第六話
「えっ!? マジですか!?」
「マジマジ」
月曜の、客の少ない夜。何の前触れもなく雄貴がサンダー&ライトニングに現れた。茶金の短髪、しっかりした肩幅を持つ彼は、和馬と同い年の同級生だ。
どのギタリストよりも、颯太にとっては神に近い存在だ。一見威圧感があるが、その実気さくな彼は、ここで出会って以来ずっと颯太を可愛がってくれている。
「そういうことだから、今度の日曜、スクリーム集合な」
「はい!」
所用で事務所に顔を出した雄貴が、社長から颯太への伝言を持ち帰って来た。
スクリームのオーディションを行うと。
今も定期的に事務所に送り続けていたデモ音源が功を奏した形だ。やっと、目標として来たメジャーデビューに指先がかかった。
「ほんとはちょっと前から社長もやりたかったらしいんだけどな。今回、レコード会社で手ぇ挙げたとこがあったんだとよ」
「うわ、マジですか!」
嬉し過ぎて、「マジ」しか言葉が出て来ない。
横で聞いていた和馬は、颯太の背中を叩く。
「やったじゃねーか! しっかりやって来いよ」
「流石に緊張しますよ! 曲の指定はあるんですか?」
「ねぇよ。3曲見せてくれってだけ。自信あるヤツぶちかまして来い!」
雄貴はガハハと豪快に笑い、ビールを煽る。
どの曲を選ぶか、それもオーディションのポイントの一つになるだろう。頭の中で、オリジナル曲をあれこれと思い浮かべる。
「どれがいいですかね」
「俺は口出さねぇよ? お前がリーダーのお前のバンドだ。自信もってやれ!」
「はい!」
雄貴はずっとスクリームを評価してくれていて、アドバイスをもらうこともあった。ケルベロスのリーダーを長年務めている彼は、そういう意味でも颯太の手本だ。
「和馬どうするよ、スクリームがデビューしたら、この店」
「結構参るな」
「俺、絶対辞めませんよ? 勉強になるんで」
「そうか。そんならいいけど、バイトリーダーは敦也にバトンタッチだな」
同僚の敦也も、颯太と同じオーディションでこの店に入ったベーシストだ。彼もスラッシュメタルバンドをやっていて、同様にデビューを目指している。
基本的には寡黙な敦也だが、この店のことは充分把握しているから、バイトリーダーとして不足はないだろう。
「まあでも、俺らが受かったらの話ですよね」
「受からねーようなレベルのヤツは、うちの店には置かねーぞ?」
和馬は笑顔でそう言ってくれる。この4年、彼はこうして颯太とスクリームを見守ってきてくれた。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「おう! 頑張れ! よし、お前も呑めよ」
雄貴はそう言うと、和馬に目で合図する。和馬はすっとビールサーバーに向かってビールをジョッキに注ぐ。
そのジョッキを受け取る。
「スクリームデビュー前祝いだ!」
「早いッスよ!」
「いいんだよ! それくらいのつもりでやれ。乾杯!」
そして、雄貴は自分のジョッキを颯太のジョッキに当てる。
そのビールの味は、過去最高に美味しかった。