぁぁー?!
てか?! えぇ? でっかくないぃぃ?!)
ドドドッ・・・ドドドッ・・・・ドドドッ!!!
ぴょんっ!
想像の5倍はあったおっきなイノシシが突進してきたと同時に
コマちゃんは近くの木の枝へとジャンプして
いち早く安全圏へと退避した・・・
(え?! はぁ?! 嘘?! ちょまッコマッ・・・)
ズゴーーーンッ!!!
その瞬間うちは後方へ数メートル吹っ飛んだ・・・
(あぁー・・・
うちの体重とイノシシの体重だとこれくらい飛ばされるんや・・・)
って、一瞬そんな事を考えたけど、そんな余裕はその時だけやった。
痛みとかはそんなになかったけど
イノシシの荒い息づかいや、敵意むき出しの視線・・・
それが、自分に向かって真っすぐに刺さってきて
その目と目が合った途端に緊張が身体中を走った・・・
こッ、怖・・・
ダメージもないし、負けるなんて事は思わへんかったけど
対峙するとそれはドンドン膨れあがってきて
ただただその雰囲気に気圧されて・・・ 怖かった。
イノシシにとっては生きるか死ぬかの一大事で
事実うちはその命を狩ろうとしてる。
これはイノシシにとって遊びなんかやないって
その視線が明確に語ってて・・・
うちも認識を改めた。
ゴク・・・
助けを求めたかったからか
木の上のコマちゃんに無意識に目を向けると
思ったよりずっと真剣な顔つきをしてて
それでも、口をぎゅっと閉じて、首を一回縦に振った。
大丈夫じゃ、頑張れ・・・
なんかそう言ってるような顔やった。
「ぅ、ぅん・・・ 頑張って、みる。」
ドドドッ! ドドドッ!!
突進してくるイノシシを今度は身体を横にずらす事で攻撃を回避。
続けてUターンしてきたイノシシの攻撃も同じように躱す。
(こ、怖いけど・・・ 大丈夫・・・)
そして4回目の攻撃を躱すと同時に
意を決して石の刃をイノシシの首筋へと振り下ろした・・・全力で。
「フッッ!!!!!」
ズパァーーーーッッ!!!
「ブウォォオォ・・・・
ゴフッ・・・ グウォォ・・・」
ボタボタボタ・・・・ ブシュ・・・ ボタボタ・・・
フラ・・・ フラフラ・・・ ドタッ・・・
斬ったの・・・首の半分くらい・・・やろか?
骨の感触、なかった・・・
でも、だから・・・
苦しそう・・・
怖かったあの視線から解放されて
ほっとしたのは確かやった。
でも、うちが残したその傷はどう見ても致命傷で
あと数秒か、数分か・・・
このイノシシの命が終わる事は、うちにでも分かる事やった。
止めを刺す勇気や優しさなんか
とてもやないけど脚が動かへんくて無理やった。
その光景から目を逸らす口実を探すように
うちはコマちゃんを探した。
コマちゃんはイノシシとうちをじっと見てたけど
うちと視線が合うと木の上から降りてきた。
ストッ・・・
「天晴じゃ、イノシシくん。
残り僅かじゃが、最後の時まで全うするが良い。」
コマちゃんの言葉はうちやなくて
イノシシに向けられた言葉やった。
そりゃ、そうか・・・
「上出来じゃ。
今は心から湧いてくるソレをちゃんと見つめるが良い。」
(うち、酷い事したんかな・・・。)
「そういう解釈もある。
が、余は悪いものとは思わぬぞ?
むしろ、この経験がイノシシくんを強くするのじゃ。
余に言わせれば、コノハはこのイノシシくんに
かけがえのない素晴らしい体験を与えた・・・。
そういう風に見えておる。」
コマちゃんが何を言ってるのか、うちにはよく分かんない。
でも、コマちゃんの顔も、声から感じる気迫みたいなものも
冗談や気休めなんかやなくて、心から発っせられているのは分かった。
・・・だからなんか、救われた気がした。
コト・・・
「逝ったようじゃな。 乙じゃった。」
「死んじゃったの?」
「うむ!!
ここに残ったのは余の好物のお肉じゃ!!
でかしたぞー! コノハ!
ドジっ子でもあるが、やればできる子でもあるようじゃな!
早速、食べるとしよう!!
うはははは! 実に乙っ!!」
「・・・。
うち、食べるとかちょっと無理みたい・・・。」
「・・・そうか。
まぁ、それも良かろう。
大物じゃから欲しくなった時に食べるが良い。」
コマちゃんはもう動かなくなったイノシシを川まで運んで
毛皮を剥いだり、血を抜いたり、川の中で冷やしたりしてて
うちはそれをただぼんやりと眺めていた。
コマちゃんはその後、イノシシを関節から分け始めて
そこまで来ると頭や内臓以外はもう
食材にしか見えない姿になっていた。
(うち、薄情やなぁ・・・
もものとことか、おいしそうとか思ってる。
お腹減ってるのもあるかもやけど・・・。)
「ふふw イケるクチか?
ならば太ももを焼いてやろう!
どれだけキバを立てても
もう痛がらぬから安心して食べるが良いぞー!」
「ぅ・・・ そんなんゆうたら、食べにくいやん。
べ、別に食べたい訳やないけど。」
「食べてはダメな理由はすぐに見つけるのに
食べて良い理由はなかなか見つけぬのぉ?」
「だって・・・かわいそうってゆうか。
申し訳ないってゆうか・・・。」
「うむ。
お家に帰ったらイノシシくんの前世、来世、来来世・・・と
ずっと自分の目で追いかけて見つめてみるが良い。
なんなら会いに行くのも良いかもな?」
「・・・?
そういや、コマちゃんがここに来た理由って。」
「余はイノシシではないが、そんなところじゃ。
こうして、縁があった者はその行く末が気になるからのぉ?」
「そういう事やったんや・・・。」
「そう、焦るな。
時は無限に続くのじゃ。
今は、ゆっくり、しっかり、ちゃんとこの瞬間を感じるが先じゃ。
今より大事な過去も未来もありはせぬぞ?
これは父上が教えてくれた素晴らしい真実じゃ。」
「・・・ そうなんや。」
なんか凄く響く言葉やった。
よく分かんないけど、覚えとこって・・・
パチッ・・・ パチパチッ・・・ ジュジュジュジュ~~~
「よッ・・・よしッ!!
完璧じゃ!!
この火加減、この焼き具合
そして決め手はこの甘じょっぱい塩ッ!!!
あと15秒したらかぶりつけ!
そのもも肉はコノハに譲ってやる!」
「はッ!? い、いつの間に・・・」
「起きたかぁ? 寝坊助?
起きておっても寝ておるとは、もったいないヤツじゃのぉ?
それより、今じゃ!
早く、ガブッといくのじゃ!」
「か、考え事してた・・・みたい。
うちやっぱり・・・このお肉食べる権利とか、ない気が・・・」
「なにッ? あ、あぁ・・・
ダメじゃ完璧なタイミングが・・・
コノハが食わぬなら余が食べるぞ??
あぁ、ちょっとは残してやるが
このタイミングで誰も食べぬなんて事は正直、無理じゃ・・・・
頂きます!!!」
ガブリッ!!! ジュワァ~♪
ガブリッ!! ガブッ!!! モグモグモグ・・・
「くッはぁぁ・・・ たまらぬなッ!!! ガブリッ!!!」
(ぅッ・・・ あの勢い・・・
絶対、全部食べちゃうアレやん!!
コマちゃんの場合
残す気があるのと残す事がイコールにならへんよねッ?!
・・・って、別に、うちは食べへんから、むしろええけど
ゆってる事とやってる事ちゃうのが許せへんねん!)
「モグモグ・・・
なかなかそこは馴染まぬのじゃなぁ?
食べたい気持ちも、食べたくない気持ちも・・・モグモグ。
両方、コノハであろうに・・・?
片方だけで、満足・・・ モグモグ、なのかぁ?」
(うぅぅ・・・
美味しそうにモグモグモグモグしてぇぇ・・・
そりゃ、そんなの見たら食べたいに決まってるやん!
今日は、まだ果物くらいしか食べてへんし・・・)
「明日も明後日もずーっと余はこうして
コノハの前で、もも肉を食べるぞ?
それを一生見ておるのが、コノハの選ぶ生き方なのかぁ?」
「そ、それは・・・ 嫌やけど。
うちが殺した、そのイノシシは。
あの目を思い出しちゃうと・・・ やっぱり・・・」
「余が殺した、うさぎや魚なら良いのか?
世話が焼けるのぉ?
まぁ余にべったりな妹もなかなか乙で良いがのっw
ガブリッ・・・ モグモグ・・・」
「コマちゃんは、最初から、平気やったん?」
「ん? 余の場合は、最初はむしろイケイケだったかもしれぬな?
じゃが、ベジタリアンやヴィーガンをしておった時期もあるぞ?
理由は今のコノハと似たようなものじゃ。」
「そっか・・・
なんで、また、殺したり、食べるようになったん?」
「せーーっかちじゃのぉ? モグモグモグ・・・
自分で確かめれば良いではないか、人に聞いても意味などないぞ?」
「そっかなぁ・・・?」
「ん~~ じゃが、これが素晴らしい事じゃと感じるようになったから。
・・・になるのかのぉ?」
「素晴らしい事なん? 殺したり、食べたりが?」
「そうじゃ?
正確にいうなら、その時に何を感じたのか・・・
かもしれぬがな?」
「・・・? やめてー!とか・・・ 殺してやるー!とか?」
「ふふっ いろいろあろうな。
イノシシくんは、悔しかったり、怖かったり
憎しみを感じたり・・・
もし子供がおるならその行く末を心配してみたり・・・
したのかもしれぬな?」
「それ・・・全っ然っ!あかんヤツやん。」
「そうじゃな。
余にとっては・・・というだけじゃ。
それにコノハがこうして悶々としておる事も
このイノシシくんのおかげじゃ。」
「うちは、モンモンしたないし・・・
やっぱし、うちはそのお肉は食べたらあかん気ぃする。」
「そうか。
なら、果物でも食べるか?
まだ、カバンに残っておるぞ?
食べぬとお腹が減ってイライラするからのぉ。
それに、何かにつけていちいち余に責任転嫁されても
めんどくさいからのぉ・・・。」
「せ、責任転嫁なんてしてへんやん??」
「そうかぁ??」
「てか、早くちょうだい! 果物。
うち、そんなん見せつけられて
お腹ペコペコやし・・・」
「ふふっ
たくさん食べて機嫌を直すが良い。」
コマちゃんはカバンから果物をくれた。
ちょっとごはんには物足りない気もしたけど
今のうちにはこれくらいが丁度良かった・・・。
「ギャァァ~ 歯ガ~ 歯ガ果肉ニ~~(棒読)」
「ちょ・・・何?!」
「いや、果物が悲鳴を上げておったのでな?
実況生中継というヤツじゃ。」
「そ、そんな事果物がゆうわけ・・・
ないやん・・・よね???」
「さぁの? ふふっw
ガブリッ!!
うんむ♪ お肉は最強じゃな!!」
「うぅぅ・・・ なんか意地悪やぁー!
うちのおねーちゃんは!」
「うはははは♪ ヤバかわいいのぉ♪
余の妹は!」
―― おまけ ――
< 閻魔コスとダボダボTシャツ >
コマちゃんの閻魔衣装と同じくコノハのダボTにも
便利なチート機能が搭載されてます。
コマちゃんにとって閻魔コスというものは
父である閻魔大王が初めて自分に作ってくれた物という
大きな思い入れのある物だったりします。
なので、おしっこが付いちゃったら
脳死のノータイムで綺麗にしたり
食後や戦闘で汚した時も
洗濯機能を使って大事にしてたりします。
(食後は良く食べながらねちゃうので、翌朝の場合もよくありますがw)
コノハもコマちゃんからオプション機能について聞いた後は
コマちゃんを見ながら同じようにたまに洗濯機能を使ったりもしてますが
2人ともおトイレ機能・・・
(主に体内の不要な排出予定物とかを分解消去する機能で
設定によっては、毒物などの分解や
お風呂効果や歯磨き効果も付けれるし
意図的に胃の中を空にしたりもできるのでダイエットにも使えたりする。)
・・・は使わずにここでは過ごしています。
あと、それとは別に
コノハは衣装のちょっと変わった使い方を思いついたようで
サイズ調整機能を使って、お外でおしっこする時は
お尻をさらけ出す前にTシャツをビヨーンと伸ばし
完全に下半身を隠した状態で用を足してたりしてました。
ちな、コマちゃんはスボンを脱いでも
上半身の衣装がそもそも膝近くまであるので
しゃがむと勝手にお尻が隠れます。
※ 本文中で説明すると長くて書けそうにない事は
こんな感じでちょいちょいおまけコーナーに書こうかと思いますです。