配属先、新しい仕事
迷いつつも仕事場には着いたんだ。
技術3課の作業場は、想像していたよりも広く、また、様々なな機械の作動音で騒々しい。
「デスクワークメインだと思っていたが、結構動きそうだな」
ノートパソコンを持ち、作業場へと急いでいるのであろう社員を見て、そう呟く。正直、ずっと座って仕事するよりは、動いて作業する方がありがたい。
「遅れてしまい申し訳ありません。本日よりこちらに配属になったのですが」
俺の近くで作業をしている社員に声をかける。
「はあ…ちょっと待ってくださいね」
これから何か作業をしようとしていたのであろう。俺の声かけに少しめんどくさそうにしつつ、そばにあった社内電話で連絡をしてくれた。
「鈴木さん、ですね?上の階に机とか用意してるらしいし、まずはそっちに行けばいいと思いますよ」
そう教えてもらい、その人は作業へと戻る。相当忙しいのだろう。
ありがとうございますとだけ言い残し、二階へと向かう。
二階は1階の喧騒とは対照的に、無音の中にキーボードをたたく音が響いている。
「すみません」
声をかけても、だれも反応しない。少し気が滅入ったが、こっそりと奥へ進む。
「すみません、本日こちらに配属いたしました、鈴木と申しますが」
俺から見て一番手前の席に座っていた方に声をかける。
「へっ、ああ、すみません、集中していて…」
声をかけた方は本当に作業に没頭していたのであろう。驚いてこちらを見、罰の悪そうな顔をした。
「こちらこそお忙しい中すみません」
軽く会釈した後、話を続ける。
「今日から配属されたのですが、私の机があると下で聞きまして」
「あ、今日から…鈴木さん、でしたか」
「はい」
「鈴木さんの席は私の向かい側ですよ」
「あ、そうなのですか。ありがとうございます」
向かいの席だったのか、と思いつつ、作業に戻られた方に一礼し、自分の机へ向かい、鞄を置きとりあえず席に着く。
机の上にはPCのモニタとデスクトップPC。それと、クリアファイルが置かれていた。
『目線追従型センサモジュール 赤外線認識部 詳細設計書』
おそらく表紙なのだろう。作成者と検認者の項目が空白の書類が、クリアファイル越しに見える。
机の上に置かれているこのファイルから見て、おそらくこの設計書にかかわる仕事をするんだろう。
なんとなくそう思いつつ、何もしないのも落ち着かないので、クリアファイルを手に取る。
「君が鈴木君か?」
中身を確認しようとしたとき、そう声をかけ、クリアファイルを持った方が俺の方に近づいてきた。
「あ、はい。今日からお世話になります」
椅子から立ち、クリアファイルを机に置く。
「今日からよろしく。あ、もうその設計書は読んだのかい?」
「あ、いえ、まだです。今机の場所がわかって席についたばかりで」
「そうか、ならよかった」
その人はそう言い、俺が机に置いたファイルを手に取る。
「間違えて設計書を置いてしまっててな。見てなくてよかった」
そう言いつつ、少し安心した顔を見せる。
「あ、そうだったのですか」
見られるとまずいのかな、と思うが、内容が気になる。
「君に見てもらいたいのは、こっちの書類なんだ」
その人はそう言って、最初から持っていたファイルを手を渡される。
『乗込式作業兼大会用起動装置、操作マニュアル』
渡された表紙にはそう書かれてあり、思わず凝視してしまった。
「これは…」
「うん、今日からね、君が試験官だ。まあバグ出しとか操縦技術の蓄積とか、やることは
多々あるが、頑張ってくれ」
操縦技術、バグ出し。
新しい仕事は何のことかさっぱりわからないまま、とても唐突に始まった。