第十話
6月半ばの日曜日。幸いにして気持ちのいい晴天に恵まれた。
「ステージ企画」の腕章を誇らしげに装着した弥太朗の案内で、スクリーム全員とローディー二人はライブ会場となる体育館に入り、待ち受けていた担当の教師に挨拶をする。
学校自体は長い歴史を誇るが、体育館は今年度の初めにオープンした、新しくて綺麗な状態だ。
「スクリームがある意味こけら落としだよ!」
「そりゃ光栄だな」
ステージも広々としていて、動きやすそうだ。そこには既にレンタルをオーダーしておいた、大型のアンプが設置されている。
早速、実行委員の学生たちにも手伝ってもらって運んだ機材をセッティングにかかる。各々が黙々と準備を進め、予想よりは早くセッティングは完了する。続けて、サウンドチェックを始める。音の反響も案外悪くない。
ヴォーカルだけは設置されているPAを利用して、マイクチェックを行う。
「じゃあ、リハーサル始めっぞ」
概ねバランスが取れたところで、リハーサルを行う。これも特に問題もなくスムーズに進んだ。
弥太朗が学校側にかけあい、実行委員内の会議も調整して、90分のフルライブの時間をもぎとった。リハーサルはそのうち5曲程のみプレイする。
楽屋はステージ脇の放送室があてがわれた。
「ヤタ、ここ飲み食いしていいのか?」
「飲み物くらいなら、バレないからいいよ」
「バレたら怒られんのお前だろ」
弥太朗はあははと笑い、外を指さす。
「体育館出ればオッケー。あ、タバコは校門出てから!」
「わかってるよ、それくらい」
持参したペットボトルの水をそれぞれ持ち、体育館の外に出る。水を飲みながら、メンバー全員で最後のミーティングとセットリストの確認をしていると、通りがかった学生達が遠巻きにその様子を眺めて何か話している。
ふとそちらを振り向くと、女の子数人が笑顔を振りまく。
ここは男子校だったはずだが、とよく見ると、彼女たちは私服だ。遊びに来た他校生だろう。
大和がにこにこしながら手を振ると、彼女たちは笑いながらその場を去って行った。
「やーい、逃げられたー」
翔がからかうと、大和は舌を出す。
「うっせ。つーか、絶対あれ颯太見てたよな」
「あ? そうか?」
そこまで気にして見ていなかったので、素で聞き返す。
「JKにモテモテじゃん」
「知らねーし。つうか大和、さっきのリハでもコーリングの出だし遅れてたから、あれマジ気を付けろよ」
「へーい」
リハーサルでの問題点や、日頃から起きがちなミスをメンバーたちに指摘し、放送室に戻る。
「颯にい、そろそろ開場するな」
「了解、よろしく!」
メンバーと順に握手を交わすと、弥太朗は表に出て行った。
程なく、ざわめきと足音が聞こえてくる。放送室の小さな窓から覗くと、制服と私服が入り交じった少年少女が次々に体育館の板張りの床を埋めていく。
「思ったより入ってんじゃん」
陸は驚いた様子で、背後の颯太を振り返る。
「ヤタがかなり宣伝しまくったって言ってたからな」
校内中に弥太朗が作ったスクリームのポスターが相当数貼られているらしい。その上、何度か昼休みの放送をジャックして、スクリームの音源をかなり流したようだ。
そんなきっかけでも、彼らがヘヴィメタルに触れる機会が出来るのは嬉しい。
興味本位で見に来た中で、一人でも二人でもヘヴィメタルが好きになってくれれば、言うことは無い。
30分程で弥太朗が放送室に戻って来る。
「10分後に開演でお願いしまーす!」
「OK。じゃ、ヤタ、SEだけ頼んだぞ」
「任せろって」
弥太朗は親指を立ててウィンクをする。スクリームのライブの常連である弥太朗だ。タイミングは間違わないだろう。
メンバーはそれぞれ体を動かし、ウォーミングアップを始めた。
「スクリームさん、お願いします!」
スタートの時間だ。弥太朗がSEを流し始める。
大和が、陸が、颯太が順にステージに上がると、いつものライブでの歓声とは違う、どよめきのようなものが聞こえてくる。それでも、初めて見るヘヴィメタルミュージシャンに興味津々の視線が注がれているのがわかる。
最後にマイクを手にした翔がセンターに立つと、ジャストのタイミングでSEが途切れる。
「ウィーアー、スクリーム!!」
翔のシャウトに重なり、大和のハイハットがカウントを刻む。
一曲目、リアクションからライブがスタートした。
初速を保ったまま3曲をプレイする。爆音に驚いて一瞬凍りついていた客席の中にも、少しずつ身を乗り出す者が見えてくる。
そこでMCを挟み、メンバー紹介を入れる。
そして、そこから2曲。MCでは、文化祭バンドの思い出などをメンバーにも振りながら話すと、会場は少し和んだ雰囲気になる。
そこからの4曲は一気だ。今日は敢えて、ミドルテンポの曲はセットリストから外してある。プレイするメンバー側からすればかなりハードなセットリストだが、ヘヴィメタルに馴染みのない観客が飽きずにいられるように組んだつもりだ。
狙いがあたったのか、会場が揺れ始めた。ヘッドバンギングなど知らないのだろう、そう言った特有のノリ方をする者はいなかったが、音に合わせて体を揺らす様子が見受けられる。
他愛のないMCをはさみ、終盤に向けて3曲を。マッドクロウラーで翔がコールアンドレスポンスを仕掛けると、楽しかったのだろう、男子達がそれに応える。
ここまで巻き込めれば上等だ。
そして、最後のMCに入る。
「みんな乗ってくれてありがとうな! じゃあ、最後の2曲になるんだけど」
今日は流石にアンコールは計算に入れていない。その為、ここまで12曲を一息にプレイした。後は本当に最後の2曲だ。
客席からちらほらと「えーっ」という声が上がる。僅かながらでもそう言ってもらえるのなら、成功だろう。
「いやもう、俺らだいぶやったよ? 何曲だっけ?」
翔に振られ、颯太は12曲、と答える。
「まぁ、今日面白かったなって人は、ライブ来て下さい! あと、10月に、俺たちスクリーム、メジャーデビューします!」
観客の間から起こる拍手。
「なんでね、よかったらこれからもお付き合い下さい! じゃ…」
翔はニヤッと笑って颯太に目線を送る。颯太は頷いてマイクに向かう。
「今日、文化祭実行委員で、俺らを呼んでくれた佐々木弥太朗! 来い!」
放送室に向かって手招きをする。
「おい、来い、ヤタ!」
弥太朗はきょとんとしながら、上手からステージに上がってくる。無理もない。これは事前の打ち合わせにもなかったし、セットリストにも書いていない。
「はい、俺の弟子の佐々木弥太朗です」
「ちょ、なに、颯にい」
それから、下手に控えていたローディーにも手招きをする。
ローディーはもう一本用意していたギターを弥太朗に差し出した。
「えっ? 颯にい? えっ?」
「はい、とっととかける。大丈夫、それセッティング済んでるから」
「えっ、これ颯にいのサブだからだろ!?」
ステージ下からは、突然呼び出された弥太朗に視線が集まっている。弥太朗は戸惑いながらギターを肩にかけ、その視線と、颯太の笑い顔をきょろきょろと交互に見る。
「ヤタは陸の隣行って。じゃあ一曲だけ、カヴァーやります。ケルベロスのヘル・ドライブ!」
颯太は曲紹介をして、マイクに向かって叫ぶ。
「ヤタ、弾け!!」
大和のカウントに続けて、有無を言わさず始まるイントロ。弥太朗は咄嗟にギターを弾き始める。BPMは210程度。原曲には及ばないものの、スピードはかなりのものだ。
颯太はサイドギターに徹し、起こるかもしれない弥太朗のミスをサポートすべく注意を払う。
が、予想していたようなミスは起こらずに曲はどんどん進んでいく。
追い詰められた状況での注意力、集中力は大したものだと感心する。
そしてギターソロ。難易度が高く、なかなか速く弾けなかったそれを、弥太朗は乗り越えた。
ここを越えれば、もう心配はない。
エンディングに辿り着き、曲は終わる。
弥太朗が大きく肩で息をついたのを見届ける。
「そんじゃ、このままラスト行くぞ!」
弥太朗が翔の顔を二度見する。口の形は「えっ」と言っている。それにも構わず、翔はタイトルコールをする。
「ソングコール! スクリーム!!」
一瞬、弥太朗はぽかんとする。颯太がイントロ初めの4小節のリフを弾き、弥太朗に振る。
「ヤタ!」
弥太朗は反射的に続きを弾き出した。弥太朗が最初に弾きたいと言ったのは、この曲だった。
リードギターのパートを弾く弥太朗の音に、サイドギターのフレーズを絡ませる。下を向いて弾いていた弥太朗の目線がふっと上がる。
同級生がステージに上がっていることも相俟って、全体ではないが、会場が盛り上がっている。
弥太朗は笑った。笑顔で会場に向けて腕を振り上げる。
きっと、彼は今、最高の気分だ。
颯太は微笑んで、それを見守る。
今日一番の盛り上がりの中、曲はエンディングを迎える。翔のシャウトが、ライブを締めくくった。
「ありがとーう!スクリームでした!!」
それぞれ会場に手を振り、頭を下げ、ステージを降りる。
最後に陸に連れられて弥太朗が降りてくる。
「よくやった、ヤタ!」
弥太朗の両肩を叩き、褒めてやる。
「いい出来だったぞ」
「マジびっくりしたじゃん! 颯にい! 言っといてくれよ!」
抗議する弥太朗の顔は笑っている。
「はは、楽しかったか」
「うん、楽しかったけど、死ぬかと思ったじゃん」
「死なねぇよ。どうだった、ツインギター」
「最高に決まってんだろ」
颯太は頷く。
予想以上に、弥太朗とのツインギターは颯太にとっても楽しいものだった。自分が教えたということもあり、呼吸も合わせやすく、相性が良いことを感じられた。
「ま、他のバンドで修行して来いな」
「…そうだな」
弥太朗は弥太朗で、自分に不足しているものを体感したのだろう。今回は素直に頷く。
「言ったろ。お前が即戦力になったら考えてやるって」
「颯にい」
弥太朗は顔を上げて、颯太を見る。
「お前が即戦力になるまで、スクリームのサイドギターは空けとくよ」
「…っ、えっ! マジで!?」
「マジで」
「じゃ、俺、頑張るから! 待っててくれよ、颯にい!」
頷きながら、弥太朗の頭をぽんぽんと撫でる。
「よし! 撤収すんぞ!」
メンバーとスタッフに声をかけ、片付けを始める。
「ヤタは手伝い呼んできてくれ」
「うん!」
弥太朗は実行委員を呼びに駆け出していく。
「ふーん、うちはツインギターになんのか」
大和がスティックケースにスティックをしまいながら、颯太に言う。
「いつだかわかんねぇけどな」
笑いながら、ギターをケースにしまい、シールドを巻きとる。
いつになるかはわからないけれど、いつの日か。
「フリーダム/フリーウィル」全10話にお付き合い頂き、ありがとうございました。作者のたきかわ由里です。
普段は軽めのBLをメインに書いておりますが、今回はBL要素なしの青春ストーリーです。
お読み頂いた通り、主食はヘヴィメタルを標榜している私ですが、雑食なのでいろいろ聴きます。頭の中で常に音楽が流れている体質なのですが、その頭の中に弥太朗が現れたのは、MINTmateboxというバンドの曲が流れ出した時でした。
MINTmateboxは爽やかギターロック(ガールヴォーカル)で、青春っていいねぇーなんて思っていたら、弥太朗が突然現れてわーわー喋り出した…のがきっかけですw
そしてMINTmateboxを執筆BGMに、3日後にはこれが書き上がっていました。
連載という形式も、SSじゃない長さのものをWeb全文掲載も初めての経験でしたが、如何でしたでしょうか?
演奏シーンを書くのが何より好きで、練習シーンもライブシーンも楽しく書かせて頂きました(*ˊᵕˋ*)
普段書いているBLもこの世界のお話で、今回登場しているキャラクターは共通です。もしBLが大丈夫な方がいらっしゃいましたら、そちらにもお付き合い頂けたら嬉しいです( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎(主にpixivですhttps://www.pixiv.net/member.php?id=24277577)
またこのコンビのお話が出来たら、こちらにアップしていきますので、今後ともよろしくお願い致しますm(_ _)m




