私とユグ2
朝は宿から朝食に木ノ実とミルクが出た。
ユグと向かいあって朝食を摂る。
喋らないのにユグと一緒にいると和やかな空気になる。
いつもご機嫌そうで、素直なユグにこちらも心が浄化されている気がする。
気付くと私も微笑んでしまう。
頑張ろう。
ベッドを入室時と同じ形に戻し、宿の人へ挨拶をして闘技場へと向かった。
大通りをまっすぐと中心部に向かって進むと、外壁がレンガで建てられた巨大な建造物が見える。
分かり易くあの建物だろう。
受付を済ませて闘技場へ入場した。
参加者が少ないと聞いていたが100人ほどが参加している。
私はトーナメント表の1番小さい所、パッキンからのスタートだ。
闘技場の控え室は共同部屋だ。
そんなところにユグは置いておけないので、受付で聞いた子供を預けられる迷子センターへ連れて行った。
逃げられないよう厳重に監禁してもらうよう頼んだ。
されたことのない珍しい頼みごとだったのか、迷子センターの人も驚いていた。
別れ際ユグはプンスカと怒っていたが、怒りたいのはこちらだ。
今まで脱走したユグのせいで途中棄権を何度したことか。
だから闘技会に出場するのは久しぶりだったりする。
控え室で順番待ちをしていると、何人もの男に声をかけられた。
私は一度睨んで、あとはだんまりを決め込む。
早く出番来ないかと待ちに待った。
決勝には8回目で辿り着く。
消化試合のようなパッキン組は一巡目で回る。
有名な人がこのパッキンに入るなんてことはあり得ない。
パッキン同士の試合を見たが、やはりぱっとしない泥試合ばかり。
そして私の番がやっときた。
試合数も多いのですぐに闘いは開始される。
相手は木刀を持った獣族かな?
私が持ち込んだ武器は弓。
ルール上、派手に傷つけなければ武器の使用は有りだ。
そしてアナウンスされた。
「試合開始!」
コールが響くとほぼ同時に私は弓を打った。
相手の靴底の皮部分だけを貫いて地面に刺した。
身動きが取れない間に魔法で衝撃波を送り、相手は気絶した。
一瞬会場が静まった。
そして湧き上がった歓声。
私は矢を回収して早々にその場を去った。
よし!あと7つ。
ーーーーーーーー
「…うん。あの娘…強いね。決勝の相手は多分あの娘だ。」
闘技場観客席の最上段にあるVIPルームから、闘技場を俯瞰する男がそう漏らした。
ーーーーーーーー
「次の相手は第2シードかぁ…山場だなぁ…」
第1シードのミノタウルス以外の話は、ほとんど耳にしなかった。
多分、私が思うにはミノタウルスには勝てる。
ミノタウルスは圧倒的な脳筋だから。
私は妖精族の中でも腕には自信がある方だ。
特技は風属性の魔法。あとは弓。
できるだけ自分の技術は漏らしたくない。
相手の実力を見極めて力と魔力を解放する。
窮屈な戦い方。
闘技場を見るとミノタウルスの試合だ。
「あっ…」
挑戦者は一撃で戦闘不能になった。
本当に男って脳筋。
このままだと、優勝できるかも。油断できないけど。
2回戦も中盤。第3シードの登場だ。
獣族だろう。狼タイプ。強そう。
狼タイプは素早い。
スピードに撹乱されない事と的を絞らせない事が重要。
必然的にこちらの運動量も増えるからあまり当たりたくない。
対戦相手は…見た目がもう魔法使うタイプだ。
中身は見てみないとわからない。
試合開始を告げる掛け声が空まで響いた。
先に仕掛けたのは魔法使いの方だ。
第3シードの獣族は動く前に空間魔法をかけられた様子だ。
何やら前のめりに潰されている。
重力魔法っぽいな。と、いうことは魔族だ。
動きを封じられた時点で獣族に勝ち目はない。
決着が付いた。
勝利を手にした男が闘技場から出て行く時に、こちらを一瞥したように見えたけど、きのせいかな?
第3シードが負けた後は波乱も起こらず試合の数は重なっていく。
そして私の番だ。
相手は…人間だ。
第2シードだし油断できない。
最初は様子見しよう。
白衣を着てメガネをかけている。
研究者だって事は見て分かる。
武器を持っている、非常に怪しい…。
掃除機のような物を背負っている。
作戦変更。
あの怪しい武器を使われる前に早々に決着を付けた方がよさそうだ。
人間は武器に頼る戦闘スタイルだ。
という事は武器が第2シードの地位を持っているということだ。
早く決着をつけて、ユグにご飯をあげに行こう。
闘技場の上にはすでに対戦相手が待って構えている。
私が場内に入ると対戦相手はニヤリと笑った。
盛り上がった闘技場内は、私の準備を待たずに試合開始の合図をアナウンスした。
「これはこれは妖精族ではないか!私の新しい武器を試すのは打ってつけだ!しかも女ときた!せいぜい大事な部分にこいつが命中しないこ、ガフッ!!」
「気色悪い!」
私は引いた矢に暴風の魔法をかけて、あのキモい白衣男の背中にある物を撃ち抜いた。
白衣男は暴風に乗って、闘技場の壁にぶつかり気絶した。
新しい武器とか言ってたけど、壊してもきっと問題ない。
世の女性を守ったと思えば罪悪感も残らない。
なんかキモいから矢は回収しなかった。
不意打ちみたいで気分が悪かったが、それ以上に奴と対峙することが不愉快だった。
ユグの所に行こう。
闘技場で売っているパンとサラダとスープを買って迷子センターへ向かう。
ユグは他に預けられていた子達の面倒をみていた。
少しだけお姉さんに見えた。
「ユグ。ご飯買って来たよ」
声をかけるとユグはすぐにこちらへ走ってきた。
「お昼一緒に食べよ、食べたらすぐに行くね」
トーナメントの最中、空き時間を使って少し早めの昼食を摂りに来ている。
この先は試合間隔が短くなる為、今しか来れない。
ユグには悪いけど、そのせいで少し早めの昼食になってしまった。
私は試合が残ってる為、あまり胃に入れたくない。
パンを一つ食べてこのまま戻るとしよう。
私はスープを勧めてきたユグに「ありがとう、でも大丈夫だよ」と言って頭を撫でた。
ユグが昼食を平らげたのを確認すると、私は係の人に再度厳重な監禁をお願いしてこの場を離れた。
その後私は4度の戦いを終え準決勝へと駒を進めた。
ユグの脱走も気になるが、逆ブロックにいる魔族も気になる。
どの試合も初手で決めてしまう為、力量が測れない。
次はミノタウルスと準決勝で当たるようだ。
ミノタウルスが上がって来たのならそれで良いが、魔族が上がってくるのなら負けもある。
そこで少しでも力を確認したい。
今のところ重力魔法しか見せていない。
対策も立てにくいし、他の魔法に足元をすくわれる可能性もある。
ダメだ。まずは目先の準決勝だ。
気持ちを切り替えて準決勝の闘技へ入る。
闘技場へ入るとそれだけで歓声があがる。
ここで私の名前を始めてアナウンスされた。
この町に住んでいない為、大した紹介はされ
ない。
対戦相手は第4シードの実力を持って上がって来た猛者だ。
相手も妖精族のようだ。
そして試合開始の宣言が挙げられた。
まずは横に走って矢を放つ。
しかし矢の軌道は、相手に届く前に変えられてしまった。
もしかして…私と同じ風が得意?
何度か牽制に矢と魔法を使ったが、やはりそうだ。
こうなると技量、力、魔力の高い方が単純に勝つ。
勝負するなら技量だ。
そうなると短期戦に持ち込まないと、ジリ貧になり私の勝てる見込みが薄くなる。
私は実戦で鍛えた思い切りの良さと、相手を誘導して仕留める一撃に全て賭けた。
矢と魔法を使って右へ誘った。
着地後では逃げられる。
着地する前に、宙に浮いてる所、突風を当てる!
相手はこちらの思惑通りに動き、勝ちをもぎ取る事に成功した。
私は以前魔力量には自信があった。
しかしあの日以来、常に使える魔力量が減った。
妖精族は外界から魔力を借りる。
私が得意な風は空気に多くが入っている。
妖精族は魔力を借りる時に、魔力を溜め込む袋がある。
その袋の大きさを魔力量と呼んでいる。
この袋の大きさは生まれた時からあまり変わらない。
訓練で多少は大きくなるようだが、それでも5%程らしい。
つまり魔力量とは才能の表れでもある。
私は以前、平均値の3倍はあった。
しかし今は平均以下だ。
どうしてこうなってしまったのかは、わからない。
前例すら聞いたことが無かった。
でも私はこれでやるしかない。
この世界が平和である為に、戦い続ける。
ミノタウルスと魔族が闘技場に入った。
できるならミノタウルスに勝って欲しい。
しかし、そんな思いも虚しく開始3秒でミノタウルスは負けてしまった。
「ふふふ上等!」
私は強者との戦闘に胸が踊っていた。
決勝の舞台にもなると観客席の熱気はピークに達していた。
結局相手の使う魔法は、重力魔法以外に出てこなかった。
これまでの対戦相手が引き出せなかったと言うべきかな?まったく!
しかし相手が誰だろうと、私は絶対に負けるわけにはいかない。
実戦で相手は待ってくれないんだから。
私は萎んで来た魔力量を感じて、やる事を一つに絞った。
そして相手が闘技場に入ってきた。
私は笑顔で観客席に手を振る。
空気を緩ませる必要がある。
私の戦いは始まっている。
観客席からは色々な類いの言葉が飛んでくる。
あんた達の事なんてどーでもいいんだよ!
パフォーマンスは私の作戦だ。
ヒラヒラと観客席に手を振る私に対し、対戦相手はこちらしか見ていない。
これは子供騙しが通じる相手じゃないと悟り、媚びた態度をやめた。
「やはり対戦相手は君だったね。君からは実戦でしか臭わない闘気を感じたよ。私を楽しませてくれたまえ。」
こいつも実戦を重ねているようね。
けど、楽しませるつもりなんてない。
私は圧倒的に強くならなきゃいけない。
もう大切な人を失わない為に。
そして決勝戦開始のアナウンスが流れる。
「試合!」
足の裏にありったけの突風魔法をタメた。
「開始ぃ!」
飛んだ。
ちはやふるごとく、私の拳は相手の顔面にめり込んだ。
多分0.3秒程で決着は付いた。




