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幼女の名は。




 目覚めても幼女はいなくなっていなかった。ちぇー。

 俺は面倒くさがりだ。正直幼女を育てるつもりも追い払うつもりも失せていた。

 ただ、俺の邪魔をしなければ。

 俺の生活を邪魔しなければ、別にここに居着いても構わないだろう。


 まあそんなの無理だって三日経てばわかったけどね!

 この幼女フリーダムすぎる!


「見てみてお父さん雪だるま作ったよみーてーみーてー!」


 いやそんなことで俺が動くわけが――って一体どころか百体はいるじゃねえかすげえ!?


「どうですお父さんこの雪原にも草がありましたよ!」


 後ろにビッグボアがいる! 逃げろ逃げろって!!!

 しかも手に持ってる草は毒草だし!

 巨大なイノシシはこの後美味しく頂きました。


「お父さんかまくら作りました!」


 はいはい雪だるまの二番煎じだろ? なら見なくても――ってなんだこれ大仏!?


「お父さん私ならこんな難しい計算も出来るよ!」


 ……ごめんな。俺フェンリルだから人間の言葉は少しわかってもそんな難しいの理解出来ないんだ。



 と、そんなこんながあって三日も経てば俺は疲れ果てていた。

 く、くそう。どうして俺がこんなに振り回されなくちゃいけないんだ……。

 幼女は今日も元気に洞窟から少し出たところできゃっきゃと遊んでいる。

 商人が置いていった服の中を何枚も着て防寒しているようで少し動きづらそうだが。


 ……楽しそうにはしゃぐなぁ。


「グル……(少し、腹が減ったな)」


 動かなければ別に一週間くらいは腹も減らないんだが、ここ数日幼女に付き合わされて無駄な運動をした所為かやけに腹が減る。

 とはいえここで洞窟を出れば確実に幼女が付いてくるだろう。

 別に付いてくるのは構わない。

 だが、そこで俺が幼女を守るかどうかは別だ。


 じー、と幼女を眺める。

 毎日毎日雪と格闘して、何が楽しいのだろうか。

 人間の感覚は俺にはわからない。

 外見とは裏腹に幼女が賢い、というのはわかるが、それ以上のことは何にもわからない。


 幼女が何を考えているのか、わからない。まあそもそも他の奴の思考を考えようとしたことなんてないんだけどな!


 それでも、幼女の思考はわからない。

 魔物は単純だ。腹が減ったから獲物を狩る。敵に襲われたから返り討ちにする。眠くなったら寝る。実に単純な思考回路だ。

 俺のようにいろいろ考えることが出来ない奴の方が多い。

 まあ俺が凄いだけなんですけどね!


「お父さんどこか行くの! 私も行く!」


 ほら、ついてきた。

 俺は幼女の言葉は理解出来るけど、幼女には俺の言葉は届かない。

 考えてみれば俺は幼女の名前すら知らない。


 ……深く考えるのはやめよう。


 今はとにかく飯だ、飯。

 すぐに地面を蹴って走り出してもいいのだが、そうすると幼女を踏み潰してしまうかもしれない。


 ……あー、もー。


「きゃんっ!?」


 俺の前を歩き出そうとした幼女の服に爪を引っかけて、投げる。


「きゃー!?」


 最小限の力で、細心の注意を払って。ぼすん、と幼女は俺の頭の上に乗った。

 これで踏み潰す心配はないだろう。


「わ、わわわ。お父さんの上いい眺めー!」


 吹雪のない雪原はどこまでも広大な銀世界だ。それを俺の頭の上から見ればさぞ壮大だろう。


「もふー。もふもふー!」


 ……頭の上でごろごろ転がれると、非常に違和感はあるが。

 とりあえずそこにいれば俺が間違って殺してしまうことはないだろう。

 しっかりしがみついていれば、落ちる心配もない。

 この雪原にいる魔物ならそんな激しい動きをせずとも仕留められるし。




 さて、特に苦労もせずにビッグボアを狩れた。突進の威力は凄まじく、その分厚い毛皮の防御力も相当な猪だが、生憎ビッグボアに手こずるような俺ではない。

 すぐに横に回り込んで爪を喉に差し込み、出来た傷口に牙を突き立て喉を裂く。

 ビッグボアを狩るのに一分も必要ない。


「わぁぁぁぁぁ。お父さんすごーい!」


 狩りの一部始終を見ていた幼女が頭の上ではしゃいでいる。

 はっはっは。どうだ凄いだろ。


 ビッグボアの首に噛み付いて、持ち上げる。

 このまま洞窟の近くに持っていってちまちま食べるとしよう。

 ワイバーンよりも肉が多いビッグボアだからこそ出来ることだ。


 俺とほぼ同じ大きさのビッグボアは正直運ぶだけでも一苦労だが、死骸を放っておけば死骸に群がる犬たちが調子に乗るし。


「あれ、すぐに食べないんですか?」


 雪原の環境のことも考えているんだ。


 幼女は俺の行動を不思議に感じつつも頭の上で寝転がっている。ええい、足をばたばたするな!


 洞窟にはすぐ着いた。どうすっかなー。どうせこいつも少しは食うだろうし、また焼くかー。




「見つけたぞ! 人さらいのフェンリルめ!」


「……ガゥ?(はい?)」


 ビッグボアを焼こうと口内に力を込めたところで、いきなり声が飛んできた。

 声のする方向を見ると、そこには雪を踏みながら必死に洞窟目掛けて歩いてくる女が一人。

 革で出来た脆そうな鎧を着ている金髪の女は、俺の頭の上に乗っている幼女を見つけるとビシィ! と指差してきた。


「ヒマワリちゃん! 今この冒険者、ミカイラ・セレブレイトが助けるからね!」


 …………ほう。この幼女はヒマワリというのか。

 ミカイラとか名乗った金髪女は剣を引き抜くと一目散に俺目掛けて突進してきた。


 え、何か作戦でもあるのか?

 得体が知れないというか、奥の手なんてないだろこいつ。魔力も変な臭いもしないし。


「ガウッ」


「ぎゃんっ!?」


 とりあえず、軽く前足で叩いておくことにする。

 おいちょっと待て。それだけで簡単に吹っ飛ばされた挙げ句洞窟の壁に当たって意識を失うな!!!


 何しに来たんだお前は!!!

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