愛しい君
僕には君しかいなかったんだ。いなくなってやっと気づいた。君を捨てた僕が悪い。君をもっと大切にしていれば、もっと長くいられたのに…。
毎日何気なく触れていた君。僕の汚れた心を洗い流してくれる愛しい君。君がいれば1日気持ちよく過ごせるんだ。
君と僕が出会った日のこと覚えてる?あのときあの店で君とぶつかっていなければ、君と僕は一生出会うことも無かったんだろうね。そう、あれは運命だったんだ。あんなにたくさんいる中で見つけたのが君だったんだから。
仕事が忙しくて君に会えない時は寂しいよ。どんどん心が憂鬱なっていく。出張先の宿に行った時なんて最悪だったよ。君と似ているコもいたけど、やっぱり君とは全然違ってるんだ。僕には君がぴったりなんだよ。
君は食べ物の好き嫌いが多かったよね。特にシミのできやすいカレーや納豆みたいな匂いのきついものはあまり好まなかった。でも僕はカレーも納豆も大好きでよく食べてたね。それでも君は毎回どんな嫌いな食事でも付き合ってくれてた。君って本当に優しいよ。僕のために我慢してくれるんだから。
時には君に強く当たることもあったね。本当は優しくしてあげなきゃいけないって分かっていたのに。君に当たることで僕はすっきりするどころか余計に傷ついてた。君のせいじゃなくて僕自身のせいなんだ。君はボロボロになっても僕に一生懸命尽くしてくれたよね。僕を絶対に裏切ったりしない君はすごく我慢強いんだ。
君は無口で何も言わないけど、僕が今どうしたいのか、ちゃんと分かってくれてたよね。僕の思った通りのところにフィットして、僕を最高の気分にしてくれる。僕の全部を受け入れてくれる君が大好きだった。
でも、お別れの時は確実に近づいていた。君にはあの時のように僕を支えてくれる気力を失っていた。僕は君に対して満足することができなくなっていた。本当に、本当にごめん。いつかこの日がくるっていうことを、君も僕も分かっていたんだ。僕は君とさよならしなくちゃいけないんだ。もっと一緒にいたかったけど、もう無理なんだ。
君は黙って頷いた。さよなら愛しい君。君のおかげで僕は最高の毎日を送れていけたよ。ありがとう。
君と別れてからしばらくもしないうちに別なひとと一緒になった。こんな僕でごめん。でもそのひとと過ごしているうちにやっぱり君じゃなきゃだめだったんだって気づいたんだ。何度も忘れようとしたけどだめだった。君のやわらかな髪、しなやかなボディライン、そして透き通るようなきれいな肌。君のすべてが忘れられなかった。君を捨てた僕を恨んでくれ。僕は弱い男だ。君がいなきゃ僕の1日のスタートもゴールもしっくりと決まらない。毎日君のことを考えていた。
だけど、運命って不思議だよね。もう二度と会わないと思っていた君と再会することができたなんて。再会した場所覚えてる?君と出会ったところと同じあの店。笑っちゃうよね。世界って意外と小さいんだから。
もう君を手放したりはしないって誓うよ。もしもまたお別れの日が来たとしても、何度でも君に会いに行くよ。君がいる場所はもう分かってるんだから。僕は君のもとへ飛んで行くよ。愛しい君のもとへ。
この話を読んでどう思いましたか?ところどころくさかったですね…。
実は話の中に出てくる「君」とは「歯ブラシ」のことなのです。恋愛と歯ブラシのコラボ(?)です。
この前使い古した歯ブラシを新しい歯ブラシに替えた時に思いついた話です。使い込んだ歯ブラシってなんとなく捨てるのにためらっちゃうんですよね。
「君」を「歯ブラシ」に置き換えてもう1度読み返すと分かるかも…。