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ワイバーンの肉はほどよく火を通して。




 雪の大地を踏み締めながら疾走する。


「わー、はやいはやい!」


 頭の上で幼女がはしゃいでいるが、今は気にしないでおこう。

 ワイバーンの群れはすぐに見えてきた。合計六頭のワイバーンが一斉に馬車を襲い、積み荷を漁っている。

 俺は躊躇うこと無く地面を蹴り、積み荷を踏み荒らしていたワイバーンの喉元に噛み付いた。


「グワァンッ!(いただきまーす!)」


「ガァッ!?」


 ワイバーンを狩るのは簡単だ。なにしろ奴らは俺ほど速くないし力があるわけではない。

 気を付けるとしたら仕留め損ねて空に逃げられることだが、食らいついてしまえば俺ごと空中まで持ち上げることは出来ない。

 だから、まずは俺の勝ち。


 ワイバーンの首くらい噛み付けば一噛みでボトリといけますから。

 力を失って倒れた身体には目もくれず、まずは頭をがぶりと一口で。

 うーん、頭は微妙!


「ガルゥー!(二頭目ー!)」


「ギャンッ!?」


 俺を見てすぐに空中に逃げようとしていたワイバーンがいたので、ついでにがぶり。

 今度は足に噛み付いてそのまま地面に叩きつける。暴れようとしたところを足で押さえこんで首を噛み千切ればほら、二頭目も終わり。


「はわわ。お父さんすごーい!」


 ……ん?


 頭の上の幼女が何か気に障る言葉を言った気がするが、今はとにかくワイバーンだ。

 なにしろ一ヶ月ぶりの新鮮な肉だからな! 最初に首を落としたから結構血も出てるし。

 こいつらの血ってすーぐ臭くなるんだよ。だからさっさと首を落として血を抜かないとじっくり味わえない。


 二頭目のワイバーンを血が流れるように地面に寝かせ、一頭目にかぶりつく。


 ワイバーンは重い身体なのに空を飛べる。つまりそれだけ翼が発達している、引き締まった肉となっている。

 

 あー、うめー。引き締まってる肉ってかみ応えもあって本当に美味いわー。


「……お腹、空いたなぁ」


 ばりばりがじがじ。骨も美味い。

 がつがつぐちゃぐちゃ。内臓は……いらない。


「うぅ、生は……さすがに危ないよね?」


 ぐぅ、と可愛らしい小さな腹の声が聞こえたと思ったら、頭の上にいた幼女が二頭目のワイバーンの肉をじっと眺めて涎を垂らしていた。

 久々の上等な肉に俺はすっかりご機嫌だ。なんなら二頭目を少しくらい食われても構わないくらいだ。

 だというのに、幼女は何を遠慮しているのかワイバーンの肉へ食いつこうとしない。


 ふーむ……?


「うぅ、せめて火があればなー」


 火?

 まさかこいつ、肉を焼かなきゃ食えないとか贅沢を言っているのか?

 ワイバーンの肉に火を通す。それは確かに最高だ。

 以前試したことがあるが、滴る肉汁と凝縮された旨味によって思わず五頭分のワイバーンを一食で食べ尽くしたほどだ。


 ……火、か。


「ガウッ(よこせ)」


「あー。お肉ーっ!」


 ワイバーンの腕を爪で切り落として地面に転がせる。本当は岩とかを挟んで焼いた方が焼き加減を見極められるんだが、ないものねだりをしてもしょうが無い。

 なによりこんな新鮮なワイバーンの肉を食べられない幼女が少し可哀想だ。

 美味いものはみんなで共有しないとな、うん。


「ガァッ!」


 少し咳き込んで、喉の奥に力を貯める。

 空気を飲み込んで喉の奥で堰き止めて、一気に吐き出すと、たちまち灼熱のブレスと化す。

 これが俺の特技の一つ。灼熱のブレス!

 雪原でこれを使うと大抵みんな火に弱いからすぐに逃げ出すぞ!

 ……まあ、山の近くでやると雪崩も起きるんだけどな。


 っとと。いけないいけない。やりすぎると焦げ臭くなって食えなくなる。

 焦げたあの臭さと苦さといったらもう吐き出したくなるくらいだ。


「じゅるり……」


「ガウ(ほれ)」


 ほどよく焼けたところでブレスを止めると、ワイバーンの肉の表面はぎらぎらと脂で光っていた。滴り落ちる肉汁と少しレアに焼けた肉から立ちこめる濃厚な臭いが鼻につく。


「わーい! お肉ぅー!」


 幼女は満面の笑みを見せてワイバーンにかぶりついた。熱いと舌を出して、ふー、ふー、と息を吹いて冷まそうとしている。

 一口齧って、その笑顔が蕩ける。しっかりと焼かれたワイバーンの肉に舌鼓を打っている。


「おいひいです~~~~!」


 気に入ったのか、幼女はもう一口、二口とワイバーンの肉を頬張っていく。

 あまりにも幸せそうに食べる幼女の姿が、その、なんだ。

 結構可愛いじゃねえか。


 ……うーむ。しかしこうなると俺も焼いて食うか。だが一頭目はほとんど残ってないし、二頭目だけじゃ物足りなくなるだろうし。


 そうだ。もう少し狩ろう。


 ワイバーンたちはまだ上空に待機している。俺がいるから近づけず、チャンスを伺っているのだろう。

 だがそれこそが俺にとってのチャンス。俺がジャンプで届かない高度にいれば大丈夫だろうとかいう浅い判断は、そのまま死に直結する!


「ガ――――ウゥッ!(ビーム!)」


 空に向かって再び灼熱のブレスを吐き――口をすぼめて吐き出せる範囲を絞る。

 するとたちまち灼熱は光線に変化する。

 どう、俺のビーム。凄くない???


「ガッ!?」

「ギャウッ!?」

「ギャオォーーン!?」


 首を捻って逃げようとしたワイバーンたちを次々に薙ぎはらっていく。

 的確に翼を焼いて飛べなくして、地上に落としていく。

 三十メートルくらい高いところにいても無駄ですよーだ。

 大人しく俺の昼飯となるがいいっ!


「す、すげぇ……」


 足下で蹲っていたターバンを巻いた商人が空を見上げて圧倒されていた。

 ふふん。恐れ戦くがいい!

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