べ、別にチョロくないし!
助けたわけじゃない商人から何かいろいろなものを貰った。
が、その大半は衣服や小さな道具ばかりで役に立ちそうもない。
ちぇー。食料ないのかよー。ちぇー。
人間が使う“こうしんりょう”って奴を使うとさらに肉が美味くなるとは聞いたことがあるんだが、どうせならそれをくれればよかったのに。
「わ、わ、お洋服がいっぱいだー!」
幼女は木箱に押し込まれてる大量の衣服に喜んでいる。
おーよしよし。腹も満たされたし幼女もそっちに意識が移ってるみたいだし、俺はこっそり寝床に帰らせて貰うとしよう。
さらばだ幼女。元気に暮らせよ。
大小様々な衣類に夢中な幼女に気付かれないように、俺はこっそり寝床へと戻ることにした。
はっはっは。商人には「子育て頑張って」とか言われたみたいだけど俺には関係ないからねー。
……なんか尻尾が重い気がする。疲れか?
+
「ガー……(あぁー。腹もいっぱいだ。寝るか)」
雪原の中央にある巨大な一枚岩。そこに出来た洞窟が俺の根城となっている。
ここなら吹雪は吹き込んでこないし、奥には湧き水も出てきている。
まさにこの雪原の中のオアシス。暖を取るのも水を飲むのもここほど快適な場所はない。
それにここには俺の臭いが付いてるから、雪原の魔物は一切入ってこない。
入ってくるとしても無謀な人間くらいだしなー。そのくらいならさっさと排除できるし。
まさに俺の楽園! 雪原が寒いとかいうけど俺にとっては快適だし!
「グゥ……(あー眠い。よっこらせ)」
いつも寝ている場所で丸くなる。さっさと寝て、起きて、また飯を探しに行こう。
この雪原には俺の生活を邪魔できる奴なんていないし。俺がこの雪原の支配者だー。
では、おやす
「よっこら、せっ!」
「ガウッ!?(何故いる!?)」
「ここがお父さんの家なんだねー。あ、私ここの隅っこでいいから!」
「ガァッ!?(いつの間に付いてきていた!?)」
寝ようと丸くなっていたら隅っこを歩く幼女を見つけた。
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺もわからねぇ。
俺は確かに幼女を雪原の出口近くに置いてきた。放っておけばそのうちあそこら辺を通った奴が拾うだろうと考えていた。
あそこからここへは人間の足じゃあ結構な距離がある。ましてや幼女だ。
どうやってたどり着いた……!?
「ふっふっふ。私がどうしてここにいるのか、そんな顔をしていますね」
「グルルッ……(何者だ、貴様は)」
俺に気付かれずに後を付けれるとしたら、こいつはもう危険な存在だ。
俺の命をいつでも奪うことが出来る、そういう事態に繋がる。
場合によっては例え幼女であっても――!
「尻尾にしがみついてました!」
……あれー。確かに気配なんてなかったんだけどなー?
重みは感じていた。でもそんなものたいしたものでは無い。
あれか。幼女で軽すぎたか!?
いやでも気配とか感じれるわけだし。いくら俺がワイバーン食べ尽くして満足して眠かったからといってそんなこと!
……有り得る気がしてやばい。おいおい俺はフェンリルだぞ。人間がひっついてることくらい気付けないようじゃ、この雪原の頂点になんて。
「ところでお父さん、さすがに寒いんで火を点けて欲しいです!」
「ガルァッ!(マイペースか! そして誰がお父さんだ!)」
お父さん。いや、響きは悪くない。だが俺は泣く子も黙るフェンリルだ。暴れる魔物も萎縮するフェンリルだ。数多の冒険者を屠り、ついに俺を狙う冒険者すらいなくなった存在だぞ。
そんな俺が、お父さんだなんて!
「ガウッ(ファイヤー)」
「あったかいぃ~」
……っは! 何故俺は最小火力で炎を吐いているんだ!?
ち、違う。これは違うんだ! 決してお父さんって響きに惑わされたわけじゃないからな!
火を前にして暖を取っている幼女は幸せそうにぬくぬくしている。
人間にとってはこの雪原はあまりにも厳しい環境らしい。
なのにこの幼女は泣くこともしなかった。
……変なガキだ。
とりあえず満腹の俺は眠ることにする。幼女のことは起きてから考えよう。
「お父さん、“ふつつかもの”ですがよろしくお願いしますね!」
「ガウ……(勝手にしろ)」
『ひろってください』の看板を見せてくる幼女を尻目に、俺はもう一度身体を丸くする。
ふぁー眠い。別に俺を殺せるような幼女じゃないし。魔力も全然感じないし。
とりあえず無害だろ。というか、このフェンリル様がこんな幼女に殺されるわけないっしょー。
すやすや。