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小閻魔ちゃんと地獄めぐり、する?  作者: ソマリのしっぽ
1/5

001 小閻魔。


< 地獄 - 下層 111階層 >



「グオォォォォォ!!!」

「死ィィィネェェェェッッ!!!!」

「グウォァァァッ!!」

「ガルルルルッ!!!」


グヮシーーン! ドゴーーンッ! ボバーーーンッ!!!



「おーおー、今日も元気に殺し合っとるのぉ~

 よーしよーし♪」



この少女・・・

いや、やや幼女よりの少女は

ここで繰り広げられている殺し合いを

ちょいちょい眺めに来る。


この、やや幼女よりの少女

こんなセリフを言わず黙っていれば

とっても小っちゃく、とっても幼く

町で出会っていたなら、思わずお菓子をあげたくなったり

迷子センターへ連れて行ってあげたくなってしまうような女の子で


この戦場という場所には

あまりにも場違いだった。


この地域には長きにわたり対立し合っている

赤鬼と青鬼の2つの勢力があり

今日はざっと見たところ総勢200ほどの

鬼や獣たちがここで互いに殺し合いをしている。


このやや幼女よりの少女は

崖の上から、この風景をただ眺める事が趣味だった。


だがこの日は・・・



「ん・・・?

 今日は美味(びみ)そうな匂いがするのぉ?

 ほほぅ・・・(ニマッ)」


と、口元を歪めると、大きく息を吸い込んだ。



すぅぅぅぅ~~~~~~・・・



「 聞 け ぇ ぇ ぇ ーーーー い ッ ッ!!!」


 

  ビリビリビリッ!!!


  ―― ッッッ!!!!!?



とてもこの幼い姿から発せられたとは思えない

雷鳴にも似たその雄叫びは、大気を揺らし戦場を駆けた。



「我が名は小閻魔ッ!!!!!

 そしてその名が

 ぬしらに恐怖と憎悪を与える、死の神の名じゃッッ!!!

 理解したら、その牙とッ! その爪でッ!

 全力で抗ってみせよッ!!!!

 うはははははw (おつ)ッ!!!」



やや幼女よりの少女はそう言い放つと

その腰に太刀を()

崖から颯爽と飛び下り、戦場へと舞い降りた。

ややカッコいいポーズを決めながら。



ヒラリ・・・ スタッ!! (ドヤっ!)



・・・?!??



その驚くほどの轟音に

戦場の全ての視線は、一瞬吸い込まれるように集まった・・・


・・・が


視線の先にいたやや幼女よりの少女は

あまりにちっこく、可愛すぎた。


(びびったぁ・・・脅かせやがって。)(なんだ?)

(どこの子だ?)(なんちゅう声だ・・・?!)

(はぁ? 閻魔??? 死の神???)


血走った目で殺しあっていた者たちは

一瞬そんな感想を持ちながらやや幼女よりの少女を見たが

殺し合いの真っ最中にそんなものに構ってる余裕などない。

思わず一瞬止めてしまった武器を振りまわす腕や、相手を引き裂く爪は

すぐにまた血を求めてそれぞれの敵へと襲い掛かった。



「ぉろ? やれやれ。

 余の凄さも分からぬ程じゃったか・・・

 まぁ、元気があって良いか!

 ん~~~・・・

 おいっ! そこのっ!!」



やや幼女よりの少女は

近くで殺し合いを再開した者たちの中から

ガタイのいい鬼に目をつけると

声をかけながら近づいていった。



「ああぁ?? なんだチビ!! 邪魔するなら・・・」



ぴょんっ! ペッシーーーーーンッ!!!



「だあぁぁぁあぁれがチビじゃぁあぁ!!!

 余の言ったことが理解できなかったのかぁぁあぁ???

 その耳が悪いのかぁぁ?

 それともそのツルツルなオツムが悪いのかぁぁ?

 余はぬしに耳鼻科の先生か、国語の先生か

 どっちを紹介すれば良いのじゃ!

 それとも、スクスクとよく生える育毛・・・

 あ・・・?!

 おい???  おーい?」



グラーーーーッ・・・ ずずーーーーんっ!



「「「「「 ?! 」」」」」



やや幼女よりの少女の3倍以上はあった鬼は

頬をペシンと叩かれるとあっけなく地面へと崩れ落ち、白目を剥いた。



「無茶をするヤツじゃのぉ・・・

 そんな軽いツッコミで寝てしまう程度で

 よく余に向かってチビなどと暴言を吐いたな!?

 恐怖を与えるヒマもないではないか・・・

 その無茶、1周回って逆に褒めてやる。

 乙ッ!(ビシッb!)」



(な、なんだと・・・?!)

(あのちっこいのやったのか?)

(敵? 味方?)

(ん? 崖の上にいつもいる・・・子?)



ザッ・・・ ズザザザ・・・



本人曰くの軽いツッコミ1つで場の空気はガラリと変わり

ある者はジリジリと後退しはじめ

またある者は様子を窺いながら死角へと回り込み

少女を避けるようにして不自然な空間ができあがった。



「うむっ♪

 やっと余の話をちゃんと聞く気になったようじゃな! 良いぞー?

 ならば、次は・・・

 よし! そこの犬! ぬしもなかなかじゃな?

 かかってくるが良い!」



そういって指名したのは1匹の狼系の魔物だった。

この犬と呼ばれた魔物、もちろん犬なんてものではなく

大きさで言えばやや幼女よりの少女の5倍以上で

その鋭い牙や爪は人間などプリンかバターのように引き裂く程の化け物だ。



「グルルルルルッ!!」


ズザ・・・ ザザッ・・・


だが、この犬、襲い掛かるとは逆に

威嚇しながら1、2歩後退した。



「ふむ。

 どうやらぬしは余の強さが分るようじゃな?

 偉いぞー、よくそこまで育ったな!

 じゃが、もったいないのぉ?

 そこまで頑張ったのに、ぬしはここで何をしておるのじゃ?

 見たところ親玉のいいなりになって殺し合いをしておるようじゃが?

 それは楽しいのか?

 ずっとそれを続けるつもりなのか?

 明日もか? 明後日もか? 死ぬまでか?

 せーーっかくそこまで頑張ったのにか?」


「ガウッ!!! ガルルルルルッ!!!」


「ぬしの言葉はイマイチ分からぬが

 要は長い物には巻かれろとか、弱肉強食的なアレか?

 ・・・残念じゃのぉ。

 ・・・ふむっ。

 じゃが分かった、お前はもう良い。

 かかって来ぬのなら

 そのしっぽを可愛らしくクルクルと巻いて逃げるがよい。

 余は可愛いものが何より好きじゃからな!

 よし次! もっと生きのよいヤツは・・・」


「ガウッッ!! ガルルルルーーッ!!!」


「ん? なんじゃ犬? 

 せっかく助けてやったのに、逃げぬのか?

 余がしっぽをクルクルしてやろうか?

 あぁ・・・なんじゃ

 逃げたら親玉に怒られるからか。

 それに、逃げるのも恥ずかしい・・・か。

 じゃが、かといって向かってくる勇気もないのであろう?

 ぬしもいろいろと大変な様じゃが

 自分でなんとかせいっ。」


「ガルルルルルゥゥッッ!!!!」


「なんじゃ? 今度は怒ったのかぁ??

 おぬし、なかなか楽しいヤツじゃな?

 じゃが、それは逆ギレとかいうものであろう?

 ぬしの情けなさを余のせいにするには、ちと苦しくないかぁ??

 それはぬしの問題じゃ。

 勇気を出せ! 自信をもって、胸を張って逃げよ!

 もちろんかかってきても良いぞ? どうするのじゃ?」


クィクィ・・・ カモーン・・・



「ガルル・・・」 シュン・・・


「なッ・・・

 だからといって困り果てて落ち込むでないわ・・・

 余も、ちと意地悪だったかもしれぬが

 そんな可愛らしく、耳としっぽを垂れられても困るぞ?

 まいったのぉ・・・。

 犬くんはなかなか正直で可愛いから

 気に入ったのじゃが・・・

 ぬぅぅ・・・ うむ。

 ならば、この場から逃げるのを手伝ってやるから

 そこで今後の身の振り方でも真面目に考えてくるが良い。」


「ガル??」



ザッ・・・ザッ・・・・ ぱこーーーーーんッ!!!!


「きゃーーーーんッ!!!」


ピューーーン ゴロゴロ・・・ コテン。



やや幼女よりの少女が、困り顔で1、2歩近づくと

犬くんは遥か後方へぶっ飛び、目を回した。


ただ単に回し蹴りをくらわせただけなのだが

その蹴りを肉眼で捉えられた者などほとんどおらず

やや幼女よりの少女がちょっと近づいただけで

犬くんが派手にぶっ飛んで行ったようにしか見えなかった。



「まったく、困ったヤツじゃ。

 ・・・じゃが、美味であった、乙。

 よし、次は誰じゃー? (チラッ)」



ズザザザザーーーッ・・・・ タジタジ・・・・



巨体の魔物をかるーくぶっ飛ばしたところを見た周りの魔物たちは

本格的に殺し合いどころではなくなった様子で

警戒の対象を、やや幼女よりの少女ただ一人に移さざるを得なくなった。



「ほぉ・・・。」



・・・が例外もいた。



「ふははははッ!

 どけどけ! オレが相手をしてやる!

 なっかなか面白いチビじゃ―― 」



ぴょんっ!  ペチッ・・・・ミシミシミシィッッ!!!!



「―― ねーかぁッ!!!!」


「だーれがチッ・・・!

 ん? ほぉ・・・?

 余のツッコミを受け止めたか。

 おぬしなかなかのテクニシャンじゃな???

 声をかける前に自ら来たというのもポイントが高い。

 うむッ! 良いぞ良いぞ、嬉しいぞーーーッ!?

 そのままスクスクと育つのじゃぞー!」


「おうッ! スクスク育つぞーッ!

 ッて、律儀かッ!!! オレ!

 って・・・くぉぉッ・・・いってぇぇ!!」


「ここでセルフボケツッコミをする余裕があるとは・・・

 おぬし、本当になかなかの猛者だな?

 こっちの組で1、2を争うほどじゃぞ?」


「う、うっさいわッ!

 ナニモンだ!? テメーは!!!」

(う、受けた腕の感覚がほとんどねぇ・・・

 こ、このチビッ・・・ )


「じゃから、最初に名乗ったではないか。

 小閻魔様じゃ。

 この地獄の王 カッコ 見習い カッコ閉じ じゃ!

 つまり、ぬしらの崇めるべき主ということじゃ。」


「ハァ???

 あ~、おい、そこのお前、このちっこいのはどこの子だ?

 痛い中二な、アレってことか?」


「さ、さぁ・・・  ――ッ?!」



ぴょーーーん! ゴッチィィィィーーーーーーン!!!!



「グッッ・・ ハァ・・・ッ!!」  ガクンッ


「たッ 隊長ぉぉーーーッ!!」


「痛い中二のアレとはなんじゃあぁぁ!!!

 確かに余が、中二と間違う程にCOOLじゃったのは認める!

 じゃが、いくらかっこよくても

 真実である事が伝わらねば意味がないではないか!

 あぁ、じゃが、ギリギリのようじゃが

 余のゲンコツッコミまで受け止めた事は

 大いに褒めてやるぞ? タイチョウ君!

 ここまでよく頑張って育った・・・な?

 って、おい? 大丈夫か?」


(ぐおぉぉッ・・・

 とっさに額で受けたが、なんちゅうパワーだ・・・

 こ、このちっこい・・・ の・・・

 何言ってるか訳わからんが・・・

 まじ・・・ や・・べぇ・・・ クラッ)


「おい! しっかりしろ! 寝るな!

 頼む! まだッ寝るなっ!!

 余の偉大さを理解するまでもうちょっとだけ・・・」



ペシペシッ!!!


グラッ・・・  ずずーーーーーーーんっ!!



「あああぁぁッ!! 根性なしぃぃーーーッ!!!」



ジロ・・・


びっくぅぅぅッ?!



「おい、そこのタイチョウの子分1号。」


「はッ はいぃぃッ!!!」


「余は誰じゃ? 答えよ。」


「え? え、閻魔大王???様? でしたっけ??」


「馬鹿者! じゃが惜しい!

 閻魔大王は余の父上じゃ~~! ふふふふふ♪

 余は閻魔大王の愛娘! 小閻魔様、その人じゃー!

 うははははーーー! 乙!!」


「そそ、そうなんですね・・・」

(やべー・・・ 末期だ。

 末期の中二だぞ・・・

 しかもちっこいのに 鬼つえぇし・・・・)


「うむ!

 中二級のCOOLさはどうしても溢れ出てしまうのじゃが

 決して末期の中二ではないぞー?

 どれも妄想ではなく、真実じゃ!」


(ぎくぅッ?!)


「余の言葉が真実であるという事は

 そろそろ諸君たちも分かってきたであろぅ???

 ほれ! この帽子にもちゃんと“閻”マークがついておろう?

 この衣装は父上の装備を父上自身が直々に

 余の愛くるしいサイズに仕立て直してくれた一品なのじゃ!

 それになにより、余は強い!!!

 圧ぁぁー倒ぉー的に強いッ!!!

 そして、かわいいッ!!! すなわち正義じゃ!!

 それが、なによりの証拠じゃッ!!

 ・・・じゃろ????」


「は、はぁ・・・」


「うんむっ♪

 では、子分1号くん!

 そこのタイチョーとやらが目覚めたら

 きっちりしっかり伝えておくのじゃぞ?

 ぬしが今、生かされておる理由はソレじゃ。

 しっかりと伝わるまで、それを人生の最優先事項として生きるのじゃ!

 分かったなぁー?」


「は、はぃ・・・」


「うんむっ♪

 ・・・さて?」


(なかなか美味なヤツに出会って

 ついはしゃいでしまったが・・・どいつじゃ?)



キョロキョロリ・・・ スタ スタ スタ ・・・


ズザザザザァ・・・・



「ん・・・?

 なんじゃ? 皆、もう殺し合いはせぬのか?

 別に止めに来た訳ではないから続けてくれて構わぬぞ?

 それとも余が来たらやめてしまう程度の理由で

 命をかけておったのか?

 はたまた、余が怖くて何もできなくなってしまったのか?

 もしそうなら、ちと申し訳ない気もするが

 なんか、こう! 何があってもやり通したいッ! とか!

 そういったエモぃハートを持ったヤツはここにはおらぬのかぁ?

 命までかけて、何かしておったのであろう???」


( しーーーーーん。 )


「おかしいのぉ?

 何か美味な気配を感じて来たはずなのじゃが・・・

 ちと早かったか?

 まぁ、それならそれで、親玉でも見に行ってみるか。」



てくてくてく・・・・


ズッ・・・ ズッ・・・ ズザザザザァァァァ・・・・



やや幼女よりの少女の先にはまっすぐに道ができた。


この時点で赤鬼軍と青鬼軍の争いは完全に中断され

誰一人として殺し合いをしているものはおらず

皆、この小さな不思議生物の

理解不能な行動をただ警戒するしかなかった。


やや幼女よりの少女が作ったその道の一番先には

4頭の獣に引かれた馬車のような神輿があり

その上の派手な椅子の上には

赤鬼軍の親玉らしき赤い大鬼が座っていた。


そして・・・


「殺れ・・・。」


赤い大鬼が一言そう言うと

装備や外観がいかにも中ボス風で

かなりのマッチョな赤鬼が4匹

無言のまま殺気をむき出しにして

やや幼女よりの少女を襲ってきた。



スカスカスカスカッ・・・・



「「「「 ッ?!?! 」」」」



ぴょーーーーーーん・・・ スタッ!


ペシーーンッ!!



「馬ッ鹿者ーーーんッ!

 やりたいことがあるなら自分でせぬかぁー!!!

 マッチョ(フォー)にやらせるでないわー!

 もったいないじゃろうがッ!」



やや幼女よりの少女はマッチョ4を飛び越え

神輿の上の椅子に座る赤い大鬼の膝の上へと降り立ち

そのままその横っ面にビンタを食らわした。



「こッ・・・

 このッ クソガキがァァァッッ!!!!」



ブチ・・・ブチブチィッ!!!


そんな音が聞こえてくる程に大鬼は怒りでブチ切れ

目の前に現れたやや幼女よりの少女のその頬めがけて

怒気を纏ったどす黒い拳を力任せにぶち込んだッ!



ドゴスッッッ・・・・ ビキ・・ビキビキッ・・・・



「おろ?!  ・・っとっとっと。(ぴょん・・・ストッ)

 ほぉ? やればできる子ではないか!

 良いぞ良いぞ~!」



やや幼女よりの少女はその拳を頬で受け

結果、地へと降りる事になった。

だが、ちょっと態勢が崩れたから降りるか。

的なノリで、むしろダメージを受けたのは大鬼の拳の方であった。



「こッ・・・ このガキャァぁあぁぁッ!!

 このクソガキをぶち殺せえぇぇぇ!!!!」



大鬼は周りの配下にそう命令を下すと

自らも神輿から飛び降りた。

空中でギリギリと上半身をひねりながら

着地と同時に全体重を乗せた渾身の拳を振り下ろすッ!



ドッッッゴォーーーーンッッ!!!



さらにそこへマッチョ4が剣や斧を振り回し

10本の腕がやや幼女よりの少女へと一斉に襲い掛かった!



ブブンッ! ザクゥゥッ!!! スパパーーーーンッッ!!! キーーンッ!

ズドドドドーーーーン・・・・



「Oh・・・

 これはすごいのぉ~?

 もっと来るが良いっ! 余は嬉しいぞッ!!!

 うははははw」


「なッ・・・ なめやがってッ!!!

 さっさと・・・

 くたばりやがれえぇぇぇッ!!!」



ゴゥッ!!! ゴスッ!!! ゴゴーッ!! ズビシュッ!!! ゴバーーンッ!!!



怒り狂った10本の腕は

やや幼女よりの少女へと的確に襲いかかる。


が、そのことごとくを、躱され、弾かれ、押し返され・・・

ボロボロになっていくのは地面や神輿

そして自らの拳や武器の方だった・・・



「よっ・・・ ほっ・・・ ひらり!

 紅組のボスくんよ、ちょっと聞かせてくれるか?

 ああ、そのまま続けてくれて構わぬぞ?」


「ぬああぁあ”ぁぁッッ?!!!

 死ねッ!!! 死ねッ!!」


「意外とがんばるのぉ??

 しかし、なぜそこまで必死に余を殺したくなったのじゃ?

 初対面であろうに?」


「うるッ!! セーッ!!!」


「余のツッコミビンタで怒ったのか?

 それ分は最初に殴らせてやったではないかー?

 あれでは・・・(ブンッ! ヒラリ!)

 気が・・・(ブブンッ! ヒラリ!)

 済まなかったのか~? (ブブブブブン!)

 えぇい! さっきからブンブンブンブンとッ!」


ゴゥッ! バギンッ・・・・


呑気な声でそう話しながらやや幼女よりの少女は

マッチョ4たちの武器のうちの1つ、斧を砕いた・・・。

振り下ろされるその斧を掌と拳で挟み叩き割ったのだ。


ただ、斧が一番鬱陶しかった・・・と言う理由で。



「んなッッ・・・」


「すまぬな、斧担当くん。

 余は器がまぁまぁ大きい方じゃが

 次イラっときたら腕を折る。

 今からはその覚悟で来るがよい!(ニマッ)」


「なめるなッ!! 小閻魔とやらァァッ!!!」



ゴッ・・・キン・・・



「ぐぬぁッ・・・・ッ!!!」 


「うむ、天晴じゃ。斧くん。

 ぬしとは後でゆっくりやろうではないか!

 何か言いたそうな様子じゃしな?

 まぁ、じゃがまず先にこの赤組のボスくんと話をさせてくれぬか?」


「・・・・くッ」


「ぬああああ”ぁぁッ!!!!

 何がボスくんだ!!

 マジでもう死ねッ!!! 消え失せろーーッッ!!!

 鬼 拳 ッ!!!

 怒 剛 ォ ォ 砲 オ ォ ォ オ ォ ォ ッッ!!!!!! 」



ドッッッッゴオォォオォォォォーーーーーーーーーーンッッッ!!!!!



配下の腕を折られてキレたのか

ニックネームが気にくわなかったのか

赤組のボスくんは彼の大技と思われる渾身の一撃を放った!



ミシッ・・・



「うむ・・・ 良い拳じゃ。

 マジで。」



ブシュッ・・・・ ボタ、ボタボタボタ・・・・



「クッッ・・・・ クソがッッ!!!!」



言葉とは裏腹にケロッと受け切ったやや幼女よりの少女を睨みながら

赤組のボスくんはそう吐き捨てた・・・


ドアをノックするかのように

軽く握った拳を少し捻りながら鬼の拳に合わせた。

それだけの動きで鬼の拳は止まり、骨が何本か砕けた。


鬼は全身全霊を込めた一撃ですら届かなかった事を実感すると

配下を止めながら、下がった声のトーンで、こう続けた。



「もういい・・・

 貴様はなんだ、何しに来た・・・

 こっちは青の奴らを滅ぼすのに忙しいんだ

 いきなり乱入してきて何がしたいんだ、青の回し者か!

 それならそれで、退く訳にはいかん。

 死ぬまで続きをさせてもらうぞ。」


「じゃ・か・らッ!

 ちゃんと何っっ度も何度も

 懇切丁寧に名乗っておるではないかッ!?

 余は小閻魔様で、この地獄世界の王(見習い)じゃと言っておる!

 ほんとに、この階層の者は人の話を聞かぬのぉ・・・

 あ・・・ あと死の神とも言ったかもしれんな??

 どっちも真実じゃぞ?」


「バカバカしぃ!

 地獄? 王? 神ぃぃぃ?

 頭わいてんのか???」


「まぁ、この辺りの階層は勝手に殺しあって

 勝手に死ぬからのぉ。

 余の出番がしばらくなかったのは確かじゃが

 ぬしだって、地獄とか父上の名くらいは知っておるのじゃろう?

 余がどんな存在かくらい、分かるであろう?」


「子供の絵本じゃあるまいし

 そんなもの信じてるヤツなんかいる訳ねーだろ!

 大体、地獄ってのは何かしでかしたヤツが

 死んだら行くトコって話じゃねーのかぁ?

 なんで死ぬ前からここが地獄なんだよ!

 お前の相手なんかしてる暇ねーんだよッ!

 オレたちは青のヤツらを徹ッ底的に滅ぼしたいだけだッ!!」


「血の気の多いヤツじゃのぉぉ?

 大事な者でも殺されたのかぁ? 青組さんに。」


ブチッ・・・


「殺された? 殺されただと?

 ああ、殺されたさ!

 殺されたなんて言葉じゃおさまらん

 親も! 兄弟も! それにッ・・・(ギリギリギリッ)」


「なるほどのぉ。

 ならばその衝動をぬし自身が最後まで見届けねばならぬな。

 良いぞ、飽きるまでやるがいい!

 この世界の王である余が、それを認める。」


「黙れ! 当ッたり前だ!!

 貴様に言われなくとも、この怒りも恨みもオレのものだ!!!

 誰にも邪魔などさせんッ!!!」


「うむっ! がんばれ! かっこいいぞ!」


「こッ・・・ このッ・・・るッせー!!!

 ふざけた顔で聞いてんじゃねーぞ!!!

 馬鹿にしてんのかぁッ!!!

 なんで、こんなのが強ぇぇんだ・・・ クソがッッ!!!」


「うむっ! がんばれ!!!

 応援しておるッ!!! 余は大マジじゃッ!」


「ぬ”あ”あぁぁ” ムッかッッつッッッ・・・・ ダラァァッッ!!!!」



ドッゴーーーーーン・・・・ グシャ・・・



「ぐぬぬぬぬ・・・・ッッ!!!」


「余が強くてすまぬが

 赤組くんだって、もっとちゃんと強くなれる。

 励むが良い。」


「うるッせぇ!!! だぁぁれが赤組くんだッ!!!

 もぉぉぉーーーいいだろ!

 殺す気がないなら、消えやがれぇッ!!!」


「うむ、そうするとしよう。

 ああ、そこの斧くん!

 待たせたな、腕を診てやろう

 言いたい事もあるのじゃろう?

 そっちの剣の子もか?

 赤組くん! ちょっとこの子たちを借りるぞ?

 あとは好きなだけ、復讐でも報復でもに励むが良いっ!」


「うるッせーーーー!!!! とっとと消えろッッ!!!!!」




   ◇ ◇ ◇




「いーーーーーっ よっと!」


コキンッ


「ってッ・・・」


「ふむ、しばらくじっとしておればくっつくじゃろう。

 余が上手に折ったからな! 前より丈夫になると思うぞ?

 ふっふっふっw」


「そうか・・・」


「ぬしが折れといったから折ったのじゃ

 余はちっとも悪くないからな?」


「ああ・・・ そんな事はどうでもいい。」


「そっちの剣の子は・・・

 マッチョじゃが、メスのようじゃな??

 ふふw

 恋・仲・かッ!!!!」


「「(/////)ボンっ!」」


「ふふw 良いのぉ~良いのぉ~w

 で? 余に何か言いたい事・・・

 いや、聞きたい事があるのじゃろ?

 それとも、心ゆくまで戦いたいか?」


「いや・・・ 

 知りたい・・・

 何を聞きたいのか、よく分からんが・・・

 なぜ、そんなに強いのか・・・

 それにオレが追いかけてる強さとはなにか違う気がして

 オレは、あんたの強さが、まるで分からなかった・・・」


「ふむ、せっかちくんじゃのぉ?

 生きておればフツーに毎日少しづつ強くなるぞ?

 あと1000年もすれば

 見違えるほど強くなっておるはずじゃ!」


「あ、いや、真面目に聞いてるんだ・・・

 ちょっと中二っぽい感じになって恥ずかったんだが

 オレはいたって真剣に・・・」


「馬鹿者ッ! 余こそ大マジじゃ!

 嘘みたいにかっこいい話でもあるが、真実でもあるのじゃ!」


「バカ言え・・・

 鬼は1000年も生きられねーじゃねーか。」


「“はい、死んだら終了~” みたいに話すのはなぜじゃ???」


「死んだら終わりだろ。」


「おぬし、終わったことが一度でもあるのかぁ?

 ではなぜ、何度も何度もくどいほど死んでおるのに

 今まだ、歩み続けておるのじゃ・・・?」


「ハァ??

 オレはまだ死んでない。

 死んだ事もないのに分かる訳ないだろ?」


「ふむ・・・ ふむ?

 まぁ、それもそうか。

 よし! ならば死ねッ!!!

 今すぐここで、その身をもって知るのが早かろう?

 こう見えて余は実験が好きだったりする意外な一面を

 持っておったりするのじゃ。

 じゃから、余の意志でそれを手伝ってやろうではないか!

 うむ♪ さすが余じゃ! 名案じゃろう?」


「「 ハァ? 」」



ッィィィィィィーーーーーーー・・・・・ン



やや幼女よりの少女はそう言って

腰の太刀を音もなく抜いた・・・


いや、やや幼女より・・・

などという雰囲気など、その途端にどこかへ消え去ってしまっている。


時が止まり、音が消え、色を感じない世界に

迷い込んだかのような感覚が2人を飲み込むと


少女は、美しく、妖し気に、口を開いた・・・




『 昇るも(さだめ)、堕ちるも(さだめ)・・・


  永久(とわ)の流れに迷いし子


  その御魂のあるがまま


  時の果てへと導かん


  逝くが良い、還るが良い


  我、小閻魔の名において 汝を葬る・・・



  貫けッッ!!!


  【 走 馬 刀(そうまとう) 王 技(おうぎ)ッッ!! ―― 】 』



ゾワワワ・・・・


「―― ッ?!

 待ってッッ!!!!!」



『 【 輪 ・・・  花・・・ 】 ・・・ッ?!?! 』



ピタッ・・・・


シュゥゥーーーー・・・・ン・・・・




「なッ・・・なんじゃ、マッチョメス?

 決め台詞をほぼほぼ最後まで言わせておいて止めるとは

 さすがの余でもちょっとイラっとくるぞ?

 ここは、余の一番の見せ場なのじゃ

 おぬし、何をしでかしたか分かっておるのかぁ?

 3回ほど殺すぞ?」



ヒュヒュン・・・ カチッ・・・



「わ、分かってませんけど、なんかごめんなさい。

 で、でも、いきなり死ねって言われて死ぬわけには・・・

 今、一瞬、本当に死にかけたような感覚で・・・

 こ、怖くて・・・」


「死んだ先の事が知りたいなら

 死ぬのが手っ取り早かろう??

 四川風麻婆豆腐の味が知りたいクセに

 四川風麻婆豆腐を出されて拒否るでないわ!

 食べねば分からぬに決まっておろう?

 食べに行けッ!」


(( シセンフー・・・? ・・・何? ))


「だだ、だって、死んだら終わっちゃうんだから

 知る事できたって、意味ないじゃないですか。」


「余の話を聞いておったかーー?? マッチョメ?

 誰がそう言ったのじゃ?

 違うと言っておろうが?

 この階層の住人はこぞって人の話を聞かぬのぉぉ?

 ぬしは、耳鼻科か? 国語か?

 それとも育毛剤をやれば会話ができるようになるのかぁ?

 見たところ毛は大丈夫そうに見えるが・・・」


「ハィ????

 ・・・で、でも、死んじゃったら

 もう、ここには、この身体だって・・・

 それに、こうしてオーノの隣で過ごす事も

 もう、できなくなるんでしょ・・・ 」


「ん? 斧くん?

 斧くんは、オーノという名なのか?」


「ああ・・・? 今更何言ってるんだ??」


「Oh・・・no・・・

 いや・・・ いい、忘れてくれたまえ。

 時にマッチョメくん?

 君は・・・」


「違います! 私の名はリーノですッ!!

 マッチョメとか、何の名前ですかッ!」


「ふぅ・・・;

 そうかそうか、安心した。 良い名じゃな!

 一瞬、余が時を超えてムゴい影響を

 与えてしまったのかと思ったではないか。」


「ありえません。」


「うむ!

 で・・・なんじゃった?

 あぁ、死んだあとオーノくんとまた一緒にイチャイチャできるか?

 じゃったか?」


「べべ、べつにイチャイチャなんて・・・(/////)ぽっ

 じゃなくて!

 他にも妹や弟を残して死ねないし!

 この争いの事だって・・・」


「なるほどの。

 まぁ、ボディはまたそのマッチョボディに乗っても良いし

 来たければまた、この時代のこの世界に来ても構わぬぞ?

 家族には適当な過去を上書きしても良いし、問題なく戻って来れる。

 じゃがまぁ、ぬしらの記憶はサーバーに移すから忘れる事になるがのぉ。

 リセットというヤツじゃ。」


「りせっと??? なにそれ?

 記憶がなくなっちゃったらダメじゃない!

 オーノの事も、家族の事も忘れちゃったら

 そんなの戻ってきても、なんの意味もないじゃない!!」


「そうなのかぁ?

 ぬしらは、その程度の仲なのか??」


「そ、その程度ってなによッ!

 どれだけ大切に思ってたって、忘れちゃったら・・・

 どうしようもないじゃない・・・」


「リーノよ、あまり、おぬし自身をナメるでない・・・。

 大体、ぬしらはいつからイチャイチャしておるのじゃ?

 生まれた時から恋仲じゃったのか?」


「そ、そんな訳ないじゃない(///)」


「ならば、なぜ、ほかのヤツとくっつかなかったのじゃ?」


「そ、そんなの・・・ 分かんないわよ。」


「ふふっ・・・

 まぁ、そういう事じゃ。

 ぬしらは生まれるずっと前から

 この世界でイチャイチャする気満々じゃったようじゃぞ?

 そして、見事にまたイチャイチャしておる!

 記憶も約束も、全て置いてきたにも関わらず・・・な?

 よく、がんばったの。」


 ニコッ♪



「「 ・・・・。 」」


「今回できたのじゃ

 次もそうしたいなら、できるに決まっておる!

 それに、この世界もそれを応援するようにできておるしな。」


「そ、そんなことって・・・」


「もう、どこかで分かっておるのであろう?

 さっき余と走馬刀の剣気をくらって

 三途の川の手前まで行ったのじゃ、ちょっとは感じたであろう?

 それに、証拠なら、まだあるぞ?

 例えばオーノくんはほかの武器より斧が得意であろう?

 最初っから。」


「あ・・・ あぁ・・・?」


「前回も今回も斧ばっかり振り回しておるようじゃし

 次回も最初っからさぞ斧が得意なのじゃろうな、まぁ、当たり前の事じゃが。」


「 ・・・・・・ 」


「皆最初は、ミジンコ程度の心と身体しかないのじゃ。

 この偉大なる小閻魔様ですらそうじゃ! タブン!

 そこから何度も何度も死に、生まれ・・・

 今日のぬしらへと辿り着いたのじゃ。

 気の遠くなるほどの・・・

 数えきれぬ季節を繰り返して・・・な。

 どうじゃ、自分が誇らしかろう!!」


「本当・・・か?

 中二的なアレ、ではなくか???」


「ぐぬ・・・

 この階層は空前の大中二病ブーム中なのかぁ?

 なかなか良い文化じゃし、余も応援したいところじゃが

 妄想などではないぞ?

 それにもう、ちょっとは実感しておるはずじゃ!

 あれでも足らぬなら、やはり死ねッ!

 余なら1秒と待たせずにそれを分からせてやれるぞ?

 なーに、痛みはない!

 ちょこっと死んでみぬか?」


「え、遠慮しますっ!!!」 「そ、それは、流石に・・・」


「つまらぬヤツらじゃの。

 まぁ、良い。

 ああ、オーノよ?」


「あ、はい。」


「強さについて知りたいと言っておったが

 やはり余の答えはさっきと同じじゃ。

 1000年も生きれば何をしておっても勝手に強くなる!・・・じゃ。

 今のおぬしが想像できぬ、新しい別の強さを持ってな。

 ミジンコだったおぬしがここまで強くなったようにのぅ。

 残念じゃが、それをミジンコにどう頑張って説明したところで

 何がどうなれば自分が鬼にまで辿り着けるのかなど

 理解どころか、想像すらできるはずなかろう?

 知りたければ、もっと生きろ。そして、死ね。

 そう言うしかないのじゃ。

 それに、“ 余が思う強さ ”という物を知るには・・・

 ぬしらの魂は、まだちょっとだけ若すぎるからのぅ?」


「あんたからすると

 オレはまだ、ミジンコって事か・・・

 ははっ・・・」


「まぁじゃが、今のオーノが知りたがっておる強さの話をするなら

 余の強さはオーノと大して変わらぬぞ?」


「そんな訳ないだろ?

 あんたはオレの斧をいとも簡単に砕いて

 いくら斬りつけても、岩を殴ってるようだった・・・」


「確かに少々強靭な身体に生まれ

 重く速い動きができるのは確かじゃが

 アレは、強さなどではない、ただの暴力じゃ。」


「暴力???」


「オーノが余を見て求めた強さは

 今日初めて見た、余の圧倒的な暴力なのか・・・

 それとも、余の内なる真の強さなのかはまだ揺れておるようじゃが

 暴力を求めるのなら、意外と簡単だぞ?」


「・・・そうなのか?」


「このあたりの階層ならば

 重たいものを速く鋭く当てれば良いだけじゃからな。」


「いや、それくらいは何となく分かってるが

 あんたの強さはそんな次元じゃ・・・」


「その程度じゃぞ?

 知っておるなら大して教えられる事も

 なくなってしまうのじゃが

 そうじゃな、例えばその斧・・・

 壊してしまったし、別のものをやろうと思うのじゃが

 もっと固い金属で作り、もっと鋭く磨き上げたものにすれば

 今の半分の力や技で、倍の敵を殺せる。

 言い換えればぬしが半分の強さになったところで

 倍の強さを手に入れれる・・・という事じゃ。

 オーノくらい重く速い技を使えるのなら

 さらに肉体を毎日少しづつ鍛えて強くなるよりも

 刃を磨いた方が良いかもしれぬぞ?」


「・・・それは・・・そうかもしれんが。

 だが、そんな事はやっている

 固い石とかの事は分からんが、他のヤツが・・・。

 オレは道具屋じゃない、戦士だ。」


「職業の話はしておらぬが、もっと簡単に殺したければ

 銃・・・ ん~~~

 もの凄い威力の弓を作れ、重く鋭い矢を速く飛ばせれば良い。

 大量に作って青組のボスくんにでも打ちまくれば

 戦争も終わるのではないか?

 なんなら毒矢でも良いぞ?

 重く速くなくとも数撃てばあたるかもしれぬ。

 毒蛇の毒くらいならこのあたりでも手に入るのではないか?」


「なッ・・・

 なんて事思いつくんだ・・・

 弓はともかく、毒だと・・・?

 そんな、そんな方法・・・」


「ダメだったか?」


「それは・・・

 それは、卑怯者がすることだ。」


 ニコッ・・・


「ふふっ では、どこからが卑怯なのじゃ?

 毒矢からか?

 飛び道具からか?

 斧を鋭く研磨するところか?

 武器を手に持つとこからか?

 それとも、拳で相手をねじ伏せるところからか?」


「それは・・・」


「身体を鍛えるのは正義で、頭を鍛えるのは卑怯か?

 それはそれでこの階層の美学とも言えるが

 余とオーノくんの差は、その頭の部分なのは事実じゃ。

 だが、大事なのは、そんなところではない。

 オーノが何に胸を張れるのか・・・

 何を正義とするか、じゃ。

 それは余やぬしらのボスくんに聞く事ではない。

 余に聞いても良いが、理解などできぬぞ?

 この世界の真の王、我が父上、閻魔大王に聞こうものなら

 『 かわいいは正義ッ! 』 と堂々と言ってのけるからのぉ!!

 うははははw」


「はぁ・・・・?

 可愛いが・・・正義とかの土俵に上がって来る訳・・・

 何言ってるんだ?

 これも新手の中二なのか?

 おい、どこまで本気で、どこから冗談なんだ?!

 オレは、大マジで・・・」


「余こそ、大マジのマジじゃ。

 だから、生きて生きて生きろ。そして死ね。

 いずれ・・・届く。

 これは冗談なんかではないのじゃ。」


「はは・・・確かに、聞いても分かりそうにないな。

 ・・・・はぁ。

 だが、あんたの強さは凄かった。

 暴力って事なのかもしれんが、それでも、オレは・・・。」


「そうか。

 確かに、余の暴力は長い年月をかけて

 やり込み抜かれておるからのぉ。

 憧れてしまうのも無理はないがな!

 じゃが、余の暴力は毒矢どころではない別次元の暴力じゃぞ?

 オーノたちには理解できぬ技と肉体で自在に重さと速さを操り

 攻撃も防御もこの階層の理解の域を超えておるからな!

 うははははw 乙じゃw」


「そうなのか・・・?

 なら、その卑怯な武器だか道具だかを使わなきゃ

 あんたも、ただの小娘って事なのか?」


「誰が小娘じゃ!!

 それに武器など使っておらぬわ!

 生まれつきそういった事ができる卑怯な身体なのじゃ

 使わぬ訳には・・・

 ・・・ん?

 いや、何を言わせるのじゃ?

 余が卑怯な訳なかろうがっ!

 余はかわいく、すなわち正義なのじゃぞ?!

 正義は何をしても正義なのじゃ! 卑怯の対極の存在じゃぞ?

 大王である父上も、そう認めておる程じゃ!」


「ダメだ、もう何言ってるか、訳がわからん。

 オレは何を目指して・・・

 何を、期待してたんだ・・・」


「ふふっw

 たくさん生きるが良い、そして死ね!

 辿り着きたい強さというものは、皆、違う。

 皆、そうやって見つけるものじゃ。

 余も暴力は大好きじゃが、いろんな強さを探すが良い。

 暴力で勝てるのは、今のうちだけじゃしな。」


「・・・そう、か。」


「うんむ♪

 最後に1つ、2人に冥途の土産話をしてやろう。

 別の時代を生きたオーノくんは

 四川風麻婆豆腐が大の好物でな。

 この階層にそれがあったかどうかは知らぬが

 どうせ今もとびきり辛い物が好きなのであろう?

 リーノよ! それを作れるようになったら

 一層イチャイチャが捗るかもしれぬぞ?

 いろんな世界で男は胃袋を掴めとよく言われておるからのぉ。」


「なぜ、オレが辛党だと・・・」


「オーノの激辛ブーム・・・

 筋金入りだったのね・・・・?」


「ぉ・・・おぅ・・・?」


「・・・! (ピーン♪)

 そうじゃ! オーノ!

 斧の代わりには、これをやろう!

 今日からはこれで暴力に精を出すが良い!」


ブォン・・・


「どッ? どっから出した?!」


「ん? カバンじゃぞ?」



スチャリ・・・・ ズシッ・・・



「これは・・・ おッ 重いな?

 それに刃がとんでもなく鋭い。

 しかし、この薄さで、この超重量?

 すぐ折れたりしないか?」


「余が雑に振れば折れるじゃろうが

 オーノ程度なら大丈夫じゃと思うぞ?

 もし折ったら凄くもあるが、下手でもあると言えるのじゃが

 まぁ、もし折る事ができたら

 褒美としてもうちょっといいのをまたやろう。」


「お、おぅ・・・ なんかそれ複雑だな。

 てかこれ・・・でかい包丁?ぽくないか?」


「ぽく・・・ではない。

 少々でかいが最高級の中華包丁じゃ。

 野営やピクニックで獣をさばいたりもできて便利じゃろ?

 ああじゃが、もちろん戦場では

 前の斧の、数十倍虐殺が捗ると思うぞ?

 たくさん殺し、たくさん己を知るが良い。」


「・・・お、おぅ。」


「ふむ、余の役目はこんなところかのぉ・・・?

 無限に知りたい事はあるかもしれぬが

 まずはその武器と共に今回の生を楽しむが良い。

 できればボスくんではなく自分の声を聞きながらな。」


「自分の声・・・ 分かった。

 ・・・。

 行っちまうのか?」


「ふふふw

 寂しいか? 余はかわいいからのぉ!」


(ギロリッ!)


「あ、いや・・・そういうんじゃないんだか。」


「うははははw

 なーに、また会えるから心配するな!

 余も四川風麻婆豆腐は大の好物でな!!

 いつか、別の時代、別の世界で

 それを食しながら、酒でも飲もうではないか。

 リーノも一緒に3人でのぉ!

 自分だけの強さに胸を張れるようになったら

 いいドヤ顔で自慢しに来るが良い!

 余は、先に行って待っておる!」



   ◇ ◇ ◇



その後、オーノとリーノが

どんな日々を送っていくのかは

二人にしか分からない・・・


・・・が


「いや・・・ やはり四川風麻婆豆腐には

 どう考えても酒ではなく、炊き立てのツヤツヤごはんじゃろ?

 帰ったら酒ではなく、極上の米を探してくるとしようっ♪」



やや幼女よりの少女は

嬉しそうに微笑みながら、そう独り言を囁いた・・・。



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