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ヒマワリの望む場所。




「ガウッ……(はぁ、落ち着いた)」


 俺のビームによって出来た新しい川沿いに歩いていけば、それだけで洞窟にまで戻ってこれる。

 俺の背中には、ヒマワリはいない。あのイシャとかいう眼鏡の男ならば、ヒマワリをきちんと育ててくれるだろう。

 それに嘘を言っている感じもしなかった。それならばヒマワリを本当の父親のところに連れていくこともないだろう。

 ならばいい。それならばヒマワリは幸せに暮らせるだろう。

 そもそもフェンリルの俺と一緒に暮らすこと自体が無謀だったんだ。

 人間は弱い。ああやってすぐに弱ってしまう。だからこそ人間は人間同士群れで暮らした方が懸命なのだ。


 ……誰に言い訳をしているんだろう。


「ガル……ッ(腹が減ったな)」


 洞窟ですぐ寝ようかとも思ったが、急に腹が減ってきた。

 おかしいなぁ。昨日ヒマワリと一緒にビッグボアをがっつり食ったというのに。


 しかしあれだな。ここ最近はビッグボアとワイバーンしか食ってないから少し飽きてきたな。

 たまにはビッグボア以外の奴でも食うかー。




   +




 いやー今日は大収穫だ。

 ちょっと気まぐれで遠出してみたらたまたまカオスシマウマの群れに遭遇して七頭は仕留められた。こいつら草食なのにやけに肉が美味いんだよ。

 うんうん。ヒマワリがいなければこれくらい遠出しても大丈夫だし、やっぱり預けてしまって正解だったなー。


 ……って待て。なんで俺はまたヒマワリのことを考えてるんだ。

 もう関係ないんだ。考える必要なんてないんだ。


 頭をぶんぶんと振って頭からヒマワリを追い出す。

 さ、さあまだ腹は満たされてないぞ! 次の獲物を探すぞー!




 今日は大収穫だった。カオスシマウマの次はまさかゴールドエレファントを見つけられるなんて。今日の俺少し幸運すぎないか?

 いやーひさびさ腹も満腹だ。これ以上食えないくらいに獲物を狩れた。

 結構ゴールドエレファントが余ってしまったから洞窟まで引っ張るとするか……。


 しっかり焼けばヒマワリも食うかな――ってだからいないんだって。

 なんで毎回ヒマワリのこと考えちゃうかなー。もういないってのに。


 もう一度ぶんぶんと頭を振って、今後の食料としてゴールドエレファントを洞窟まで運んでおこう。少し遠いけど、別に気にすることはない。なんだってこの雪原で俺に挑んでくるような奴はいないからな!




 洞窟に戻って来る頃には吹雪き始めてきたが、その程度で寒さを感じる俺ではない。

 とりあえずゴールドエレファントをしっかり焼くことにした。

 ボワッ、と一気に焼いてしまおう。多少焦げても構わない。

 こんがりと焼けたら食べやすいように爪で切り分けて洞窟内に運ぶ。

 こうしておけばヒマワリも食べやす――だから!


「ガウッ!(いねーんだよ!)」


 ほんと、なにしてんだか。

 いない奴のために肉を用意する必要なんかないのに、どうして俺はこうもヒマワリのことを考えなくちゃいけないのか。

 あいつはもうイシャに育てられて人間として幸せに暮らすんだ。あのイシャって男が父親の方がもっと楽に生活も出来るだろ。

 何を好き好んでこんなフェンリルと暮らす必要があるのか。

 そんなものはない。ないんだ。


 いい加減切り替えよう。飯食って寝て飯でも食えばすっきり頭から抜けるだろう。

 そうと決まればさっそく寝よう。香ばしいゴールドエレファントの臭いを嗅ぎながら、俺は身体を丸めようとして。


 小さな声が、聞こえた。


「ガウッ!?(ヒマワリ!?)」


 俺がその声を聞き逃すわけがない。遠くでかすかに聞こえた弱々しい声。

 嘘だ。こんな所にいるわけがない。

 あの村からこの洞窟までは結構距離があるから、人間の、ヒマワリの足で来れる距離ではない。

 それに、イシャがしっかりとヒマワリを守るはずだ。

 だから、いるわけがない。いるわけがないんだ。

 でも、確かに聞こえた声に俺の身体は勝手に動いていた。

 吹雪の中を走り抜け、声の元へ一直線に。


 そして、吹雪舞う雪原の中に、ヒマワリがいた。

 雪の地面に身体を転ばせながら、洞窟のある方角――俺を目指して、手を伸ばしていた。


「ガウ……ッ!(ヒマワリ。どうしてここに!)」


「……あ、おとー、さんだ……」


 ヒマワリの身体は、びっくりするほど冷え切っていた。衣服を何重にも来ているというのに伝わってくるほどだ。


「けほ、けほっ」


「ガウッ!(しっかりしろ!)」


「わ、たし。わたし……おとーさんと、いたい、から」


「ガァッ!(喋らなくていい。とにかく暖まれ!)」


 俺はすぐにヒマワリを口に咥え、走り出す。傷つけてしまわないように細心の注意を払って。洞窟へはすぐについた。


 火を点けて、すぐ傍にヒマワリを下ろす。

 その手には小さな革の袋が抱えられていた。


「おくすり。もらったから、だいじょうぶ、だから」


 唇が紫色だ。明らかにやばい。

 冷え込んでしまっているから、とにかく暖めなければ!

 ヒマワリを包み込むように身体を丸める。

 どうにか、どうにかこれで!


「……あは。おとーさん、あったかい……」


 ヒマワリはうっとりとしている。少しは暖かく出来ているのだろうか。

 少しだけ身体をより丸くする。少し苦しいだろうけど、死んでしまうよりマシだ!


「わたし、おとーさんと、いっしょに、いたい……」


「ガウッ!(いいから! 一緒にいてもいいから! いいから生きろ!)」


 ヒマワリを暖めながら――不思議と安らぐ自分がいたことに、気付いた。

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