表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーダム/フリーウィル  作者: たきかわ由里
7/10

第七話

 オーディション当日、スクリームのメンバー揃って指定されたスタジオに向かった。

 そのスタジオは事務所が経営している所謂街スタジオだが、ゲネプロにも使える大きな鏡のあるスタジオや、レコーディングスタジオも兼ね備えている。

 今日はそのレコーディングスタジオで、録音と撮影をしながらオーディションが行われる。

普段のライブとは違う環境に、メンバーたちはきょろきょろとしている。

「俺、マジで上がって来たんだけど」

 ヴォーカルの翔が、深呼吸をしてそう言うと、ドラムの大和がゲラゲラ笑う。大和に緊張は無縁のようだ。

 セッティングは済み、後はゴーサインを待つばかりだ。

 ベースの陸はしゃがみこんで頭を抱えている。最年少の彼が、一番緊張しやすいタイプだ。

「大丈夫! いつも通りやれよ!」

 今朝、雄貴から激励のLINEを受け取った。そこで颯太の腹は据わった。やれるだけのことをやって見せるしかない。

 メンバーに檄をとばし、ガラスの向こうのコンソールルームに目をやる。そこには、先程挨拶を交わした事務所の社長やレコード会社の担当者をはじめ、数人がいる。

 そこへ、ケルベロスのメンバーがぞろぞろと入って来た。来るとは聞いていなかったので、少し驚く。今日は午後にインストアイベントの予定が入っているというのに、わざわざ足を運んでくれたのだ。

 雄貴は颯太に向かって、笑顔で手を振ってくれる。

 尊敬する雄貴の前で、みっともないところは見せられない。

「よし、陸、立て!」

 声をかけると、陸はのろのろと立ち上がり、コンソールルームを見て一歩後ずさる。スクリームに、ケルベロスを尊敬していない者は一人もいない。

 陸はすぐに気を取り直し、ガラスの向こうのケルベロスのメンバーにきっちり一礼をする。緊張しやすいとは言え、彼もミュージシャンの端くれだ。颯太と同じように気持ちを切り替えたのだろう。

 スピーカーを通して、エンジニアの声が届く。

「じゃ、一曲目始めて下さい」

「よろしくお願いします」

 一曲目に設定したのは、セルフタイトルのスクリームだ。結成以来、ずっとプレイし続けている代表曲。

 これが一番気負わずに出来て、緊張をとくことができるだろうという算段だ。

 計算通り、メンバー達の緊張感はいい意味で緩んできて、普段のグルーブ感をすぐに取り戻す。

 プレイが終わり、颯太はエンジニアに向かって軽く頭を下げる。

「すぐ2曲目いける?」

「いけます!」

「じゃあ、君たちのタイミングで始めていいよ」

 メンバーたちを振り返り、それぞれとアイコンタクトをとる。全員が頷いたのを確認して、大和に合図を出すと、大和がハイハットでカウントを刻む。

 2曲目には、少しクセのあるブレイクスルーザナイトを。楽曲の振り幅をアピールする狙いだ。スクリームはパワーメタルと言われるジャンルに分類されるが、そこから少しはみ出したタイプの曲もプレイ出来る。

 難なく、寧ろ良いコンディションでこの曲もクリアする。

「OK。じゃあ次がラスト。いつ始めてもいいよ」

「はい!」

 返事を返し、再びメンバーたちを振り返る。

「この調子だ。ライブだと思えよ!」

 その颯太の声に、それぞれが思い思いにリアクションを返す。この調子なら、問題ない。

「お願いします!」

 コンソールルームに向かってそう声を出し、大和の名を呼ぶ。

 3曲目はリアクションだ。スクリームの最新曲で、これはまだデモ音源を送っていない。それだけにどう評価されるかは完全に未知数だが、颯太には自信も勝算もある。

 重く攻め込むようなツーバス、それを追い立てるようなベースライン。ライトハンドを生かしたギターソロ。突き抜ける高音のシャウト。

 今のスクリームを表現するには最高の一曲だと自負している。

 最後の一音が消え、全員でコンソールルームに向かって頭を下げる。

「ありがとうございました!!」

 あちら側で拍手をしてくれているのが目に入る。雰囲気も悪くない。

 陸は我に返ったのか、大きなため息をついて床に座り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ